- 糸井
- そういえば、さっきバイトの子がコーヒー持って歩いてて
「浅生鴨さんのコーヒーを買ってきたんです」って。
コーヒーを買ってきてくれる子がいるんだって
微笑ましく見てたんです。
そしたら、さっきからずっと飲みゃしない(笑)
- 浅生
- 今、慌てて飲んでる(笑)
- 糸井
- 「コーヒー買ってきてくれ」って頼んだのか知らないけど、
ずーっとフタがあって、飲みゃしない!
- 浅生
- 頼みました。あっ、しかもこぼしたし‥‥
- 糸井
- でもさ、1つずつやるタイプでもないじゃないですか、
仕事とか。
- 浅生
- いや、1つずつやるタイプだから大変なんです。
同時になると並行して進めないから、
こっち終わるまでこっちに手が出せないみたいな。
- 糸井
- たしかにコーヒーの姿を見てると、
ひどいものですよね(笑)
- 浅生
- ひどいですよね。
- 糸井
- 浅生さん、インタビューアーになったこともあるでしょ?
- 浅生
- あります。ぼくインタビュー得意です。すごく得意です。
- 糸井
- それ、ちょっと思うんだけど、
相手が「何とかしたい」って思っちゃうんだろうね。
- 浅生
- ぼく、質問して相手が話し始めたら、
わりと黙ってじーっと聞いてるんですよ。
特にテレビのインタビューだと、
カメラ回ってるじゃないですか。
インタビューする人って
「あれもこれも聞かなきゃ」って
焦っていろいろ聞くんですけど、
ぼくはカメラが回ったまんま、じっと黙っていて。
すると相手が沈黙に耐えられなくなって、
いろいろ言い始めるんですよね。
それでうっかりなことしゃべっちゃったりするので、
結構なネタ拾えたりとかするんです。
- 糸井
- ちょっとわかります。
浅生さんに何かを聞く側は辛いけど、
聞かれる側でも辛いもん。
- 浅生
- すいません(笑)
- 糸井
- 日常で会話してる分には楽しいんだけどね。
- 浅生
- 孤独に耐えられるので。
沈黙とか孤独が全然怖くないので。
- 糸井
- 相手は孤独とか沈黙、嫌だよ。
- 浅生
- 嫌だと思いますけど、でもまあぼくじゃないので。
- 糸井
- あははは(笑)
- 浅生
- 嫌なら自分で何とか‥‥(笑)
- 糸井
- 何とかしなさい。
それ、お母さんに言われてるような気がする(笑)
お母さんと、神戸の震災のときに
お互いに連絡とらないことって決めたんだよね。
- 浅生
- そうです。
- 糸井
- 連絡とろうとして、いろんなことがややこしくなるから。
- 浅生
- 生きてればそのうち連絡とれるし、
死んでりゃいくらやっても連絡とれないから‥‥
ま、慌てないこと。わかりやすい。
- 糸井
- 神戸の震災のとき、浅生さんは神戸にいて‥‥
- 浅生
- 揺れたときはいなかったんですよ。
当時ぼく、関東の大きな工場みたいなところで働いてて。
そこの社員食堂のテレビを見てたら、
死者が2千人、3千人になるたび周りで盛り上がるんです。
「2千超えたー」「3千いったー」って、
ゲーム観てるみたいな感じで盛り上がってるのが、
ちょっと耐えられなくて。
それですぐに神戸に戻って、
そこから水運んだり、避難所の手伝いしたり、
っていうのをしばらくずっとやって。
- 糸井
- お母さんも、その現場にはいなかったの?
