もくじ
第1回自分のことを話すのは、めんどくさい? 2016-10-18-Tue
第2回嘘に少しの本当を混ぜていた@NHK_PR 2016-10-18-Tue
第3回「ユルいツイートをします」の緊張 2016-10-18-Tue
第4回書きたいことはないけれど、表現欲はある 2016-10-18-Tue
第5回死は寂しい、ニヤニヤして生きていたい 2016-10-18-Tue

関西出身の編集者です。好きなものはオムライス。HNはnatukiFM。家の中を森にすることが夢です。

犬の話、@NHK_PRの話、そして…?</br>浅生鴨さんの底のソコの話

犬の話、@NHK_PRの話、そして…?
浅生鴨さんの底のソコの話

第2回 嘘に少しの本当を混ぜていた@NHK_PR

浅生
先ほどの「引き出しの中に〜」で思い出しましたが、学生時代にいましたよね、勝手に人のカバンの中を探って「こいつ、こんなもの持ってきてる!」とやる子。
糸井
いたんですか? 
…浅生さんは、学校が荒れている時代の人ですか?
浅生
ちょど校内暴力時代なんです。
糸井
僕はその時代ではないので、どんなものか知らない。話を聞いてみると、西部劇の中のならず者みたいな人たちだらけですね。
浅生
本当にすごい時代ですよ。スクールウォーズの時代ですからね。これを言うとみんなびっくりするんですけど、中学校の先生がヌンチャクを持っているんですよ。

糸井
またちょっと、補色してない…?(笑)。
浅生
いや、これしてないです(笑)。
糸井
そう? ヌンチャク白書とか何とか。
浅生
本物のヌンチャクを持っているんですよ。ほかにも竹刀を持っている先生もいました。生徒が悪いことをすると、ヌンチャクや竹刀でバーンとやられるんですよ。
 
でも、生徒側もただではやられない。そこに対抗したりするようなワルな生徒もいる。
今考えると映画『マッドマックス』の世界です。
糸井
『マッドマックス』じゃない。
浅生
僕の地元は、神戸市の中学校、高校の中では比較的おとなしい方でした。特に僕が高校生のときには校内暴力もほとんどおさまっていたんですけど。中学生のころは、マシな方とはいえ、荒れていました。
糸井
ヌンチャクがマシな方? そうするともう、イガイガした鉄の玉とかになっちゃうじゃない?
浅生
バレーボールに、灯油をかけて火をつけて投げる…みたいなことをやっている中学校もあったそうです。
ただ、幸いなことにうちは山の上で、かつものすごい急な坂の上に中学校があるので、他校が「殴り込みだー!」と言っても、坂の途中でへばっちゃう。だから、殴り込みに来られない。
糸井
はぁー。当時はタバコを吸っている人も多かったですからね。息が切れやすいよね。
 
浅生さんは何の役だったんですか? ヌンチャク部じゃないですよね?
浅生
僕は普通に、強そうな悪いヤツがいたら、近くにいるけど積極的にはかかわらないポジションを確保していました。腰巾着まではいかない立ち位置の。
糸井
今、意外と体つきがいいから。当時はケンカが強かったりしたんですか?
浅生
いや、中学生時代はひょろひょろのちっちゃい感じでした。ターゲットになるとしばらくいじめられるから、そうならないように立ち回るっていう。
糸井
でもさ、そう考えてても「どうする」は相手が決めることだから。なかなかうまくいかないでしょ?
浅生
相手が得することを提供してあげれば、うまく回避できたりするんです。
 
中学生だから単純で、褒めれば喜ぶわけですよね。相手が思いもしないことで褒めてあげる。たとえば、ケンカが強いヤツに「ケンカ強いね」じゃなくて、「君、字がキレイだね」と言ったりすると「おっ」ってなるじゃないですか。

糸井
すっごいね、それ。
浅生
そうやってポジションを(笑)。
糸井
磨いた? 「字、キレイ」で。
浅生
ものすごく嫌な人間みたい(笑)。
糸井
いやいや(笑)。西部劇の世界だからね。
浅生
生き残らなきゃいけないので。
糸井
関西では、そういった力に対抗するのが「お笑い」だったりします。「俺はそれでお笑い芸人になった」みたいな人、いっぱいいるじゃないですか。ああいうのと、ちょっと似てますね。
浅生
そうですね。真正面からではなく、違う切り口でそこへ行くという。ちょっと違う球を投げるというか。
糸井
今も似たようなことをやってますよね、なんかね。
浅生
常に立ち位置をずらし続けている感じがありますね。
糸井
なるほどね、動物っぽいですよね。
浅生
動物っぽいですね。たぶん子どものころからそういう…あまり目立ちたくないというか。
糸井
浅生さんが自然に目立っちゃうからでしょうね。目立つ人は遠くにいてもわかるじゃない。
浅生
どうしても目立ちがちなので、もうあんまり目立たないようにするにはどうしようかなと考えるんです。
 
