つじつまは、合わなくってもいいじゃない
浅生鴨的、共生の倫理学
第3回 優しさをゆえの、意地悪なまなざし
- 糸井
- それにしても、
浅生鴨のインタビュー難しいよ(笑)
- 浅生
- キャッチボールじゃないんですよね。
ぼく、聞かれたときには
わりと丁寧に答えてはいるんですけど、
どうもその答えの方向が
求められてるのと違うことらしくて(笑)
- 糸井
- いや、違ってもいないですよ。
違ってもいないですけど‥‥。
次の質問をさせない答えなんですよ。
- 浅生
- 何でですかね?
ぼく、ごはんの食べ方が、そうなんですよ。
ぼく、いつも1品ずつ食べるんです。
- 糸井
- そういう感じしますよ。
やめなさい、それ(笑)
三角食べとかあるじゃないですか。
- 浅生
- そう。三角食べができなくて。
1つずつ全部キレイになくなってから‥‥、
だからいつもご飯がすごい余るんです。
- 糸井
- インタビューアーになったこともあるでしょ?
- 浅生
- あります。ぼくインタビュー得意です。すごく得意です。
- 糸井
- それ、相手が「何とかしたい」って思っちゃうんだろうね。
- 浅生
- ぼく、質問して相手が話し始めたら、
わりと黙ってじーっと聞いてるんですよ。
相手が沈黙に耐えられなくなって、
うっかりなことをしゃべっちゃったりするので、
結構なネタ拾えたりとかするんです。
沈黙とか孤独が、全然怖くないので。
- 糸井
- 相手が怖がってる状況で、
多少思いやりとかないもんなのかね。
相手は孤独とか沈黙、嫌だよ。
- 浅生
- 嫌だと思いますけど、
でもまぁぼくじゃないので。
- 糸井
- (笑)
- 浅生
- 嫌なら自分で何とか‥‥
- 糸井
- 何とかしなさい(笑)。他人っていうの考えたことないの?
- 浅生
- たぶん…ないですね。自分がどう思ってるかだけで、
もういっぱいいっぱいというか。
もちろん、ぼくは優しい人間なので
「この人はこういうふうに感じてるだろうな」とか
わかるほうではあるんです。
だからといって、そこを何とかしてあげたい、
とまでは思わないんですよね。
- 糸井
- でも、女川の手伝いとか、
そういうのはするじゃないですか。
- 浅生
- はい。それは、
ぼくが楽しいからやってるんであって、
嫌なら行かないですから。
- 糸井
- 神戸の震災に関しては、
自分の実家がある場所だから、
関わらずにはいられなかった?
- 浅生
- でも、神戸の震災のときも、揺れたときは
現場にいなかったんですよ。
その頃、ぼくは大きな工場みたいな場所で働いていました。
そこの社員食堂のテレビを見てたら
ワーッと燃えていて、死者が2千人、
3千人になるたびに周りで盛り上がるんですよ。
「おぉーっ」とか、
言ってみればもう「やったー」みたいな感じで。
ゲームを観ているみたいに盛り上がっているのが、
耐えられなくて。
それですぐに神戸に戻って、
水を運んだり、避難所の手伝いをしたりを
しばらくやっていました。
- 糸井
- あれが神戸じゃなかったら、
また違ってたかしらね。
- 浅生
- 全然違うと思います。
たぶん、実家がなかったら
ぼくは行ってないと思います。
もしかしたら「2千人超えたー」って言う側に
いたかもしれない。
つねに、ぼくが「やったー」って言う側にいないとは
言い切れない。むしろ言っただろうなと思う。
- 糸井
- それは、すごく重要なポイントですね。
浅生さんが、自分が批難してる側に
いない自信のある人ではないってことは、
大事ですよね。
- 浅生
- 自分が悪い人間だというおそれが
常にあるんです。自分の中の悪い部分が
フッと頭をもたげることに対する
すごい恐怖心もあるんですよ。
だけど、それはなくせないので、
「ぼくはあっち側にいるかもしれない」って
いつも意識はしてますね
- 糸井
- そのとき、その場によって、どっちの自分が出るかは
そんなに簡単に、わかるもんじゃないですよね。
- 浅生
- わからないです。
- 糸井
- 「どっちでありたいか」っていうのを
普段から思ってるっていうことまでが、
ギリギリ、できることですよね。
- 浅生
- よくマッチョな人が
「何かあったら俺が身体を張って
お前たちを守ってみせるぜ」って言うけど、
いざその場になったら
その人が最初に逃げることだって十分考えられるし。
多分それが人間なので、そう考えるといつも不安‥‥、
「もしかしたら、ぼくはみんなを捨てて、
逃げるかもしれない」って不安も持って生きてるほうが、
いざというときに踏みとどまれるような気はするんですよ。
- 糸井
- 選べる余裕みたいなものをつくった上で、
どうなりたいか、だよね。
そうすると、一色には染まらないですよね。
- 浅生
- 染まらないです。
- 糸井
- 「自分がやりたいと思ったこと、ないんですか」
「ない」っていうのは、
俺もずっと言ってきたことなんだけど、
自分から動いてやることもたまには混ざるよね?
