- 糸井
- 浅生さんが人生を変えるような出来事についても
さんざん聞かれたと思いますが。
それについても、もう何万回も話してますよね?
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- このまんま対談には入れないようにしておこうか(笑)
人生を変えるような大事件が
浅生さんの身の上に起こって‥‥。
語らない、ここでは(笑)
【※ほぼ日注:最後に追加取材してます】
- 浅生
- 「すごいことが起こったんです。でも言わない」(笑)。
ヒドイです。
でもまぁ、ほんとにぼくは
それで「死ぬ」ということがどういうことかを‥‥、
もちろんほんとに死んでるわけじゃないんですけど。
- 糸井
- でも、心臓は止まってたんですよね。
- 浅生
- 一瞬ですけどね。
やっぱり「死ぬとは何か」を
ちょっと理解したんですよ。
- 糸井
- 身体でね。
- 浅生
- 体験した。
ほんとかどうかわからないにしても。
よく、体験したことないのに、
死ぬのが怖くないから
俺は何でもできるみたいな人がいるけど、
それは嘘で。
別にぼくは体験したから、
「死ぬ」はそんなに怖くないんですけど、
だからといって死ぬの嫌ですから、
怖いのと嫌なのは別じゃないですか。
怖くはなくなったんですよ。
死ぬってこういうことか。
- 糸井
- より嫌になるでしょうね、きっと。
- 浅生
- より嫌になる‥‥、うーん。
- 糸井
- どうですかね、そのへんは。
- 浅生
- なんか、すごく淋しい。
- 糸井
- それはね、若くして年寄りの心をわかったね。
俺は年を取るごとに、死ぬ怖さが失われてきたの。
もう最後死ぬときに、
自分が「お父さん」とか呼ばれながら
死ぬシーンをもう想像してるわけ。
そのときに、何か一言いいたいじゃない。
それ、しょっちゅう更新してるの(笑)。
「これでいこう」っていうのがあって、
で、結構長いこといいなと思ってたのは、
「あー、おもしろかった」っていう。
これが理想だなと思ったの。
嘘でもいいからそう言って死のうと思ってた。
最近変わったの。
さぁ命尽きるっていう最期に、
「何か言ってる、何か言ってる」って言ったら、
「人間は死ぬ」(笑)
- 浅生
- 真理を(笑)
- 糸井
- そう(笑)
「人間は死ぬもんだから」っていう、
それを言って死ぬのを一応みなさまへの最期の言葉に
かえさせていただきたいと思いますよ(笑)
- 浅生
- 人間は死にますから。
- 糸井
- うん。
- 浅生
- 養老先生でしたっけ、
人間の死亡率100%であるって。
- 糸井
- うん。明らかにわかってることはね、
それは遺伝子に組み込まれてるからっていう。
- 浅生
- そうなんです。
- 糸井
- 「死ぬ」がリアルになったときに、
同時に「生きる」のことを考える機会が多くなりますよね。
それはどうです?
- 浅生
- そうですね。
だからといって、何か世の中に遺したいとか、
そういう気は毛頭なくて。
ただ、死ぬということが、
ぼくはすごく淋しいことだと体験したので、
生きてる間は「楽しくしよう」みたいな。
だからといって、
知らない人とワーッてやるのは苦手なので、
パーティー行ったりとかする気は全然なくて、
むしろ避けて引きこもりがちな暮らしなんですけど、
それでも極力楽しく人と接しようかなっていう。
だいたい日頃、ニコニコするのは上手じゃないので、
ニヤニヤして生きていこうみたいな感じです。
- 糸井
- そのまとめ方って、
なんか展開がなくていいね(笑)
ニヤニヤで全部まとめちゃうもんね。
- 浅生
- そうですね。
ニヤニヤして生きていきたい。
- 糸井
- ニヤニヤね(笑)
緊張感があるときって、ニヤニヤしますよね(笑)
- 浅生
- 先生に怒られてるときとか、
必ずニヤニヤしますよね。
- 糸井
- そういうことで怒られますよね(笑)
出身は神戸で‥‥?。
- 浅生
- 神戸でニヤニヤして‥‥。
- 糸井
- 生まれて(笑)
- 浅生
- 多分、生まれたときは
ニヤニヤしてないと思うんですけど(笑)
- 糸井
- ニヤニヤ、オギャーみたいな(笑)
最初のところで出てきた、
「事故の話」を追加取材しました。
死ぬことが怖くなくなったという。
いつ、何なのかがまったくわからないので、
ほぼ日のインタビュアーを交えて話していただきました。
- 浅生
- すごく簡単に言うと、
ぼくがオートバイに乗ってて。
- 糸井
- 何歳だっけ?
