- 糸井
- ぼくは時代がちょっと違っていて、苦しいのよ。もう『アグニオン』ってだけで、そういうタイトルなの?みたいな。
もっとなんか『神々の黄昏』みたいなさ、そういうのにしてほしいよ、浅生さん。
- 浅生
- なんだかわからないタイトルにしたかったんです、もう。
- 糸井
- わからなくしたいんだ。
執筆は、どんなふうにはじまったんですか?
- 浅生
- 2012年頃、ちょうどぼくのNHK_PRのツイッターが炎上して、始末書を書くようなことがあって、ちょっと落ちこんでいたんです。
それでショボンとしていたら新潮の編集者がやってきて「何でもいいからちょっと書いてもらませんか」と言われて、「はあ」みたいな。
- 糸井
- えっ、そういうことだったの?
- 浅生
- 最初に『yom yom』という雑誌を読まされて「何が足りないと思いますか?」と聞かれたので、「若い男の子向けのSFなんかは、いまこの雑誌のなかにありませんよね」という話をしたんです。そうしたら「じゃあそれっぽいものを……」と。
とりあえず10枚くらい書いてみたら、おもしろいからちゃんと物語にして連載しましょうということになりました。
- 糸井
- 浅生さん、表現をしないまま一生を終えることだってできたじゃないですか。でも、表現しない人生は考えられないでしょ、やっぱり。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 頼まれ仕事なのに。
- 浅生
- そうなんです。それが困ったもんで。
- 糸井
- そこですよね、ポイントは。
- 浅生
- そこがたぶん一番の矛盾。
- 糸井
- 浅生さんは「何も書くことがない」とか「言いたいことはない」とか「仕事もしたくない」とか言いながら、だけど何かを表現していないと……。
- 浅生
- 生きられないです。
でも、頼まれないかぎりはやらないというスタンスで。ひどいですね。
- 糸井
- 何かを変えたい欲じゃないですよね。
- 浅生
- うん、変えたいわけじゃないです。
- 糸井
- 表したい欲ですよね。たぶん表現したいってことは、「よく見てみたい」とか「もっと知りたい」とか「いまの動きいいな」とか、そういうことでしょう?
- 浅生
- 画家の目が欲しいんですよ。画家って、見たとおりに見えてるじゃないですか。ぼくらは、見たとおりに見えていないので。
- 糸井
- ぼくなんかがふだん考えている「女性の目が欲しい」とか、そういうのと同じですね。表現する側が、表現を受けとる側の話をしていて、じつは表裏一体なんだよね。
- 糸井
- 書き終わったとき、作家として新しい喜びみたいなものは浅生さんにありましたか。
- 浅生
- 「終わった」っていう。なんだろう、マラソンを最期までちゃんと走れてよかったというか。達成感とかではなくて。
- 糸井
- だれかが「代わりに走ってくれ」って言ったみたい。
- 浅生
- 自分で走り出したマラソンではなく、だれかにエントリーされて走ったようなものなので。
- 糸井
- 浅生さん、頼まれるとイヤって言わない人だから。ドコノコのアプリを考えたときも、浅生さんがフリーになったばかりだっていうし、「入んない?」って言ったら「あ、じゃあそれならそれで」って。
- 浅生
- 基本、依頼は断りませんから。