- 古賀
- でも、遠くの5万人とか遠くの50万人にモテてる俺
っていうのを喜ぶ人も、確実にいますよね。 - 糸井
- それはものすごく面白いゲームだし、
僕なんかの中にそれはなくはないんだけど、
何人読んでくれてるっていう、まさしく100万人。
それはあの、「ええーっ」っていう
嬉しさがあるじゃないですか。
アルプスってあれか、日本か、日本のアルプスか、
じゃなくてヒマラヤとかさ、ああいうのが見える場所に
立ったことあります?
- 古賀
- いや、ないです。
- 糸井
- ないですか。たまたま立ったりしたときに、
「大きいなあ……」って思うじゃないですか(笑) - 古賀
- ああ、ナイアガラの滝で感じました(笑)。
- 糸井
- いいですよね。
- 古賀
- いいです、いいです。うん。
- 糸井
- で、「来て良かったなあ」って思うじゃないですか。
- 古賀
- 思います、思います。
- 糸井
- 人に「もしナイアガラの方に行くんだったら、
近く通るんだったら絶対行った方がいいよ」
と思うじゃない。あれですよね。 - 古賀
- はあああ。
- 糸井
- 僕はだから人に、結構、
ピラミッドは勧めてますもん。
俺、そんなもの見たかというと、
実は仕事でそんなもの見てないんですよ。
100万部なんてもう絶対ないし。
だから何が大きい数字かな、
っていうのは宿題ですね。
エベレストのふもとで、
「登れないけど、これかあ」
って思うみたいな。 - 古賀
- はい。
- 糸井
- それ宿題なんで、今やりかけてる仕事が、
初めて100万みたいなのの先のこう、
ビジョンとしては億だとかっていう単位で
数えなきゃいけないぞというところに
いってもいい仕事になったんです。 - 古賀
- はい。
- 糸井
- だとしたら、どういうふうになるかわからないけど、
億人の人がやる、っていうのを想像しながら
生きてみたいな
って思うじゃないですか。
それは「どうだ俺はすごいだろう」じゃなくて、
ヒマラヤですよ。
その仲間もヒマラヤって見られるのがいいよね。 - 古賀
- うんうんうんうん。
- 糸井
- 古賀さんが「すっごく、お金なんかないですよ」って子に
「ちょっと今儲かったから連れて行ってあげます」って、
ヒマラヤが見えるとこに立って「なあ」って言うと、
その子が「ほんとだあ」って言うじゃないですか。
その「ほんとだあ」が、自分以上に嬉しいですよね。
この間あったじゃない、それ。 - 古賀
- はい。うちの子が。
- 糸井
- ヒットしたんだよね。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- あれですよ。
- 古賀
- そうですね、あれは本当に、気持ちいいですね。
自分のこと以上にぜんぜん、その、
会社の子が10万部いって、
それは嬉しかったですね。 - 糸井
- それは嬉しいと思いますよ。
だから、なんだろう
「人が喜んでくれることこそが
自分の嬉しいことです」
っていうのを綺麗事として言葉にすると、
すごく通じないんだけど、
例で、あったでしょ、そういうことが。
たとえばお母さんが子供に、
お母さんは食べないで、
イチゴを食べさせるみたいな。
あれもまったく同じだし。
そういう経験をすればするほど、
人の喜ぶことを考えつきやすくなりますよね。 - 古賀
- そういうとき、その、遠くの5万10万、
あるいは億の人たちとかを考えるとき、
糸井さんの中では、
お金っていうのはたとえば
「ミリオンセラーになったら1億円だ」
とか、そういうような、
お金っていうのは想像しますか。
- 糸井
- あのね、人はそれをすぐに想像するので、
そこのところに対して無防備でいると、
その人の小ささに合わせて自分像が見えちゃうんで。 - 古賀
- ほうほう。
- 糸井
- それは嫌なので。
僕はお金に対してはちょっと警戒心があって、
「お金好きです」っていう発言を
ときどきするようにしています。そうしないと
「そうじゃないフリをしていたのに好きじゃねえか」
っていうふうに。 - 古賀
- むっつりスケベみたいな(笑)。
- 糸井
- 結構そこね、リスクなんですよね。
うーん、なんだろうなあ。
邪魔するのに、非常に都合がいいんですよ。 - 古賀
- 邪魔するのに都合がいい?
