この回も、インタビュアーの永田さん
(ほぼ日編集)が参加してます。
- 永田
- せっかく浅生さんのインタビューなんで。
『アグニオン』という本を持ってきちゃいましょう、
この机の上へ。
こういうふうにすると
空気も変わってくるんじゃないでしょうかね。
- 浅生
- はい。
- 永田
- 小説は頼まれ仕事?
- 浅生
- はい。
- 永田
- 自分からはやらない?
- 浅生
- やらないです。
- 糸井
- おしまい、ね?
- 永田
- 頼まれなかったらやってなかった?
- 浅生
- やってないです。
- 糸井
- おしまい。
- 永田
- 頼まれなくてやったことって何ですか?
- 浅生
- 頼まれなくてやったこと‥‥、仕事でですよね?
- 永田
- いや、仕事じゃなくてもいいです。
- 浅生
- (20秒ほど沈黙)・・・ないかもしれない。
- 永田
- おぉー。
- 糸井
- おしまい。1個ずつ全部おしまいだ。
- 浅生
- ちょっと頑張ります。つなげる何かを。
- 糸井
- 頼む(笑)
- 浅生
- 国枝のラリーのように(笑)
- 糸井
- 頼む。(笑)
無理にとは言わない。
それにしても、ほんとに難しい。
浅生鴨インタビューって(笑)
- 浅生
- でもぼく、聞かれたときには
わりと丁寧に答えてはいるんですけど、
どうもその答えの方向が求められてるのと
違うことらしくて(笑)
- 糸井
- うん。そうかな、そうなのかな。
- 浅生
- 何かが違うみたいです。
- 糸井
- いや、違ってもいないですよ。
違ってもいないですけど‥‥。
- 浅生
- それほど出てこないみたいな。
- 糸井
- 違うんですよ。次の質問をさせない答えなんですよ。
- 浅生
- はぁ。
- 糸井
- 次の質問の隙間がモアっとしてあって、
目がそっちに行くように話ってできてる。
でも、あなたと話してると、
1つ終わると終わっちゃうんですよ(笑)
- 浅生
- 何でですかね?
ご飯の食べ方が、ぼくそうなんですよ。
幕の内弁当でもいいですし、
定食でも普通におかずとご飯とってありますよね。
ぼく、1品ずつ全部食べるんです。
- 糸井
- そういう感じですよ。
- 浅生
- 何ですかね、この受注体質な‥‥。
- 永田
- 入り口は受注だけど、
そのあとは無駄に頼まれなくても
やってることっていっぱいあるように見えて、
むしろ過剰に。入り口を利用して。
- 浅生
- 頼まれた相手に、ちゃんと応えたいっていうのが
過剰なことになっていくような気はするんですよ。
10頼まれたら、頼まれた通りの10を納品して終わりだと
ちょっと気が済まなくて、12ぐらい、16ぐらい返すっていう
感じにはしたいなっていう。
やりたいことがあんまりないんですけど、
やりたいことは期待に応えたいっていうこと。
- 永田
- 何にも無いと、自分からプチッて先には行かないけど、
頼まれるとやりたいことがワーッと、
その機に乗じて持ってこられるような感じ。
- 浅生
- そうなのかなぁ。
- 永田
- ご自分のところの、
あんな変な公式ホームページとか。
【ほぼ日注:最後にリンク載せてます】
誰もそんな発注してないと思うし(笑)
- 浅生
- 「話題になるホームページってどうやったらいいですか」
っていう相談をされて、
「じゃあお見せしますよ」って言って、
やった感じなんですよ。こういうことです。
- 永田
- 見事ですね。あの感じ。
- 糸井
- 永田くん好みだよね。
- 永田
- ほんと好みです。
- 糸井
- 共通してるものを感じるんだよね。
- 永田
- わかります。わかります。
- 糸井
- 自分とも感じるんだよ。
- 永田
- そうですね。
- 糸井
- 「自分がやりたいと思ったことないんですか」
「ない」っていうのは、
俺もずっと言ってきたことなんだけど、
たまには混じるよね。「あれやろうか」ってね。
- 糸井
- 例えば、阪神淡路大震災のときは自分で‥‥。
- 浅生
- 揺れたときはいなかったんですよ。
- 糸井
- あ、そうですか。
- 浅生
- 揺れた瞬間はいなくて、
ただもう燃えてる街をテレビで観てて、
当時神奈川県の大きな工場で働いてて。
そこの社員食堂のテレビを見てたらワーッと燃えてて、
死者が2千人、3千人になるたびに
周りが盛り上がるんですよ。
「おぉーっ」とか、言ってみれば
もう「やったー」みたいな感じで。
「2千超えたー」「3千いったー」みたいな感じで、
ちょっとゲーム観てるみたいな感じで
盛り上がってるのが、ちょっと耐えられなくて。
それですぐに神戸に戻って、そこから水運んだり、
避難所の手伝いしたりっていうのをしばらくずっとやって。
- 糸井
- お母さんも、その現場にはいなかったの?
