- 糸井
- 浅生鴨さんの隠しごとの部分について、まずは確認しておきましょうか。
- 浅生
- はい。
- 糸井
- 先日、新聞に「これが俺だ」みたいな感じで自分の写真が出ちゃったから、そこはもう問題ない?
- 浅生
- もういいです、はい。
- 糸井
- いままで顔を出さないでいた理由っていうのは。
- 浅生
- なんか「めんどくさい」が。
- 糸井
- めんどくさい。
- 浅生
- いちいち説明するのがもうめんどくさくて。
常にみんなが「日本人なのかな、どっちかな?」って思うんですよね。
- 糸井
- 思いますよ、そりゃ。
- 浅生
- 「ぼくは日本生まれの日本人なんですけど、父方にヨーロッパの血が入ってて」みたいなことを、子どもの頃から何万回も言ってて、もう飽きてるんです。そうなると、ちょっと茶目っ気が出て…
- 糸井
- 嘘を混ぜる。
- 浅生
- ええ、ちょっとおもしろいことを混ぜちゃうんです。
すると、だんだんつじつまが合わなくなってくるんですね。それがめんどくさくて、あまり世に出ないようになりました。
- 糸井
- ぼくも初めて会ったときに「この外国の人は、日本語が流暢だな」って思ったもん。
- 浅生
- 神戸で生まれ育って、高校を卒業してから東京にやってきたというのが本当です。
- 糸井
- 高校を卒業するまで、なにをしてたんですか?
- 浅生
- ぼくが中高生だったころ、ちょうど校内暴力の時代だったんです。
- 糸井
- その時代、ぼくは経験してないんですよ。聞くと、西部劇のならず者みたいな人たちだらけですよね。
- 浅生
- すごい時代ですよ。生徒だけじゃなくて教師もすごくて。
先生が…ヌンチャク持ってるんですよ。
- 糸井
- ウソだぁ(笑)。
- 浅生
- いや、ホントなんです。
先生にはヌンチャク派と竹刀派がいて、生徒は悪いことをすると頭をやられるんですよ。そのどちらかで、ガツンと。
そんな感じの、わりと荒れた時代で。
- 糸井
- その中であなたは何の役なんですか?まさかヌンチャク部じゃないですよね。
- 浅生
- ぼくはうまく立ち回る役で…
- 糸井
- ヌンチャクもやるんですか?
- 浅生
- ヌンチャクはやらないです(笑)。
- 糸井
- じゃあ何をやったんですか?
- 浅生
- 強そうな悪い奴がいたら、そいつの近くにいるけど積極的には関わらないポジションを確保してました。
- 糸井
- 浅生さんって意外と体つきがいいじゃないですか。ってことは強かったんですか?
- 浅生
- その頃はまだヒョロヒョロの小っちゃい感じで。
ターゲットになるとしばらくいじめられるので、とにかく狙われないように、目立たないように…
- 糸井
- でもさ、そういうことは考えとしてわかってても相手が決めることじゃない。だから、なかなかうまくいかないような気もするけど。
- 浅生
- 相手が得することを提供して…例えば、ほめてあげれば喜ぶわけですよ。まだまだ子どもで単純なので、みんな。
- 糸井
- ほめる。
- 浅生
- その子が思いもしないことでほめてあげるんです。
ケンカが強いやつに「ケンカ強いね」っていうのはみんなが言ってる。でも「字、キレイだね」って言うと、向こうも「おっ」ってなるじゃないですか。
- 糸井
- すっごいね、それ(笑)。
- 浅生
- そうやって、なんとか自分のポジションを(笑)。
- 糸井
- 「字、キレイ」で一目置かれて。
- 浅生
- 距離を縮めて。
- 糸井
- 浅生さんは見た目だけで目立っちゃいますもんね。
- 浅生
- そうなんです。だから、ちょっと違う球を投げるというか、違う切り口でいくというか…
って、ものすごい嫌な人間みたい(笑)。
- 糸井
- いやいや(笑)。
今も似たようなことやってますね、なんかね。
- 浅生
- 常に立ち位置をずらし続けてる感じが。
- 糸井
- いまは作家「浅生鴨」だけど、「NHK_PR1号」の時代もあり、テレビ番組の裏方時代もあり。
- 浅生
- ずっとふわふわしたポジションで生きてきました。
- 糸井
- やっぱり人にじっと見られてるうちには弱みも強みもバレてきちゃうじゃないですか。そんな風に安定していると良いことも悪いこともあるんだけど、どっちもなくていいやと。
- 浅生
- そうなんです。