- 糸井
- あいつは、あいつの欲望のために何かしてる
っていうふうに思う、と。
たとえば古賀さんが、
何か「これは面白いぞ」ってことを考えて、
「俺もそれやりたいです、参加させてください」
って言った人に、
「それをやればやるほど古賀さんが
儲かる仕組みなんだよ」って誰かが言ったら、
動きにくいんですよ。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- だからもっと屈託なくやるためには、
お金について僕はこういうふうに思ってますし、
具体的にこうですよねっていうのが、
わりといつも見えるようにするというか、そこはなんか、
それこそ管理しないとできないですね。 - 古賀
- それはその、喜びの源泉として
「おっ、1億円」とか、
そういうものはあったりするんですか。 - 糸井
- それはまったくないですね。
- 古賀
- ないですか。
- 糸井
- なぜないかっていうと、
僕が求めて得られるような数字って、
お金で言うと、ちっちゃいからですよ。
どうしたってちっちゃいですよ。
街歩いてたときに、チンケなビル
いっぱい建ってるじゃないですか。
これあなたのお金で建ちますか。
- 古賀
- そうですよね。
- 糸井
- 前提として、チンケなビルつったでしょ。
- 古賀
- ええ、はいはいはい。わかります。
- 糸井
- つまり、「古賀さん、その本売れて儲かったでしょ」
っていうのって、チンケなビル以下なんですよ(笑)。 - 古賀
- そうですよね、うん。
- 糸井
- なんでビルが建つかっていうのは、本当は違って。
つまり、借りて作るから建つんですけど、
でもそれにしても、そのお金で何か勝負するには、
やっぱりタネ銭にしかすぎないわけで。 - 古賀
- うんうんうん。
- 糸井
- そのくらいのお金で、
持ってるだの持ってないだの、
儲かりましたねとかっていうのは、
モテちゃって大変じゃないというのと同じような。 - 古賀
- はいはいはい。
それ気づいたの、いつぐらいですか。 - 糸井
- とっくです(笑)。とっくにわかってました。
- 古賀
- そうですか。20代とか30代とか?
- 糸井
- 30代ですね。
20代にはまったく、そういうタイプのお金は
見えないですから。
だから、千万単位が
「ああ、千万単位ってこういうことか」
って思うときがありますよね。
それがたぶん30代の初めぐらいで。
自分じゃずいぶん儲かったなって思うんですね。
でも、意味ねえなって。
実はみんなが思ってるのの半分ですよね、
税金だから。 - 古賀
- うんうん、そうですね。
- 糸井
- となると、
プロ野球選手の年俸とか見てても、
「この人が来年怪我しちゃったら、
これ実は、こんなもんなんだよね」っていうのを、
使い道として想像できるようになるんですよね。
そしたら、その、
ないがゆえにうらやましがってたり、
ひがんだりしてる人たちが言ってることって、
お門違いすぎて。 - 古賀
- そうですね、うんうんうん。
- 糸井
- 政府からくる補助金みたいなのを使って
こういうことをやろうとか考えてる人の方が、
僕らよりずっとやっぱり
お金のリアリティをわかってますよね。 - 古賀
- うんうん。
- 糸井
- これはだから、なんだろう、
いわゆる会社員の発想でお金を考え続けると、
やっぱり何もできなくなりますよね。 - 古賀
- そうかあ。
- 糸井
- たとえば、自分の知ってる人が
会社を辞めて企業したときに、
大きくてこのぐらい用意しなきゃならなかったろうな、
小さければこうだろうなみたいな、
ってだいたい想像つくじゃないですか。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- それ、すごい大きいお金なんだけど、
ちっちゃいですよね。みんなが
「俺たちが出したお金どうしてくれるんだ」
って言うかも知れないとか考えると、あんまり、
だから、スタートするときは、
僕はとにかく借りないとか、
そういう発想になりがちなのは、
わらしべ長者の方が、
最初からようかん1本もらうより、
やりやすいからなんです。 - 古賀
- うんうんうん、はいはいはい。
- 糸井
- その辺は、ちょっと先輩っぽく教えられますよね。
- 古賀
- そうですね。
- 糸井
- なかなか整理して考えられないんですよね。
- 古賀
- でもそれと、「じゃあお金はなしでやるよ」
っていうのとも、また違いますよね。 - 糸井
- ぜんぜん違います。
お金って、なんだろうなあ。
エンジンが回るみたいなとこがあって。
そのエンジンだって発想をするためにも、
ちっちゃいお金でうだうだしていると、
消し炭の奪い合いみたいになっちゃうんで。
<第6回へ続く>