- 糸井
- 「自分がやりたいと思ったことないんですか」
「ないです」
っていうのは、俺もずっと言ってきたことなんだけど、
たまには混じるよね。「あれやろうか」って。
- 浅生
- 例えば、東北の震災のあとに
CMを2本企画しました。
神戸の話をしようと思ったんです。
「神戸は17年経って日常を取り戻しました」
っていうCMを東北に向けてではなく、
単に作ろうと思って。
「何で東北じゃなくて神戸なんだ」って、
企画は通りませんでした。
それでも、企画を携えて東北に行ったんです。
いろんなとこ行って
「どう思いますか?」って聞いて回りました。
そうしたら「これだったら、ぼくたちは平気だ」って
たくさんの人が言ってくれた。
「よし、じゃあ作ろう」と思って
勝手に作っちゃったんです。
それぐらいです、
自分からやろうと思って作ったのって。
あとはだいたい受注ですね。
- 糸井
- 震災の時にNHKのニュース映像が
ユーストリームで配信されているのを
NHK_PRが「独断で許可します」
ってツイートしましたよね。
- 浅生
- いや、でもあれも
人から教えてもらってやったので。
ぼくが1番緊張したのは、震災から数日後に
「これからはユルいツイートします」を
宣言したときですね。
- 糸井
- あぁ。
- 浅生
- ユーストリームを流すのは、
まぁ最悪クビになるだけじゃないですか。
でも「これからはユルいツイートします」
っていうのは相当悩んだんです。
1人でちゃんと舵が切れるかどうかですから。
どうハレーションしていくかわからないので、
傷つく人がいっぱいいるかもしれない。
- 糸井
- 俺もお金の寄付の話を
翌々日にツイートしたときは、
迷ったし恐怖だったね。
このままだとどこかで募金箱にいくらか入れた人は
そこで終わりにしちゃうような気がするな、
っていう実感があって。
それが辛かったんです。だから発信した。
でも、そのツイートのあとには
「じゃあお前はいくらしたんだ」だとか
そういう余計なことのイタチごっこになりますし、
どう広まるかわからない恐怖はありました。
本当に嫌な間違え方をすると
「ほぼ日」の存続に関わると思ったんで。
- 浅生
- ぼくは寄付したくなかったので、
福島に山を買ったんです。
- 糸井
- いいよね、それ。
- 浅生
- ぼくが買える程度の金額なので、
全然大したことはないんですけど。
山買うとどうなるかっていうと、
毎年固定資産税を払うことになるんですよ。
そうすると、うっかり忘れてても
勝手に引き落とされるので、
ぼくがそこ持ってる限りは
永久に福島のその町とつながりができるんです。
- 糸井
- なんだろう、ぼくも
嫌だと思ったことは
面倒でも別の方法をとろうって思う。
そういう感覚が似てるんじゃないかな。
- 浅生
- ストラクチャーを構築して
それをシステムにしちゃうと、
何もしなくてもそうなっていくので、
そうしちゃいたいんですよね。
- 糸井
- そうそう。いい言い換え方するね(笑)。
浅生さん、神戸のときは?
- 浅生
- 揺れたときはいなかったんですよ。
- 糸井
- あ、そうですか。
- 浅生
- 当時ぼく座間にいて
ある工場みたいなところで働いてたので、
燃えてる街を社員食堂のテレビでただ観てました。
死者が2千人、3千人と報道されるたびに
「おぉーっ」って周りが盛り上がるんですよ。
それがちょっと耐えられなくて、
すぐに神戸に戻りました。
戻ってからしばらくは水運んだり、
避難所の手伝いしたりしてました。
- 糸井
- もしあれが実家のある神戸じゃなかったら。
- 浅生
- 多分、ぼく行ってないと思います。
もしかしたら「2千人超えたー」って
言う側にいたかもしれない。
そっち側にいないとは言い切れないんで。
- 糸井
- それは、すごく重要なポイントですね。
自分が批難してる側に、自分がいないとは言い切れない。
その自信のなさは大事ですよね。
- 浅生
- ぼくいつも、自分が悪い人間だっていう恐れがあって。
自分の中の悪い部分が
フッと頭をもたげることに対する
すごい恐怖心があるんです。
だけど、それは無くせないので、
「ぼくはあっち側にいるかもしれない」っていうことを、
わりといつも意識してますね。
- 糸井
- そのとき、その場によって、
良い自分と悪い自分、
どっちの自分が出るかっていうのは、
そんなに簡単にわかるもんじゃないですよね。
- 浅生
- わからないです。
- 糸井
- 「どっちでありたいか」っていうのを
普段から思ってるっていうところまでが、
ギリギリですよね。
- 浅生
- 不安も持って生きてるほうが、
いざというときに
踏みとどまれるような気はするんです。
- 糸井
- 自分のこれまでの経験から
可能性を考えることはできるような気がするんだけど、
一色には染まらないですよね。
(つづきます)
【関連コンテンツ】
浅生鴨さんはNHK_PRさんとして
東日本大震災についての
ほぼ日のコンテンツに登場しています。
糸井重里とのはっきりとした出会いも
防災についての心構えを語った
『その話し合いをしておこう。』でした。
著書『中の人などいない』と合わせて
どうぞお読みください。
・その話し合いをしておこう
・NHK_PRさんがユルくなかった4日間の話。