つじつまは、合わなくってもいいじゃない
浅生鴨的、共生の倫理学
第2回 目立たないために、つきぬける
- 糸井
- 受注体質なくせに、表現欲は旺盛とは、
なかなかめんどくさいやつだね(笑)。
- 浅生
- だからといって、何か世の中に遺したいとか、
そういう気は毛頭なくて。
生きてる間は「楽しくしよう」みたいな感じです。
引きこもりがちな暮らしなんですけど、
それでも極力楽しく人と接したい。
ニコニコするのは上手じゃないので、
ニヤニヤして生きていこうみたいな感じです。
- 糸井
- そのまとめ方って、なんか展開がなくていいね。
ニヤニヤで全部まとめちゃうもんね。
- 浅生
- そうですね。ニヤニヤして生きていきたい。
- 糸井
- カブリオレとか買うじゃないですか。
ああいうのもニヤニヤして。
- 浅生
- ニヤニヤです。自分自身が楽しむだけじゃなくて、
あれを見た人の反応も想像して楽しめる。
- 糸井
- 車に屋根がないだけで、
ちょっとおもちゃっぽくなりますよね。
- 浅生
- そうなんです。で、あれを見た人たちが、
やっぱり「派手な車だ」とか‥‥
- 糸井
- 「寒いんじゃない」とかね。
- 浅生
- いろんなことを言うじゃないですか。そこがおもしろい。
- 糸井
- カブリオレ、すごく目立つよね。
でも、目立ちたくない気持ちが強いって、
さっき言ってたよね。矛盾するなぁ。
ずいぶん話は遡るんだけど、
神戸で生まれた浅生少年はどんな子だったの?
みんなと溶け込んでたんですか?
- 浅生
- 表面上は。どうしても目立ちがちなので、
目立たないようにする方法を考えていましたね。
しかも、中学時代がちょうど校内暴力時代なんです。
- 糸井
- 俺、それ知らないんですよね。
西部劇の中の
ならず者みたいな人たちだらけでなんでしょ。
- 浅生
- ほんとにすごい時代ですよ。
スクールウォーズの時代ですから、
ほんとに中学校の先生が‥‥
これ言うとみんなビックリするんですけど‥‥
ヌンチャク持ってるんですよ。
- 糸井
- またちょっとさ、脚色してない?
- 浅生
- これ、してません。
竹刀持ってる先生とヌンチャク持ってる先生がいて、
生徒が悪いことすると、竹刀とかヌンチャクで、
頭をたたかれる。
でも、生徒側も応戦して‥‥って今考えると、
マッドマックスの世界です。
- 糸井
- その中では、あなた何の役なんですか?
ヌンチャク部じゃないですよね。
- 浅生
- ぼくはうまく立ち回る。
- 糸井
- 何をやったんですか。
- 浅生
- 強そうな悪い奴がいたら、そいつの近くにいるけど、
積極的には関わらないっていう。
腰巾着までいかないポジションを確保していましたね。
- 糸井
- 戦国時代のドラマに出てきそうな。
- 浅生
- 真っ向から対抗するとやられるので、
真っ向から対抗はしない。
- 糸井
- 意外と体つきがいいから、強かったんですか?
- 浅生
- いや、ぼくは中学の頃なんかは、
ヒョロヒョロのちっちゃい感じでした。
ターゲットになるとしばらくイジメられるから、
とにかくターゲットされないように立ち回るんです。
- 糸井
- でもさ、考えとしてわかってても
相手が決めることだから、
なかなかうまくいかないでしょ?
