もくじ
第1回「ニヤニヤして生きていきたい」 2016-10-18-Tue
第2回飛び抜けたほうが楽になる 2016-10-18-Tue
第3回受注体質 2016-10-18-Tue
第4回あの時期の、2人の決断 2016-10-18-Tue
第5回書くことは、めんどくさい 2016-10-18-Tue

書いたり、歌ったり、自転車こいだりが好きです。神戸生まれの26歳です。

あそうかもって、どんなひと? </br> 対談 浅生鴨×糸井重里

あそうかもって、どんなひと? 
対談 浅生鴨×糸井重里

ある時は小説家。
またある時はNHK公式ツイッターアカウント「@NHK_PR」の担当者。
浅生鴨さんは、これまであまりメディアに顔を出さないひとでした。

浅生さんってどんなひと?どうしてNHKのツイッター担当から小説家に?
「ほぼ日の塾」をきっかけに、普段からつきあいの深い糸井重里との対談が実現しました。
改めて対談してみると、実はこの2人、仕事に対する姿勢も近かったんです。
途中からほぼ日の永田泰大も交えて、盛り上がった対談の様子を5回に分けてお届けします。

プロフィール
浅生鴨(あそうかも)さんのプロフィール

第1回 「ニヤニヤして生きていきたい」

糸井
8月に発売された「アグニオン」は、もう2刷?
浅生
いや、まだ2刷いってないんですよ。
糸井
2刷いってない?
じゃあ、2刷まで頑張ろうか。
まずは読むことかな。
浅生
いや、買うことです。
糸井
3冊買うことかな。
浅生
もうね、こうなったら買わなくっても
遊ぶ金だけ送っていただければ。
糸井
(笑)
浅生
読んだつもりで送金してくださいっていう(笑)
 

浅生鴨 著 「アグニオン」

新潮社『yomyom』で連載
されていた浅生さんの
小説が、8月に単行本に
なりました。

糸井
対談をするにあたってね、まずは
浅生鴨さんの隠し事の部分に線を引きましょうか。
浅生
線を引く、はい。
糸井
先日、読売新聞のインタビュー記事に
「これが俺だ」みたいな感じで
写真が出ちゃったから、
写真はもう問題ない?
浅生
もういいです、はい。
糸井
あれ、
今まで出さないでいた理由っていうのは。
浅生
何か「めんどくさい」というのがあって。
糸井
「めんどくさい」だったんですね。
漫画家の方とかと同じですよね。
浅生
はい。
糸井
あとはないのかな。
NHKの仕事してたときは、
NHKのペンネームじゃないですか、NHK_PRっていう。
あれが俺だっていうのはマズイわけですよね。
あの時代は。
浅生
あの時代はそうですね。
糸井
そうですよね。
あのときはあのときの隠し事があったわけですよね。
浅生
はい。常に隠し事があるんです。
糸井
ねえ? 幼少時からずっとあるわけですか。
浅生
常に隠し事だけが、つきまとう。
糸井
(笑)それで、あとで語れるのが多いですよね。
浅生
そうですね。「実はあのとき」っていう。
糸井
まずは、あの写真でわかっちゃったことだけど。
「あなた日本人じゃないですね」って言われたら、
「ワッカリマセン」って返せば、
通じちゃうような外見ですよね。

浅生
ただ、意外に通じないんですよね。
糸井
「お前日本人だろう」って言うの?
浅生
うん。言われるんです。
一々説明するのがもうめんどくさくて、
つまり常にみんなが「どっちかな?」
って思うんですよね。
そうすると必ず、
「ぼくは、日本生まれの日本人なんですけど、
 父方がヨーロッパの血が入ってて‥‥」
みたいなことを、毎回言わなきゃいけないんですね。
聞く人は1回なんですけど、
言う側は子どもの頃から何万回って言ってて、
もう飽きてるんですよね。
飽きてくると、ちょっと茶目っ気が出て。
糸井
嘘を混ぜる。
浅生
そう。
ちょっとおもしろいことを
混ぜちゃったりするようになるんですよ。
糸井
嘘つきになっちゃったわけですね。
飽きちゃって、めんどくさいが理由で。
1回か2回聞かれる程度なら、
本当のことを言ってたんだけど。
浅生
段々めんどくさくなって、相手が誤解とかして
「こうじゃないの」って言ったときに
「そうです。そうです」みたいな。
つまり訂正もめんどくさいから
「そうなんですよ」って言うと、
そうなるんですよね。
糸井
なりますね。思いたいほうに思うからね。
 
見た目だとか国籍がどうだとかっていう話は、
どのへんまで‥‥。ずーっと続いてきたんですか?
浅生
ずーっとですね。多分、それは一生。
ぼくが日本にいる限りは、
日本人として日本で生きていく限りは、
多分ずっとまだ続くだろうなって。
でも今、新しく生まれる子どもの30人に1人が、
外国のルーツが入ってますから。
日本はこれから時間かけて、
混ざっていくんだろうなっていう。
ぼくはちょっと早すぎたんです。
糸井
早すぎたのね。
自分がそういう
ユラユラしてる場所に立たされてるっていうことで、
明らかに心がそういうふうになりますよね。
浅生
なります。

