- 糸井
- 8月に発売された「アグニオン」は、もう2刷?
- 浅生
- いや、まだ2刷いってないんですよ。
- 糸井
- 2刷いってない?
じゃあ、2刷まで頑張ろうか。
まずは読むことかな。
- 浅生
- いや、買うことです。
- 糸井
- 3冊買うことかな。
- 浅生
- もうね、こうなったら買わなくっても
遊ぶ金だけ送っていただければ。
- 糸井
- (笑)
- 浅生
- 読んだつもりで送金してくださいっていう(笑)
浅生鴨 著 「アグニオン」
新潮社『yomyom』で連載
されていた浅生さんの
小説が、8月に単行本に
なりました。
- 糸井
- 対談をするにあたってね、まずは
浅生鴨さんの隠し事の部分に線を引きましょうか。
- 浅生
- 線を引く、はい。
- 糸井
- 先日、読売新聞のインタビュー記事に
「これが俺だ」みたいな感じで
写真が出ちゃったから、
写真はもう問題ない?
- 浅生
- もういいです、はい。
- 糸井
- あれ、
今まで出さないでいた理由っていうのは。
- 浅生
- 何か「めんどくさい」というのがあって。
- 糸井
- 「めんどくさい」だったんですね。
漫画家の方とかと同じですよね。
- 浅生
- はい。
- 糸井
- あとはないのかな。
NHKの仕事してたときは、
NHKのペンネームじゃないですか、NHK_PRっていう。
あれが俺だっていうのはマズイわけですよね。
あの時代は。
- 浅生
- あの時代はそうですね。
- 糸井
- そうですよね。
あのときはあのときの隠し事があったわけですよね。
- 浅生
- はい。常に隠し事があるんです。
- 糸井
- ねえ? 幼少時からずっとあるわけですか。
- 浅生
- 常に隠し事だけが、つきまとう。
- 糸井
- (笑)それで、あとで語れるのが多いですよね。
- 浅生
- そうですね。「実はあのとき」っていう。
- 糸井
- まずは、あの写真でわかっちゃったことだけど。
「あなた日本人じゃないですね」って言われたら、
「ワッカリマセン」って返せば、
通じちゃうような外見ですよね。
- 浅生
- ただ、意外に通じないんですよね。
- 糸井
- 「お前日本人だろう」って言うの?
- 浅生
- うん。言われるんです。
一々説明するのがもうめんどくさくて、
つまり常にみんなが「どっちかな?」
って思うんですよね。
そうすると必ず、
「ぼくは、日本生まれの日本人なんですけど、
父方がヨーロッパの血が入ってて‥‥」
みたいなことを、毎回言わなきゃいけないんですね。
聞く人は1回なんですけど、
言う側は子どもの頃から何万回って言ってて、
もう飽きてるんですよね。
飽きてくると、ちょっと茶目っ気が出て。
- 糸井
- 嘘を混ぜる。
- 浅生
- そう。
ちょっとおもしろいことを
混ぜちゃったりするようになるんですよ。
- 糸井
- 嘘つきになっちゃったわけですね。
飽きちゃって、めんどくさいが理由で。
1回か2回聞かれる程度なら、
本当のことを言ってたんだけど。
- 浅生
- 段々めんどくさくなって、相手が誤解とかして
「こうじゃないの」って言ったときに
「そうです。そうです」みたいな。
つまり訂正もめんどくさいから
「そうなんですよ」って言うと、
そうなるんですよね。
- 糸井
- なりますね。思いたいほうに思うからね。
見た目だとか国籍がどうだとかっていう話は、
どのへんまで‥‥。ずーっと続いてきたんですか?
- 浅生
- ずーっとですね。多分、それは一生。
ぼくが日本にいる限りは、
日本人として日本で生きていく限りは、
多分ずっとまだ続くだろうなって。
でも今、新しく生まれる子どもの30人に1人が、
外国のルーツが入ってますから。
日本はこれから時間かけて、
混ざっていくんだろうなっていう。
ぼくはちょっと早すぎたんです。
- 糸井
- 早すぎたのね。
自分がそういう
ユラユラしてる場所に立たされてるっていうことで、
明らかに心がそういうふうになりますよね。
- 浅生
- なります。
- 糸井
- 浅生さんの人生を変えるような経験、ありましたよね。
それについても、もう何万回もしゃべってる?
