イジワルなふたり。
浅生鴨 × 糸井重里
第5回 イジワルなふたり。
- 糸井
- 振り返ってみれば、東北の震災直後は書くだけでも相当ピリピリした時期だったよね。
- 浅生
- そうでした。
- 糸井
- お金の寄付の話をしたときも、傷つく人がいっぱい出るかもしれないという怖さがあって。
- 浅生
- 「キャンペーンより、実効がほしい」
- 糸井
- あれはやっぱり、本当に嫌な間違え方をすると『ほぼ日』の存続に関わると思ってたんで…。
それこそ浅生さんじゃないですけど、ぼくもあの仕事って受動なんです。
- 浅生
- そうなんですか?
- 糸井
- 「あれ?このままいくと、どっかで募金箱に千円いれた人がそれで終わりにしちゃうような気がするな」という、その実感からというか。それが、何だか辛かったんですよねぇ…

- 浅生
- 辛かった。
- 糸井
- ニュースで見えてた映像と、募金箱にお金を入れて終わりにしちゃうような感覚とが、どうしても釣り合いが取れないというか、ね。そこが嫌だと思ったんですよ。痛みを共有するということを…しないとな、みたいな。
- 浅生
- ぼくは福島に山を買ったんです。「募金箱」というかたちではなくて。

- 糸井
- ああ、そうだった!
- 浅生
- もちろん、すごく安いんですよ。ぼくが買える程度の金額なので大したことはないんですけど。山を買うとどうなるかというと、固定資産税を1年ごとに払うことになるんです。
- 糸井
- うんうん。
- 浅生
- うっかり忘れてても勝手に引き落とされるんで、ぼくが山を持っている限りは永久に福島のその町とつながりができるというか。だから、先月もまた1つ「あっ」みたいな。
- 糸井
- 「また引き落とされてた(笑)」
- 浅生
- はい(笑)。

- 糸井
- 色々話してみて気づいたんだけど、たぶんぼくらは「ああいうのが嫌だな」っていう感覚が似てるんじゃないかな。
イジワルなんだと思う、ふたりとも。
- 浅生
- ぼく、意地悪じゃないです(笑)。

- 糸井
- いや、要するにお互い嫌なものがあるんですよ、いっぱい(笑)。
いっぱい嫌なものがあって、さらに「自分はそういう嫌なことをしたくないな」というところまで思う。
- 浅生
- うーん…
- 糸井
- つまりこういうことよ。「募金箱」で終わらせたくなかったから、ぼくらは『気仙沼のほぼ日』のように「不動産屋と契約したから2年はいます」という風にして、会社の予算に組み込んじゃったのね。つながるシステムにしちゃいたかったの。
- 浅生
- ぼくもそうです。山を買って毎年税金を払うシステムにしちゃってます。
- 糸井
- でしょ?
なんでシステムにしちゃうのかというと、「人は当てにならないものだ」とか「人って良いこと言いながらも嫌なことするもんだ」とか、自分自身も含めた人間というものに対するイジワルな視線がお互いきっとあるんだよ。
- 浅生
- 「ぼくはいまこんなにも東北について考えているけど、だんだんフェードアウトしてしまう可能性だって全然あるんだぞ」みたいに。
- 糸井
- そうそう。
さっきの話でいえば「盛り上がる側にいたかもしれない」みたいに。
- 浅生
- 人間ってそういう裏と表がみんなあるじゃないですか。それなのに、ないと思ってる人がいることが不思議で。
- 糸井
- 「私はそっちに行かない」とかね。
- 浅生
- そんなこと直面してみないとわかんないですもんね。
- 糸井
- でも、そういうイジワルな視線は、裏を返せば優しさなんだよ。「人間って、そういうことしがちだよね」っていうさ。

- 浅生
- 優しさ。
- 糸井
- そう、優しさ。
浅生さんのエッセイとか小説の中にも、そういう視線があふれているのよ。
- 浅生
- はあ。

- 糸井
- で、その辺は浄土真宗の考えですよね。
縁があればするし、縁がなければしないんだよっていう話でさ。東洋にそういうことを考えた人がいてくれたおかげで、俺はほんとに助かってるわけ。
- 浅生
- 仏教のそもそもが「何かになりたい」とか「何かが欲しい」と思うとそれは全て苦行になるから、それを全部捨てると悟れるってことですもんね。
- 糸井
- 浅生さんは「見た目クリスチャン、中身ブッティスト」だね(笑)。
- 浅生
- だから別に何かやりたいことがないほうがね、うん。
- 糸井
- そういうブッティスト的な時期があったの?
- 浅生
- まったくないです。
- 糸井
- ありゃ(笑)。
- 浅生
- (笑)
- 糸井
- お互いイジワルなんだけど優しさもあるよねというあたりで、今日はおしまいにしましょう。
- 浅生
- ありがとうございました。
- 糸井
- こちらこそどうもありがとうございました。