- 浅生
- 相手が得することを、提供してあげればいいんです。
中学生だから単純で、褒めれば喜ぶわけですよね。
そのとき、
その子が思いもしないことで褒めるのがポイント。
つまり、喧嘩が強いやつに「喧嘩強いね」は
みんなが言ってるから、「君、字、キレイね」って言うと、
「おっ」ってなるじゃないですか。
- 糸井
- (笑)すっごいね、それ。
- 浅生
- そうやってポジションを(笑)
- 糸井
- 「字、キレイ」で。
- 浅生
- ものすごい嫌な人間みたい(笑)
- 糸井
- いやいや(笑)。ま、西部劇だからね。
- 浅生
- 生き残らなきゃいけないので。
- 糸井
- 一目置かれるってやつですかね。
- 浅生
- うーん。なんですかね。
ちょっと違う球を投げるというか。
- 糸井
- 今も似たようなことやってますね。
- 浅生
- 常に立ち位置をずらし続けてる感じは、
今も同じですね。
- 糸井
- 安定してると、弱みも強みもわかってきて、
いいことも悪いこともあるんだけど、
どっちもなくていいやと。
今日を生きよう、できるだけ楽しく。
- 浅生
- そう。今さえ楽しく生きられればいい。
- 糸井
- いやいやいや、なるほどね。それ動物っぽいですよね。
- 浅生
- 確かにそうですね。たぶん子どもの頃から、
あんまり目立ちたくないっていう気持ちが、
一番の動機なんです。
- 糸井
- 自然に目立っちゃうからでしょうね、やっぱり。
- 浅生
- 目立たない方法ってもうひとつあって、
逆につきぬけるぐらい目立っちゃうんです。
バーンって飛び抜けて目立っちゃえば、
それはもう普通の目立ってるとは違うので、
また違う立ち位置に行けるんですよね。
思い切ってワーッて前に。
- 糸井
- むっちゃ目立つっていうの、どういう経験?
- 浅生
- たとえば、みんながやらないようなことに
あえて手を挙げる。
いずれ押し付けられる可能性があるものに関しては、
自分から先回りしちゃうんです。
そうすることで、「自分で選んだんだ」っていうことを
自分自身に納得させる。
自分で目立つことを選んだから、
目立つのはしょうがないよねって思える状態にする感じ。
- 糸井
- NHK_PR時代なんて、
結構そういう開き直りを感じましたよね。
- 浅生
- ああ、そうですね。
- 糸井
- NHKっていう名前がついていながら、
twitterでつぶやくのは、なかなか‥‥
ノウハウがないじゃないですか。あれはおもしろかったね。
- 浅生
- おもしろかったですね。相当ムチャでしたから。
まぁ、あれも結局、やっちゃって飛び抜けちゃったほうが
楽になるっていうパターンです。
- 糸井
- NHK_PRは、
おもしろいが武器になっていたケースですよね。
- 浅生
- 総体として「なんかおもしろいかも」っていう
雰囲気だけはあるんですけど、よく見ると、
そんなにおもしろくない気もします。
- 糸井
- それは、自分の仕事だから感じることじゃない?
おもしろかったですよ。
「それは人が言ったことがないな」みたいなことが
結構ある、変なおもしろさ。
ものすごいツイートもしたし、
ものすごい人のツイートも見たでしょうけど、
あれはほぼ24時間みたいなものですよね。
- 浅生
- いや、あれはほぼやってないんですよ。
自動設定してあって、
だいたい前の日に翌日やることをワーッて書いて、
返信とかリツイートも全部タイマーで設定してあるんです。
リツイートされた本人だけは
「あ、これ昨日のやつを今頃リツイートしてる」
って思うんですけど、普通に見てる人たちは
リアルタイムツイートのように見てるんですよね。
- 糸井
- 「本人よりも見てるだけの人のほうが数が多い」
っていうよくわかってやってるわけだね。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 本人って1人だもんね。ツイッターってそうですね。
- 浅生
- 結局ツイッターって、
何だかんだ言っても1対1のやりとりなので、
その1対1を他人にどう見せるかを演出してあげると、
すごくやってるように見える。
ぼく、普通に番組作ったりしてたんで、
24時間ツイートできないですし。
- 糸井
- でも、俺なんかNHK_PR1号さんと、
何回かリアルタイムでやりとりしたことがあるよ。
- 浅生
- リアルタイムをたまに混ぜると、
- 糸井
- 混ぜるんだ(笑)
- 浅生
- 嘘にほんとを少し混ぜると、
全部が本当に見えるっていう。
それは映像もそうですよね。CG全部じゃなくて、
そこに実写の人を何人か混ぜるともう全部が‥‥。
- 糸井
- ジャングルブックですね。
- 浅生
- 実写に見えてくるっていう。まさにそういう感じです。
- 糸井
- そうか。とてもなるほどですね。
そういう作戦考えるのはわりとお好きなんですね。
- 浅生
- そうですね。何ですかね。
それもきっと強いワルとどう向き合うかに近いんです。
分析して構造を考えて、どこに何を置けばいいか、
何を言えばいいか考える。
- 糸井
- ほんと、戦国時代の人みたいですね(笑)。