- 浅生
- そうですね。
‥‥すごく簡単に言うと、31歳のとき、
バイクに乗ってて、大型の車とぶつかって。
足をほぼ切断して、身体も内蔵がいっぱい破裂して。
3次救急って、要するに死んでる状態で
病院に運び込まれて。
そこから大手術をして復活したんです。
それから1年ぐらいは入院してて、
あとずっと車椅子生活をして。
最初に「一生歩けない」って言われたんですけど、
リハビリをずっとしてるうちに、
少しずつ歩けるようになって、
今に至ると。
ほんとにぼくはそれで、
「死ぬ」ということがどういうことかを‥‥
もちろんほんとに死んでるわけじゃないんですけど。
「死ぬとは何か」をちょっと理解したんですよ。
- 糸井
- 身体でね。
- 浅生
- 体験しました。ほんとかどうかわからないにしても。
よく、死ぬのが怖くないから俺は何でもできる、
みたいな人がいるけど、それは嘘で。
別にぼく「死ぬ」のはそんなに怖くないんですけど、
だからといって死ぬのは嫌ですから。
- 糸井
- より嫌になるでしょうね、きっと。
- 浅生
- より嫌になる‥‥、うーん。
- 糸井
- どうですかね、そのへんは。
- 浅生
- なんか、すごく淋しいんですよね。
- 糸井
- それはね、若くして年寄りの心をわかったね。
俺は年を取るごとに、
「死ぬ」の怖さが失われてきたの。
で、もう最後に映画の中で、
自分が「お父さん」とか呼ばれながら
死ぬシーンを想像してるわけ。
そのときに、何か一言いいたいじゃない。
それ、しょっちゅう更新してるの。
「これでいこう」っていうのがあって、
結構長いことこれがいいなと思ってたのは
「あー、おもしろかった」。これが理想だなと思ったの。
で、嘘でもいいからそう言って死のうと思ってた。
この頃は違うの。
さぁ命尽きるっていう最期に、
「何か言ってる、何か言ってる」って
周りがよく聞いてみたら、
「人間は死ぬ」(笑)
- 浅生
- 真理を。
- 糸井
- そう。「人間は死ぬもんだから」っていう、
それを言って死ぬのを一応、
みなさまへの最期の言葉にかえさせて
いただきたいと思いますよ。
- 浅生
- 人間は死にますから。
- 糸井
- うん。
で、同時に「死ぬ」がリアルになったときに、
「生きる」のことを考える機会が多くなりますよね。
それはどうです?
- 浅生
- そうですね。
だからといって、
何か世の中に遺したいとか、
そういう気は毛頭なくて。
ただ、死ぬということが、
ぼくはすごく淋しいことだと体験したので、
生きてる間は「楽しくしよう」みたいな。
別に、知らない人とワーッてやるのは苦手なので、
パーティー行ったりとかする気は全然ないし、
むしろ避けて引きこもりがちな暮らしなんですけど、
それでも極力楽しく人と接しようかなっていう。
だいたい日頃、ニコニコするのは上手じゃないので、
ニヤニヤして生きていこうみたいな感じです。
- 糸井
- そのまとめ方って、なんか展開がなくていいね。
ニヤニヤで全部まとめちゃうもんね。
- 浅生
- そうですね。ニヤニヤして生きていきたい。
- 糸井
- カブリオレ(オープンカー)とか買うじゃないですか。
ああいうのもニヤニヤして。
- 浅生
- ニヤニヤです。
だから、自分自身が楽しむだけじゃなくて、
あれを見た人の反応も想像して楽しめるというか。
- 糸井
- 車の屋根がないだけで、
ちょっとおもちゃっぽくなりますよね。
- 浅生
- そうなんです。
で、あれを見た人たちが、やっぱり「派手な車だ」とか
- 糸井
- 「寒いんじゃない」とかね。
- 浅生
- いろんなことを言うじゃないですか。
そこがおかしいというか。
たしかに屋根はないけど
壊れた車だって屋根ないわけだから、同じじゃないですか。
でも、壊れた車で屋根がなければ、
みんなもっと緊迫感あること言うんですけど、
最初から屋根ない車だともっといいことを
言ってくれるっていうか。
不思議ですよね、同じ屋根ないだけなのに。
- 糸井
- みんなもそうだけど、自分も変な気がしますよね。
走ってる感が強くなりますよね。
- 浅生
- 自転車とかオートバイに近いというか、
機械に乗ってる感じがすごくするので不思議ですよね。
- 糸井
- 以前浅生さんのカブリオレに乗せてもらいましたけど、
同じ速度でも出てる気がしますね。
100キロ近く出ると、もうちょっと怖いぐらいですよね。
バイクにちょっとやっぱり似てました、うん。
緊張感がちょっとある分だけ、ニヤニヤしがちですよね。
- 浅生
- しがちです。
- 糸井
- 緊張感があるときって、ニヤニヤしますよね。
- 浅生
- 先生に怒られてるときとか、必ずニヤニヤしますよね。
- 糸井
- そういうことで怒られますよね(笑)
(つづきます)