- 糸井
- 小説は頼まれ仕事?
- 浅生
- はい。
- 糸井
- 頼まれなかったらやってなかった?
- 浅生
- やってないですね。
なんですかね‥‥ぼくは受注体質なんです。
仕事以外でも
頼まれなくて自分からやったことって
これまでないかもしれない。
そのぶん頼まれた相手には
ちゃんと応えたいっていうのがあって、
それが過剰になっていくような気はするんですよ。
10頼まれて10を納品して終わりだと
ちょっと気が済まなくて。
12、いや16ぐらいにして返します。
- 糸井
- ご自身の公式ホームページとか
だいぶ変わってますけど、
誰もそんな発注してないでしょ。
- 浅生
- あれも
「話題になるホームページってどうしたらいいの」
「じゃあお見せしますよ」って
相談を受けてやった感じなんです。
- 糸井
- じゃあ、小説もまた発注されたら書く?
- 浅生
- はい。多分嫌いじゃないもんで。
- 糸井
- 俺も頼まれて一本小説書いたけど、
嫌で嫌で嫌で、もう本当に嫌でしょうがなかった。
二度と書かない(笑)。
めんどくさいもん。
- 浅生
- ぼくだってめんどくさいですよ。
- 糸井
- 18年間毎日原稿書いてるけど、
それも、ほんとに嫌なんだ。
- 浅生
- 小説は毎日書かないですもん。
- 糸井
- 毎日のほうが楽なんだよ、かえって。
毎日やってるっていうアリバイができるから。
日曜もやってる蕎麦屋がまずくても、しょうがないよって。
そこを認めた努力賞が欲しいね。
- 浅生
- 毎日やってるという。
- 糸井
- うん。努力賞でいく。
- 浅生
- やっぱりめんどくさいですよね。
- 糸井
- いや、でもね、
書くのが嫌いな人にはできないですよ。
海外ドラマシリーズとかでも、
俺は2シーズン目の途中でもうめんどくさいもん。
あれを5シーズン観るって言うだけでもすごいですよ。
- 浅生
- 中では11シーズンとかあるんですよ。
- 糸井
- 観るんでしょう?
- 浅生
- もうね、勘弁してくれって思うんです。
- 糸井
- 『ロスト』は何シーズンでしたっけ?
- 浅生
- 『ロスト』はシーズン6までで、
最後グダグダですよ。
最初からまぁそれなりでしたけど。
あれはね、作り方がおもしろくて、
脚本家がいっぱいいるんです。
それぞれが好きにエピソード書くんで。
- 糸井
- 伏線の始末はお前がやってくれっていうんでしょ。
- 浅生
- そうです。それですね。
『アグニオン』が辛かったのは、
自分で始末しなきゃいけない。
- 糸井
- 当たり前じゃん(笑)。
- 浅生
- 連載だったので、1話とか2話では
この先どうなるかわかんないわけです。
自分でもどんな話になるかわからないので。
その時点でいろいろ伏線を仕込むから、
回収してかなきゃいけなくて。
- 糸井
- まったくわかってなかった?
- 浅生
- まったくわかってなかった。
ざっくり何となく決めてたんですけど、
2話の途中ぐらいから話変わってきてて。
- 糸井
- 『おそ松くん』を連載で読んだ経験からすると、
そういうのって全然気にすることないよって思うね。
だって、『おそ松くん』は
六つ子の物語を書いたはずなのに、
チビ太とかデカパンとかの話になっちゃってる。
- 浅生
- これも元々そうで、
最初に原稿用紙で500枚ぐらい書いたんですよ。
で、最後の最後にそれまでの物語を解決するために
1人キャラクターが登場するんですけど、
それを読んだ編集者が
「このキャラがいいね。」って言うんです。
だから500枚は全部捨てて、
その1人を主人公にゼロから書き直したっていう。
- 糸井
- めんどくさがりなわりには。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- でも、ぼくまだ読んでないんですよ。
苦しいのよ、“アグニオン”だけで。
そういうのがタイトルなの?みたいな。
- 浅生
- 何だかわかんないタイトルにしたかったんです。
- 糸井
- わからなくしたいんだね。
ペンネームも「あそうかも」って明らかに本名じゃないし。
何だかわからないものにする癖が
とにかくついてるんですね。
- 浅生
- ああ、そうですね。
ああ、そうかも(笑)。
- 糸井
- ただ、読んでないですけど、
2冊持ってます。
- 浅生
- 女川でもそういう人に会いました。
「持ってます」っていう。
何ですか、この現象。
- 糸井
- だからそれは、作者に対する親しみが強くて、
あとリスペクトもありますね。
日本で一番、
買ったけど読んでないっていうことを
申し訳なさそうに告白する人の多い本。
- 浅生
- ほんとに、
普段本を全然読まないようなタイプの人が
「買いました!」って。
申し訳なくてなんか‥‥。
- 糸井
- じゃあ書くなよ(笑)!
- 浅生
- でも、発注されたからしょうがない‥‥。
(つづきます)
【関連コンテンツ】
海外ドラマのはなしがちらっと出ましたが、
以前ほぼ日で
「いま、海外ドラマがすごくおもしろいので。」
という連載がありました。
その中で、浅生鴨さんのコラム
「クチバシはさんで、すみません。」が読めます。
このコラムもほぼ日からの発注を受けての
大ボリューム、全4回です。