- 糸井
- 小説「アグニオン」がこのあいだ発売されましたよね。
これは、頼まれ仕事?
- 浅生
- はい。
- 糸井
- 自分からやりたい、と言ったわけではない?
- 浅生
- ないです。
頼まれてなかったら、やってないです。
- 糸井
- いままで、頼まれなくてやったことって何ですか?
- 浅生
- 頼まれなくてやったこと‥‥、
仕事でですよね?
- 糸井
- 仕事じゃなくてもいいです。
- 浅生
- ないかもしれない。
なんですかね、この、受注体質な感じ。
- 糸井
- 浅生さんって、入り口は受注だけど、
そのあとは頼まれなくてもやってることって
いっぱいあるように見えるんです。
入り口を「利用」しているように見える。
- 浅生
- 頼まれた相手に、ちゃんと応えたいっていうのが
ぼくのやりたいことなんです。
10頼まれたら、頼まれた通りの10を
納品して終わりだとちょっと気が済まなくて、
12ぐらい、16ぐらい返すっていう
感じにはしたいなっていう。
- 糸井
- 浅生さんの、あんな変な公式ホームページとか、
あれは受注じゃないでしょう?
- 浅生
- あれも、「話題になるホームページって
どうやったらいいですか」っていう相談をされて、
「じゃあお見せしますよ」って言って、
やった感じなんですよ。
こういうことです。
- 糸井
- いろいろ、裏方をやったり名前を変えたり、
隠したりしていましたが、
小説を出して、今までで一番「表」に
立ってるんではないかなという気がしますけど。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 日本で、一番「買ったけど読んでない」っていうことを
申し訳なさそうに告白する人の多い本。
- 浅生
- ほんとに、普段本を全然読んだことのないような
タイプの人が「買いました!」って。
なんか、申し訳なくて。
- 糸井
- 書くなよ(笑)!
- 浅生
- でも、発注されたからしょうがない‥‥。
- 糸井
- 細かく発注の段階を言うと、
どこからはじまったんですか?
- 浅生
- 一番最初は2012年かな。
そのころ、ちょっとNHKのツイッターが炎上して、
始末書を書いたりするようなことがあって、
ちょっと落ち込んでたんです。
落ち込んでてショボンとしてたときに、
新潮の編集者がやって来て、
「なんでもいいから、何かちょっと書いてもらえませんか」。
- 糸井
- そこが不思議ですね。
- 浅生
- 「なんでもいいから何か書いてもらえませんか」
「はぁ」みたいな。
最初に新潮の『yom yom』っていう雑誌を読んで、
「何が足りないと思いますか」って言われたんで、
「若い男の子向けのSFとかは、今この中にないよね」
みたいな話をして、
「じゃ、なんかそれっぽいものを‥‥」。
- 糸井
- えっ。そんなことだったの? ひどい。
- 浅生
- で、とりあえず10枚ぐらい書いてみたら、
SFの原型みたいなのになってて。
それを編集者が読んで「これおもしろいから、
ちゃんと物語にして連載しましょう」って言われて。
- 糸井
- SFはお好きだった?
- 浅生
- 嫌いではないですけど、そんなマニアではないです。
けど、いっぱい読んでます。
- 糸井
- この人ね、そのへんがずるいのよ。
無尽蔵なのよ。
- 浅生
- ずるくないですよ。
でも「あ、こういう物語なんだ」って、
書いてみるまで、わかんないですよね。自分でも。
- 糸井
- 終わったとき、作家としての新しい喜びみたいなのは?
- 浅生
- なんだろう、達成感というか、「よかった」っていうか。
自分で走ろうと思って走り出したマラソンではなくて、
誰かにエントリーされて走るマラソンを、
最後までちゃんと走れたっていう。
- 糸井
- また頼まれたら書くの?
- 浅生
- はい。
多分、嫌いじゃないんです。
けど、めんどくさいんです。間違いなく。
『アグニオン』が辛かったのは、
自分で物語を始末しなきゃいけない。
- 糸井
- 当たり前じゃん。
- 浅生
- 連載だったので、
それこそ1話とか2話に、とりあえず
この先どうなるかわかんないわけです。
自分でもどんな話になるかわからなくて、
いろいろ伏線を仕込むから、回収してかなきゃいけなくて。
- 糸井
- まったくわかってなかった?
- 浅生
- まったくわかってなかった。
ざっくりなんとなく決めてたんですけど、
2話の途中ぐらいから話変わってきてて。
- 糸井
- 『おそ松くん』とかを連載で読んだ経験のあるぼくには、
そういうのって全然気にすることないよって思うね。
だって、『おそ松くん』はおそ松くんが
主人公なはずなのに、六つ子の物語を
書いたはずなのに、チビ太とかデカパンとか
異形の者たちの話になっちゃってる。
- 浅生
- これも元々そうで、実は1回原稿用紙で
500枚ぐらい書いたんですよ。
書いて、最後の最後にそれまでの物語を
解決するための「舞台回し」として、
1人キャラクターを登場させたんですけど。
それを読んだ編集が「このキャラがいいね。
この人主人公にもう1回書きませんか」って言われて、
その500枚はだからもう全部捨てて、
もう1回そこからゼロから書き直したっていう。
- 糸井
- めんどくさがりなわりには、
やるんだよねえ。
でも、ぼくまだ読んでないんですよ。
ぼくは時代がちょっと違っててさ、苦しいのよ。
『アグニオン』っていうタイトルだけで苦しいもん。
そういうのタイトルなの? みたいな。
もっとなんか『神々の黄昏』みたいな、
そういうのにしてよ。
- 浅生
- なんだかわかんないタイトルにしたかったんです。
- 糸井
- わからなくしたいんだね。
ペンネームも明らかに本名じゃない人が書いてるし、
なんだかわからないものにする癖が
とにかくついてるんですね。
- 浅生
- そうですね。
‥‥ああ、そうかもしれない。
- 糸井
- 一生、自分でも、なんだかわからないんでしょう。
だから、このインタビュー、
一番ややこしいかもしれないですね。
表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。
でも、表現しない人生は考えられないでしょ。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 「受注」なのに。
そこですよね、ポイントはね。
- 浅生
- そこがたぶん、一番の矛盾。
- 糸井
- 「なんにも書くことないんですよ」とか
「言いたいことないです」「仕事もしたくないです」。
だけど、何かを表現してないと‥‥。
- 浅生
- 生きてられないです。
でも、受注がない限りはやらないっていう。
ひどいですね。
- 糸井
- 「受注があったら、ぼくは表現する欲が満たされるから、
多いに好きでやりますよ、めんどくさいけど」。
これは、自分もちょっとそこが
似てるんじゃないかなぁという気がしますね。
- 浅生
- かこつけてるんですかね。何かに。
- 糸井
- うん。そうかもしれないねぇ。
今日はおもしろくてむずかしいインタビューだった(笑)。
どうもありがとうございました。
- 浅生
- ありがとうございました。
(おしまい)