糸井
浅生さんの人生を変えるような経験、ありましたよね。
それについても、もう何万回もしゃべってる?
浅生
そうですね。
 
‥‥すごく簡単に言うと、31歳のとき、
バイクに乗ってて、大型の車とぶつかって。
足をほぼ切断して、身体も内蔵がいっぱい破裂して。
3次救急って、要するに死んでる状態で
病院に運び込まれて。
そこから大手術をして復活したんです。
 
それから1年ぐらいは入院してて、
あとずっと車椅子生活をして。
最初に「一生歩けない」って言われたんですけど、
リハビリをずっとしてるうちに、
少しずつ歩けるようになって、
今に至ると。
 
ほんとにぼくはそれで、
「死ぬ」ということがどういうことかを‥‥
もちろんほんとに死んでるわけじゃないんですけど。
「死ぬとは何か」をちょっと理解したんですよ。
糸井
身体でね。
浅生
体験しました。ほんとかどうかわからないにしても。
よく、死ぬのが怖くないから俺は何でもできる、
みたいな人がいるけど、それは嘘で。
別にぼく「死ぬ」のはそんなに怖くないんですけど、
だからといって死ぬのは嫌ですから。
糸井
より嫌になるでしょうね、きっと。
浅生
より嫌になる‥‥、うーん。
糸井
どうですかね、そのへんは。
浅生
なんか、すごく淋しいんですよね。
糸井
それはね、若くして年寄りの心をわかったね。
俺は年を取るごとに、
「死ぬ」の怖さが失われてきたの。
で、もう最後に映画の中で、
自分が「お父さん」とか呼ばれながら
死ぬシーンを想像してるわけ。
そのときに、何か一言いいたいじゃない。
それ、しょっちゅう更新してるの。
 
「これでいこう」っていうのがあって、
結構長いことこれがいいなと思ってたのは
「あー、おもしろかった」。これが理想だなと思ったの。
で、嘘でもいいからそう言って死のうと思ってた。
この頃は違うの。
さぁ命尽きるっていう最期に、
「何か言ってる、何か言ってる」って
周りがよく聞いてみたら、
 
「人間は死ぬ」(笑)

浅生
真理を。
糸井
そう。「人間は死ぬもんだから」っていう、
それを言って死ぬのを一応、
みなさまへの最期の言葉にかえさせて
いただきたいと思いますよ。
浅生
人間は死にますから。
糸井
うん。
で、同時に「死ぬ」がリアルになったときに、
「生きる」のことを考える機会が多くなりますよね。
それはどうです?
浅生
そうですね。
だからといって、
何か世の中に遺したいとか、
そういう気は毛頭なくて。
ただ、死ぬということが、
ぼくはすごく淋しいことだと体験したので、
生きてる間は「楽しくしよう」みたいな。
別に、知らない人とワーッてやるのは苦手なので、
パーティー行ったりとかする気は全然ないし、
むしろ避けて引きこもりがちな暮らしなんですけど、
それでも極力楽しく人と接しようかなっていう。
 
だいたい日頃、ニコニコするのは上手じゃないので、
ニヤニヤして生きていこうみたいな感じです。
糸井
そのまとめ方って、なんか展開がなくていいね。
ニヤニヤで全部まとめちゃうもんね。
浅生
そうですね。ニヤニヤして生きていきたい。
糸井
カブリオレ(オープンカー)とか買うじゃないですか。
ああいうのもニヤニヤして。
浅生
ニヤニヤです。
だから、自分自身が楽しむだけじゃなくて、
あれを見た人の反応も想像して楽しめるというか。
糸井
車の屋根がないだけで、
ちょっとおもちゃっぽくなりますよね。
浅生
そうなんです。
で、あれを見た人たちが、やっぱり「派手な車だ」とか
糸井
「寒いんじゃない」とかね。
浅生
いろんなことを言うじゃないですか。
そこがおかしいというか。
たしかに屋根はないけど
壊れた車だって屋根ないわけだから、同じじゃないですか。
でも、壊れた車で屋根がなければ、
みんなもっと緊迫感あること言うんですけど、
最初から屋根ない車だともっといいことを
言ってくれるっていうか。
不思議ですよね、同じ屋根ないだけなのに。
糸井
みんなもそうだけど、自分も変な気がしますよね。
走ってる感が強くなりますよね。
浅生
自転車とかオートバイに近いというか、
機械に乗ってる感じがすごくするので不思議ですよね。
糸井
以前浅生さんのカブリオレに乗せてもらいましたけど、
同じ速度でも出てる気がしますね。
100キロ近く出ると、もうちょっと怖いぐらいですよね。
バイクにちょっとやっぱり似てました、うん。
緊張感がちょっとある分だけ、ニヤニヤしがちですよね。
浅生
しがちです。
糸井
緊張感があるときって、ニヤニヤしますよね。
浅生
先生に怒られてるときとか、必ずニヤニヤしますよね。
糸井
そういうことで怒られますよね(笑)

(つづきます)

第2回 飛び抜けたほうが楽になる