- 浅生
- うち、山のほうなので、家自体は大丈夫だった。
祖父母の家が潰れちゃったりはしたんですけど。
とにかく帰ったときは、まだ街が燃えてる状態で、
まだ火が消えてない状態のときに帰って。
友達もずいぶん下敷きになって燃えたりとか。
神戸の場合は下敷きというより、火事がひどかったんで。
- 糸井
- あれが神戸じゃなかったら、また違っていたのかな。
- 浅生
- 全然違うと思います。
- 糸井
- もしあれが実家のある場所じゃなかったら。
- 浅生
- 多分、ぼく行ってないと思います。
もしかしたら「2千人超えたー」って
言う側にいたかもしれない。
そこだけは、ぼくが常に「やったー」って
言う側にいないとは言い切れないんで、
むしろ言っただろうなという。
- 糸井
- それは、すごく重要なポイントですね。
自分が批難してる側にいないっていう
自信のある人ではないっていうのは、大事ですよね。
- 浅生
- ぼく、自分が悪い人間だっていうおそれがあって。
人は誰でもいいとこと悪いところがあるんですけど、
自分の中の悪い部分が
フッと頭をもたげることに対する
すごい恐怖心もあるんですよ。
だけど、それは無くせないので、
「ぼくはあっち側にいるかもしれない」っていうのは、
わりといつも意識はしてますね。
- 糸井
- そのとき、その場によって、
どっちの自分が出るかっていうのは、
そんなに簡単にわかるもんじゃないですよね。
- 浅生
- わからないです。
- 糸井
- 「どっちでありたいか」っていうのを
普段から思ってるっていうことまでが、ギリギリですよね。
- 浅生
- だから、よくマッチョな人が
「何かあったら俺が身体を張って
お前たちを守ってみせるぜ」
って言うけど、いざその場になったら
その人が最初に逃げることだって十分考えられるし。
多分それが人間なので、そう考えるといつも不安‥‥、
「ぼくはみんなを捨てて逃げるかもしれない」
って不安を持って生きてるほうが、
いざというときに
踏みとどまれるような気はするんですよ。
- 糸井
- 選べる余裕を作れるかどうか、
どっちでありたいかっていう。
「このときも大丈夫だったから、こっちを選べたな」
っていうことは
足し算ができるような気がするんだけど、
一色には染まらないですよね。
- 浅生
- 染まらないです。
- 糸井
- 人って一色には染まらない。
でも、それを見ちゃうと「人が当てにならない」とかね、
「人って嫌なことする」とか、
「いいことって言いながら嫌なことするものだ」とか、
そういう意地悪な視線で言い出す人がいるんだよね。
そういうことしがちだよね、人間って。
でも、一色に染まらないからこそおもしろいんだよ。
- 浅生
- 不思議なんですよね。
人間ってそういう、しょせん裏表がみんなあるのに、
ないと思ってる人がいることがわりと不思議で。
- 糸井
- そう。「私はそっちに行かない」とかね。
- 浅生
- そんなのわかんないですもんね。
- 糸井
- そのへんは、
それこそ浄土真宗の考えじゃないですか。
ほとんど、浄土真宗ですよ。
縁があればするし、
縁がなければしないんだよっていう話でさ。
東洋にそういうこと考えた人がいたおかげで、
俺はほんとに助かってる。
- 浅生
- もともと、
仏教のそもそもが「何かしたい」とか、
「何かになりたい」とか、
「何かが欲しい」って思うと、
それは全て苦行だから、
全部捨てると悟れるっていう。
だから別に何かやりたいことがないほうが。
- 糸井
- ブッティスト。
- 浅生
- ブッティストとして(笑)
- 糸井
- そういうブッティスト的な何かの時期があったの?