- 浅生
- NHKにずっといて自分からやったのは、
東北の震災のあとにつくったCM2本ですね。
震災から17年経った「神戸の今」を伝える内容でした。
「何で東北じゃなくて神戸なんだ」って言われて、
最初は企画が通らなかったですけど、
見切り発車で自腹で製作しました。
それぐらいです、自分からやろうと思って作ったのって。
あとはだいたい受注ですね。
ぼく、女川にはわりと直後から行って
FM局の立ち上げに関わったりしてたんですけど、
そのことをあまり言わないようにしていました。
言うとまた余計なことが起きそうな気がしたんで、
こっそりずっとやってたんです。
よくメディアの人が、
一次情報が大事だって言うんですけど、
自分がそこ行って見たからって
全部見てるわけでもないし、それが全てでもないから、
そんなに一次情報って信用してないんですよ。
でもまぁ、少なくとも自分が知る範囲では、
知ることができる。
そのファクトに基づいてものが言えるのは、
ちょっと安心というか、
実感がないまま何か言うのは嫌だなと思っていたんです。
- 糸井
- 1回パッと見たから何かっていうことは、絶対ないと思う。
あと、被災地に役に立つような手に職があったり、
頭が良かったりすればいいけど、
俺らが「しょっちゅう行ってるんですよ」って言っても…
- 浅生
- 「そうですか」
- 糸井
- そうそう。「もう来なくなっちゃうんだろうね」って
心配されたりね。それに対して、
「不動産屋と契約したから2年はいます」とか、
誰もができることをやることが、
大切だったりするよね。
- 浅生
- ぼくは東北の震災のとき、寄付したくなかったので、
福島に山を買ったんです。
もちろん、すごい安いんですよ。
山林で、ぼくが買える程度の金額ですから。
でも、山を買うとどうなるかというと、
毎年固定資産税を払うことになるんですよ。
そうすると、ぼくがうっかり忘れてても
毎年9月には自動的に引き落とされるので、
ぼくがその山を持ってる限りは、
永久に福島のその町とつながりができるんです。
- 糸井
- 多分、浅生さんとぼくは
「ああいうのが嫌だな」っていう感覚が
似てるんじゃないかな。
意地悪なんだと思う、2人とも。
- 浅生
- ぼく、意地悪じゃないですよ(笑)。
- 糸井
- 意地悪というか、
嫌なものがあるんですよ、いっぱい。
「何で嫌なんだろう」と考えて、
「自分はそういう嫌なことしたくないな」って思う。
- 浅生
- なるほど。だからぼくは、ストラクチャーを構築する。
- 糸井
- いい訳してる。
- 浅生
- ストラクチャーを構築してシステムにしちゃうと、
何もしなくても目指した方向へいくので、
それがいいんです。
- 糸井
- ぼくが言ってることと同じじゃない。
予算に組み込んじゃうとかさ。
「人は当てにならないものだ」とか、
「人って嫌なことするものだ」とか、
「いいことって言いながら嫌なことするもんだ」とか、
そういう意地悪な視線っていうのは、
鴨さんのエッセイとか小説とか読んでても、
明らかにそういうもんだらけですよ、やっぱり。
でもそれって、裏を返せば「優しさ」だよね。
西川美和さんの映画、『永い言い訳』が、
ものすごくいいんだよ。
女性ならではの、ほんとに意地悪な視線が
活きてるのよ。
で、それは、裏を返せば優しさなんだよ。
- 浅生
- ぼくにとっては、不思議なんですよね。
人間ってみんなに裏表があるのに、
ないと思ってる人がいる。
- 糸井
- 「私はあんな風にはならない」とかね。
- 浅生
- そんなのわかんないですもんね。
- 糸井
- 縁があればするし、
縁がなければしないんだよっていう話でさ。
浄土真宗の考えだよね。
東洋にそういうこと考えた人がいたおかげで、
俺はほんとに助かってる。
- 浅生
- 仏教のそもそもが、
「何かしたい」、「何かになりたい」、
「何かが欲しい」と思うことすべてが苦行だから、
それらを全部捨てると悟れる、
という教えですからね。
やっぱり、別に何かやりたいことがないほうが、
いいんですよ。
- 糸井
- ブッティストだね。
そういうブッティスト的な時期があったの?
- 浅生
- いや、まったくないです(笑)