- 糸井
- テレビの仕事についてははっきりと
やって良かったなと思いますね。 - 古賀
- その中に「コピーライターという仕事」を
みんなに知ってもらいたい意識は
おありだったんじゃないでしょうか。
僕も本を書く「ライター」という職業が
どういうものか声高に口にした方がいいのか、
やはり裏方としてマイクに徹するべきなのか。 - 糸井
- はいはい。
- 古賀
- たとえば極端な話ですけど
「たった1行でお金もらえていいね」なんて
糸井さんに憎まれ口を叩く人がいたと思うんです。
それに対して反論したい気持ちと、
「俺は1行で1,000万円なんだ」みたいに
あえて乗っかって吹聴する気持ちと
両方あったんじゃないかと想像します。
- 糸井
- それはね、自分でも当時はよくわかってなくて、
僕の言ってたことはたぶん厳密に言うと
「嘘」だったと思うんです。 - 古賀
- 嘘。
- 糸井
- 人って若かろうと歳を取っていようと、
大手の会社にいようと中小にいようと、
「業界のために」って言い方をしがちなんです。
そこに「その方が(自分も)楽だから」
って気持ちが混ざるんですよね。 - 古賀
- ええ。
- 糸井
- たとえば自分がサーカスの団長だったとして
周りからも「サーカス面白いね」って言われていて、
「これからもサーカスの火を絶やしません。
ほんと、サーカスは面白いですから」
というのは自然に言えますよね。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- つまりサーカス業が上手くいっていた方が
自分も上手くいくから。
人は誰でも、自分の居やすい状況を作りたい。
だから自分が大して売れてなくっても
「業界のために」なんて声高に言う。
それって、自分でも整理のつかないことで。
- 古賀
- はいはい。
- 糸井
- 「コピーライターっていう職業があってね」
「それはすごいもんだなんだぞ」と
誰かが言ってくれるなら僕も相乗りしたけど、
でも、何だろうな、それってほんとなのかな。 - 古賀
- それは、いま振り返って思うことですか。
- 糸井
- そうです。だから今もわかんないです、ずっと。
業界のために懸命な人がいるのはありがたいけど、
だって、その業界に人が押し寄せてきたら
ライバルを作ってるようなものですから。
お笑いの人がよく言うじゃないですか、
「俺は若手の芽を摘んでやる」って。 - 古賀
- 言いますね。
- 糸井
- あの方が、ちょっと本気な気がして。
自分だってプレイヤーなのに
「お笑い業界にどんどん面白い若手が
入って来たらいいですね」なんて……。 - 古賀
- たしかに。
- 糸井
- 古賀さんはどうですか。
- 古賀
- 僕は、そうだな、やっぱり
つい「業界のために」って言っちゃうし、
考えるんですよね。
たとえば自分が新人だったころには
格好いい先輩たちがいて。
今、自分たちもそうなれているだろうか。
若くて優秀な人に「格好いいな」「入りたいな」
って思われる場所を作れているか、って。 - 糸井
- ええ。
- 古賀
- 今、出版業界よりネット業界の方が
キラキラして見えるはずなんです。
だから負けじと、こっちも多少のキラキラを。
あの、サッカーの本田圭佑さんが
白いスーツを着たりポルシェに乗ってたり…… - 糸井
- あれは、あえてやってますよね。
- 古賀
- ああいう演出を僕らのような出版業界の人間も
やった方がいいのかなという思いは若干あります。
でも、三日三晩自分に問いかけてみたら……。 - 糸井
- (笑)
- 古賀
- もちろん「チヤホヤして欲しい」
という気持ちはどこかにあって、
それを良くないことと片付けるのは
あまりにももったいない原動力なんですが。 - 糸井
- そこを否定しちゃうと
人間じゃなくなっちゃうとこがあるからね。 - 古賀
-
はい。
だから「チヤホヤされたい気持ち」と
どう向き合って、下品にならないようにとか、
人を傷つけないようにして自分を前に進めるのか。
僕が今やるべきことは、それかなという気がします。(つづきます)