- 浅生
- 31歳ですね。
- 糸井
- 結構大人になってからなんだよね。
- 浅生
- そうそう。大人になってからです。
31歳のときに、バイクに乗ってて、大型の車とぶつかって
足をほぼ切断し、身体も内蔵いっぱい破裂し、
3次救急って‥‥
もう要するに死んでる状態で病院に運び込まれて、
そこから大手術をして復活したんですけど。
それから1年ぐらいは入院してて、
そこからずっと車椅子生活を。
最初は「一生歩けない」って言われたんですけど、
リハビリずっとしてるうちに
少しずつ歩けるようになって今に至ると。
大事故で、ほんとに普通なら死んでる。
ぼく自身も何日かは覚えてないんですけど、
しばらくの期間は意識不明というか、植物状態というか、
周りとはまったく意思の疎通が
取れない状態になってたんですけど、
ぼくの中では世界が歪んだ状態で認識されてるっていう。
そういう日々を。
- 糸井
- 何日ぐらい?
- 浅生
- 正確にはわからないんですけど、
多分10日ぐらい。
- 糸井
- 意識不明が?
- 浅生
- 意識不明というか、
意識混濁というか‥‥。
多分、妻の日記とか見るとわかると思うんですけど。
- 糸井
- そのときには妻いたんですね。妻も大変だったね。
- 浅生
- 大変なんですよ。
とにかくぼくは事故にあって運ばれて手術を受けて
そのあといよいよその日の夜がやっぱりヤマなんですよね。
そこ越えれば生きられるけど、そこで大概は死ぬっていう。
もちろんそれは言われてないんですけど。
ただ、ぼくは、
「ここで死んだら妻にものすごく怒られる」って思って(笑)
妻がちょうど海外出張してて連絡が取れない。
ぼくが連絡とる術もないので、
でも何らかの方法で妻に連絡は行ってたんですけど。
妻に会って謝ってから死のうと思ったんです。
もう死ぬのはわかってたんで、一言「ごめん」って言って、
申し訳ないって言ってから死ねば、
そんなに怒られずにすむだろうと思って。
そしたら妻に連絡取るのに1日かかり
妻は海外にいたので戻ってくるのにまた中1日かかりで、
2日ぐらいかかっちゃったんです。
だからその間に峠を越しちゃったっていう(笑)
- 糸井
- 謝らなきゃならないから?
- 浅生
- そう。もうとにかく謝るまでは死ねないと思って。
- 糸井
- それはちょっとした意識があるんだ。
- 浅生
- そうです。
とにかく謝るまでは死ねない死ねないと思ったら、
2日か3日もっちゃって。
妻が来て「ごめん」って謝って、
意識がなくなったんですよ。
- 糸井
- え、そこから意識がなくなった?
- 浅生
- そこから意識がなくなった。
そこまで何とか意識あったんです。
もう怒られたくない一心。
- 糸井
- 愛の物語と言えなくもない(笑)
付随していっぱいいい話があるんだけど、
リハビリになぜ頑張ったかっていうと、
お金がもらえないからなんだよね。
- 浅生
- そうそう。
- 糸井
- 事故の‥‥。
- 浅生
- ぼくと同じときに
同じような事故でやっぱり入院した人がいて、
年も同じぐらいだったんですけど。
その人は事故の相手が結構大きな会社の社長さんで、
わりと初期の段階から弁護士とかが来て
「3億は堅いですよ」みたいな話をしてるわけです。
同じ病室で。
こっちは、無保険の車だったので、
ビタ一文出ない状態なんですよ。
とにかくだからぼくは
早く社会復帰して働かなきゃいけないと思って、
一生懸命リハビリするんです。
ところが、その同じ病室だった人は、
治れば治るほど慰謝料が減るんで‥‥、
つまり後遺症が重ければ重いほど金額が高くなるじゃないですか。
だから、あんまりリハビリを頑張らなかったんですよ。
それで、結果どうなったかっていうと、
ぼくは今こんな感じなんですけど、
その人は多分今もまだちゃんと歩けない状態。
- 糸井
- オープンカーでぶっ飛ばしてるからね、
今じゃ。その話すごくいいっていうと変だけど‥‥。
ものすごい経験だよね。
- 浅生
- イソップ童話みたいですよね。
- 糸井
- ねぇ。すごいよねぇ。
- 浅生
- でもまぁ、彼の気持ちもすごくよくわかるんですよ。
- 糸井
- それはそうだ。そっちはそうだよ。
- 浅生
- ぼくもそっち側だったら、
ほんとに1秒でもリハビリ遅らせて‥‥
やっただろうなと思うんですよね。
(第3話につづきます)