目立たない方法は2つあります。1つは、本当に気配を消してうまく溶け込むか。2つ目は、逆に突き抜けるぐらい目立っちゃうか。このどちらかしかなくて。
バーンと飛び抜けて目立っちゃえば、それはもう普通の「目立つ」じゃないので、また違う立ち位置にいけるんですよね。だから、ぼくはいつもどちらかをわざと選んでいます。溶け込むようにするのか、思い切ってわーっと前に出るのか。
糸井
わーっと前に出て目立とつ言うのは、どういう感じ?
浅生
たとえば、みんながやらないようなことをあえて「はい」と言ってみる。どうぜ誰かに押し付けられる可能性があるものに関しては、自分から先に手をあげちゃうとか、先回りしちゃう。そうすることで「自分で選んだんだ」と自分自身を納得させるんです。
糸井
@NHK_PR時代なんて、そういう開き直りを感じましたよね。
浅生
ああ、そうですね。
糸井
陽動作戦みたいに、呼び寄せて逃げるとかね。@NHK_PRは「NHK」という名前がついていながらやっていた役割ですが…なかなかノウハウがないじゃないですか。あれはおもしろかったね。
浅生
面白かったですね。相当無茶でしたから。
あれも結局、飛び抜けちゃったほうが楽になるという認識でした。確かに、楽になったんですよね。
糸井
自分も楽になるということですか?
浅生
ええ、一番いいのは「あいつはしょうがない」と思われること。これが一番楽ですよね。
糸井
でも「あいつはしょうがない」と言っても、えらく迷惑な人もいるじゃないですか。
浅生さんのいう「あいつはしょうがない」は、あんまり人に迷惑をかけていない。なかなかすごいバランスのところに立っていますよね。
浅生
そうですね。
糸井
浅生さんの場合、どっちでもなくて「おもしろい」になっちゃっているんじゃないかな。@NHK_PRは、おもしろいが武器になっているケースだと思います。
浅生
でも、一つひとつ冷静に見てみると、そんなに面白くないんですよ。
相対として「なんかおもしろいかも」という雰囲気だけはあるんです。でも、よく見ると、そんなに面白くない。
糸井
面白かったですよ。あの、なんだろう。「それは人が言ったことがないな」みたいなことが、けっこういっぱいあった。だから、変な面白さですよね。ものすごいツイートもしたし、ものすごい人のツイートも見たでしょう。
 
あれは、ほぼ24時間やっていたようなものですよね?
浅生
いや、あれはほぼやってないんですよ。
糸井
どういうことですか?

浅生
自動設定してあるんです。だいたい前の日に翌日やることをバーっと書いて、タイマーで設定しちゃって。いわゆる返信とかリツイートも全部タイマーで設定してあるんです。
 
だけど、返信やリツイートを前の日のツイートに対してリツイートしているなんて、みんな思いませんよね。リツイートされた本人だけが「昨日のやつを今ごろリツイートしてる」と思うんですけど。表面上だけ見ている人たちには、リアルタイムでのツイートに見えるという。
糸井
ということは「本人よりも、見ているだけの人のほうが数が多い」とわかってやっていたわけだね。
本人って、1人だもんね。Twitterってそうですね。
浅生
Twitterは、何だかんだ言って1対1のやりとりです。なので、1対1を他人にどう見せるかを演出すれば、すごくうまくやっているように見える。当時は僕も番組を作ったりしていたので、24時間ツイートできませんし。
糸井
でも、僕は@NHK_PRと何回かリアルタイムでやりとりしたことがあるよ。
浅生
リアルタイムをたまに混ぜるんです。
糸井
混ぜるんだ。
浅生
たまに混ぜるんです。だから、嘘に本当を少し混ぜると、全部が「本当」に見えたりします。映像もそうですよね。CGの中に、実写の人を混ぜると、実写に見えてくるっていう。まさにそういう感じです。
糸井
そうか。僕はそれをしないけど、する必要もないわけだけど、とても「なるほど」ですね。
 
そういう作戦を考えるのは、わりとお好きなんですね。構造で考えるというか。
浅生
そうですね。なんというか、前述の「学校の強いワルとどう向き合うか」に近いんだと思うんです。
 
分析して構造を考えて、どこに何を置けばいいか、何を言えばいいかを考えた結果ですね。
第3回 「ユルいツイートをします」の緊張