糸井

先日、新聞に「これが俺だ」みたいな感じで
自分の写真が出ちゃったが、もう問題ない？

浅生

もういいです、はい。

糸井

今まで出さないでいた理由っていうのはなんですか？

浅生

何か「めんどくさい」です。

糸井

まずは、あの写真でわかっちゃったことだけど、
「あなた日本人じゃないですね」っていうことで、
「ワカリマセン」って言えば、通じちゃうような外見ですよね。

浅生

ただ、意外に通じないですよね。

糸井

「お前日本人だろう」って言うの？

浅生

うん。半分ぐらい言われるのです。

糸井

半端ですね。

浅生

それをいちいち説明するのがもう、めんどくさいです。
「ぼくは、日本生まれの日本人なんですけど、
父方がヨーロッパの血が入ってて…」を、
毎回言わなきゃいけないんですね。
聞く人は１回なんですけど、
言う側は子どもの頃から何万回って言ってて、
もう飽きてるんですよね。

糸井

ということは、暗に「ここでも聞くな」というふうにも聞こえますけど。

浅生

そんなことないですけど。
怪我でギプスをしてると「どうしたの」と聞かれて、
最初２回ぐらいはいいんですけど、
飽きてくると、ちょっと茶目っ気が出てしまう。

糸井

嘘を混ぜる。

浅生

そう、ちょっとおもしろいこと混ぜちゃったりするようになるんですよ。
すごいおもしろいことになってたりして。
だんだん「もうめんどくさい」って思って、
あんまり世に出ないようにするっていう。

糸井

嘘つきになっちゃったわけですね。
飽きちゃったから。
めんどくさくなければ、１回か２回聞かれるんだったら本当のことを言ってたんだけど。

浅生

だんだん、もうめんどくさいから、
相手が誤解で「こうじゃないの」って言ったときに
訂正もめんどくさいから「そうなんですよ」って言うと、
そうなるんですよね。

糸井

なりますね。思いたいほうに思うからね。

糸井

幼少のみぎりは、見た目とか「あ、日本語喋れるんだ」的な、
そういうようなことですよね。

浅生

そうです。まあ、今でもたまにありますけどね。

糸井

ぼくも最初に会ったときに、
「この外国の人は、流暢だな」って思ったもん。

浅生

やっぱり「日本語上手ですね」っていう人はいて、
「いや、お前よりな」って思うことが多いですけど。
「お前より絶対流暢」って思いますけど（笑）。

糸井

見た目だとか国籍がどうだとかっていう話は、
ずっと続いてきたのですか？

浅生

ずっとですね。多分、それは一生。
日本人として日本で生きていく限り、
多分ずっとまだ続くだろうなって。

糸井

浅生さんが人生を変えるような経験についても、
もう何万回しゃべってる？

※浅生さんの「人生を変えるような経験」とは
31歳の時、バイクに乗った時、大型の車にぶつかった事故で通常命がなくなるような状態で病院に運び込まれて、大手術をして一命をとりとめた。入院、車椅子生活、リハビリを経て、また徐々に歩けるようになった。

浅生

でもまぁ、ほんとにぼくはそれで「死ぬ」ということがどういうことかを‥‥、もちろんほんとに死んでるわけじゃないんですけど。

糸井

でも、心臓は止まってたんですよね。

浅生

一瞬ですけどね。やっぱり「死ぬとは何か」をちょっと理解したんですよ。

糸井

身体でね。

浅生

体験した。
「死ぬ」はそんなに怖くないんですけど、
だからといって死ぬの嫌ですから、
怖いのと嫌なのは別じゃないですか。
怖くはなくなったんですよ。死ぬってこういうことかと思った。

糸井

より嫌になるでしょうね、きっと。

浅生

なんか、すごく淋しい。

糸井

それはね、若くして年寄りの心をわかったね。
俺は年を取るごとに、死ぬの怖さが失われてきたの。
映画の中で、自分が死ぬシーンをもう想像していて、
そのときに、何か一言いいたいじゃない。
それをしょっちゅう更新してるの。
結構長いことこれがいいなと思ってたのは、
　
「あー、おもしろかった」っていう。
　
これが理想だなと思ったの。
この頃は違うの。
最期に、「何か言ってる！」って言ったら、
　
……「人間は死ぬ」っていう（笑）

浅生

真理を。

糸井

「人間は死ぬもんだから」っていう、
それを言って死ぬのを一応みなさまへの最期の言葉にかえさせていただきたいと思いますよ。

浅生

人間は死にますから。

糸井

うん。