- 浅生
- まったくないです。
- 糸井
- 別にないの?
- 浅生
- それでまた終わっちゃいました(笑)
- 永田
- 「ないです」でスパって言うのはなかなか珍しいですね。
「ないんだけど、そうなのかな」みたいな感じになる。
- 糸井
- 永田くん、ぼくを見ててわかると思うんだけど、
ぼくも「ないです」はよくやる。
でも、そのあとで親切な場所
2人で歩んでいきましょうっていう場所を作るじゃない。
この人は「ないです」で黙るんだよね。
- 永田
- 「ないです」っていう準備があるんじゃないですかね。
- 糸井
- ないです人生。
ないですって言っても表現はしたい?
だって、
表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。
でも、表現しない人生は考えられないでしょ、やっぱり。
浅生:
そうですね。
- 糸井
- 受注なのに。
- 浅生
- そうなんです。それが困ったもんで(笑)
- 糸井
- そこですよね(笑)ポイントはね。
- 浅生
- そこが一番の矛盾。
- 糸井
- 矛盾ですよね。
「何にも書くことないんですよ」とか
「言いたいことないです」
「仕事もしたくないです」。
だけど、何かを表現してないと‥‥。
- 浅生
- 生きてられないです。
- 糸井
- 生きてられない。
- 浅生
- でも、受注ない限りはやらないっていうね。
ひどいですね(笑)
- 糸井
- 「受注があったら、ぼくは表現する欲が満たされるから、
多いに好きでやりますよ、めんどくさいけど」。
でも、自分とちょっとそこが似てるんじゃないかなぁという気がしますね。
- 浅生
- かこつけてるんですかね。何かに。
- 糸井
- うん。そうねぇ。何かを変えたい欲じゃないですよね。
- 浅生
- うん。変えたいわけではないです。
- 糸井
- 表したい欲ですよね。表したい欲って、
裏表になってるのが「じっと見たい欲」ですよね。
- 浅生
- 「じっと見たい欲」?
- 糸井
- うん。多分表現したいってことは、
「よーく見たい」とか「もっと知りたい」とか
「えっ、今の動きいいな」とか、
そういうことでしょう?
- 浅生
- 画家の目が欲しいんですよ。
あの人たちって、違うものを見るじゃないですか。
画家の目はきっとあるとおもしろいなって。
- 糸井
- それは絵を描いてたほうが、
画家の目が得られるんじゃない?
- 浅生
- そうかな。そうかもしれない。
- 糸井
- いや、すごいですよ、
ほんと、画家の目ってね。
違うものが見えてるんですからね。
- 浅生
- あと、見えたとおりに見てるっていうか、
見たとおりに見えてるじゃないですか。
ぼくらは見たとおりに見てないので。
- 糸井
- そこに画家は個性によって、実は違う目だったりする。
でも、ぼくが普段考える「女の目が欲しい」とか、
そういうのと同じじゃないですかね。
受け取る側の話をしてるけど、
でもそれはやっぱり表現欲と表裏一体で、
受けると出す‥‥。
これはどうでしょうねぇ。
臨終の言葉をぼくさっき言ったんで、
浅生さんは今、臨終の言葉何かどうでしょう。
今、受注した。自分の死ぬときの言葉。適当はダメよ。
- 浅生
- はい。死ぬときですよね。前死にかけたときは、
そのときは「死にたくない」って思ったんで、
すごく死にたくなかったんですよ。
今もし急に死ぬとして‥‥「仕方ないかな」。
- 糸井
- (笑)これで終わりにしましょう。いいですね。
- 浅生
- 「仕方ないかな」っていうので終わる気がしますね。
- 糸井
- 「人間は死ぬ」と
あまり変わらないような気がしますけど(笑)
- 永田
- ありがとうございました。
- 糸井
- ありがとうございました。
(おしまい)
【※変な公式ホームページ:http://www.asokamo.com/】