- 浅生
- うち、山のほうなので、家自体は大丈夫でした。
とにかく帰ったときは、まだ街が燃えてて、
火が消えてない状態のときに帰って。
友達もずいぶん下敷きになって燃えたりとか。
神戸の場合は下敷きというより、
火事がひどかったんで。
- 糸井
- あれが神戸じゃなかったら、また違ってたかしらね。
もしあれが実家のある場所じゃなかったら。
- 浅生
- 多分、ぼく行ってないと思います。
もしかしたら「2千人超えたー」って言う側に、
いたかもしれない。
むしろ、言っただろうなと思います。
- 糸井
- それは、すごく重要なポイントですね。
自分が批難してる側にいない、
っていう自信のある人ではないっていうのは、
大事ですよね。
- 浅生
- ぼくいつも、自分が悪い人間だっていうおそれがあって。
人は誰でもいい所と悪い所があるんですけど、
自分の中の悪い部分がフッと頭をもたげることに対する
すごい恐怖心もあるんですよ。
だけど、それは無くせないので。
「ぼくはあっち側にいるかもしれない」っていうのは、
わりといつも意識はしてますね。
- 糸井
- そのとき、その場によって、
どっちの自分が出るかっていうのは、
そんなに簡単にわかるもんじゃないですよね。
- 浅生
- わからないです。
- 糸井
- 「どっちでありたいか」っていうのを、
普段から思ってるっていうことまでが、
ギリギリできることですよね。
- 浅生
- だから、よくマッチョな人が
「何かあったら俺がお前たちを守ってみせるぜ」
って言うけど、いざその場になったら、
その人が最初に逃げることだって十分考えられるし。
多分それが人間なので、そう考えるといつも不安が‥‥
「もしかしたらぼくはみんなを捨てて逃げるかもしれない」
って不安も持って生きてるほうが、
いざというときに踏みとどまれるような気はするんですよ。
- 糸井
- 選べる余裕みたいなものを作れるかどうか、
どっちでありたいかっていう。
「このときも大丈夫だったから、こっちを選べたな」
みたいなことは経験を積み重ねる中で
足し算ができるような気がするんだけど、
一色には染まらないですよね。
- 浅生
- 染まらないです。
- 糸井
- (同席している、ほぼ日の永田の方を向いて)
あー、ほんとに永田さん、
このインタビュー難しいでしょう。
- 永田
- おもしろいです。
- 糸井
- 永田さん、ちょっと参加してみない?2人でちょっと。
知らないでしょ。ぼくほど、浅生を。
- 永田
- あの、小説は頼まれ仕事?
- 浅生
- はい。
- 永田
- 自分からはやらない?
- 浅生
- やらないです。
- 永田
- 頼まれなかったらやってなかった?
- 浅生
- やってないです。
- 永田
- 頼まれなくてやったことって何ですか?
- 浅生
- 頼まれなくてやったこと‥‥仕事でですよね?
- 永田
- いや、仕事じゃなくてもいいです。
- 浅生
- ‥‥‥‥
‥‥ないかもしれない。
- 永田
- おぉー‥‥
- 糸井
- ね、おしまい。1個ずつ全部おしまいだ。
- 浅生
- ちょっと頑張ります。つなげる何かを。
- 糸井
- 頼む!(笑)無理にとは言わない。
- 浅生
- 何ですかね、この受注体質な‥‥。
- 永田
- 入り口は受注だけど、
そのあとは無駄に頼まれなくてもやってることって、
いっぱいあるように見えます。
過剰に、むしろ。
入り口を利用して。
- 浅生
- 頼まれた相手に、ちゃんと応えたいっていうのが
過剰なことになっていくような気はするんですよ。
だから10頼まれて、10を納品して終わりだと、
ちょっと気が済まなくて。
12ぐらい、16ぐらい返すっていう
感じにはしたいなって。
やりたいことがあんまりないんですけど、
やりたいことは「期待に応えたい」っていうこと。
- 永田
- 何にもないと、自分からプチッて先には行かないけど、
頼まれるとやりたいことがワーッと、
その機に乗じて持ってこられるような感じ。
- 浅生
- そうなのかなぁ。
- 永田
- ご自分のところの、あんな変な公式ホームページとか。
(→浅生鴨のホームページ ※音が出ます)
誰もそんな発注してないと思うし。
- 浅生
- あれも
「話題になるホームページって
どうやったらいいですか」
っていう相談をされて、
「じゃあお見せしますよ」って言って、
やった感じなんですよ。
「こういうことです」っていう。
- 永田
- 見事ですね。あの感じ。
- 糸井
- 永田さん好みだよね。
- 永田
- ほんと好みです。
- 糸井
- 浅生さんと共通してるものを感じるんだよね。
自分がやりたいと思ったことがないっていうのは、
俺もずっと言ってきたことなんだけど、
たまには混じるよね。
「あれやろうか」みたいなことがね。
(つづきます)