臨床心理士とは、どんな方かご存知ですか?
臨床心理士とは、
”臨床心理学にもとづく知識や技術を用いて、
人間の”こころ”の問題にアプローチする
”心の専門家””です。
(公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会HPより)
私の母は、その臨床心理士として6年前から
子供や保護者の方のサポートをしています。
その仕事を始める前から、
子供を見かけるといつもニコニコ笑いかけていて、
エレベーターで近くにいた子供にもニコニコ。
体調を崩した私に付き添って来てくれた病院でもニコニコ。
つられて子供もニコニコ。
そんな場面を小さい頃から何度となく見て来ました。
(母が送ってくれた、手作りマスコットです。
母の人柄がよく現れた表情だと勝手に思っています。)
そんな母のもとへ助けを求めてくる子供たちは、
いったいどういう子たちなのでしょう。
気になっていたことを、母に尋ねてみました。
すると、しみじみとした口調で母はこう返しました。
「持って生まれたものとか、
環境とかはその子それぞれだけど、
お話を聞いてもらった経験が本当に少ない、
っていうのは感じるなあ」
言葉の覚え方を考えたとき、
生まれたばかりの赤ちゃんは
言葉を話すことができません。
その代わり、力一杯泣くことで、
近くにいる人に何かを伝えようとします。
親や周りの大人たちは、
その泣いたことがどういう意味なのか、
赤ちゃんの伝えたいことを必死に考えます。
たとえばそれが「お腹が空いた」
というメッセージだったとすれば、
ミルクを飲み終えた赤ちゃんは泣き止みます。
そして、赤ちゃんはミルクを与えてくれた人の
「お腹が空いていたんだねえ。」という言葉を聞いて、
自分のもっていた感覚が「お腹が空く」
という感覚であることを学んで、
徐々に自分から「お腹が空いた」
と言えるようになってくるそうです。
この言葉の覚え方というのは、
言葉を話すようになっても同じで、
今まで経験してこなかった出来事を経験するごとに、
誰かに伝えて、言葉をもらって、
信頼が生まれて、成長していきます。
ところが、そこで話を聞いてもらえないと、
どういうふうに表現していけばいいのかわからず、
言葉にならない部分があまり良くない形で
行動に表れてしまうことがあるようです。
言葉にできない気持ちを、
自分の引き出しの中にある行動で表そうとしたときに、
「頭が痛い」「お腹が痛い」と言ったり、
遅刻をしてしまったりという行動に変換されてしまう。
でも当然、頭痛や腹痛の治療をしても良くなりません。
遅刻を叱っても根本的な解決になりにくいです。
だから子供を見守っている側は、
何が起こっているのかわからず、
どう対処して良いか困惑してしまうのです。
こんな話をしてくれたのを聞いて、
私は3年前のある出来事を思い出しました。
その時の私は、諦めざるを得ない進路が諦めきれず、
思い詰め過ぎたのか、体調を崩してしまいました。
看病しに来てくれた母が、そうした事情を知ったときに
言ったのが、「悔しいね」という一言だったのです。
その時初めて、「ああ私、悔しかったんだ」
と自分の気持ちの正体を知ることができました。
そして同時に、わかってもらえた安心感がありました。
自分のそうした葛藤を知ってくれる人がいるだけで
気持ちがすっと軽くなったのです。
もし、話を聞いてもらえなかったら、
自分の気持ちが何なのか見つけられないまま
もっと抱え込んでしまっていたかもしれません。
そんなふうに、言葉を知り、信頼や安心を得るには
お話を聞いてもらう、という経験が大切なのです。
でも、そのお話をするにも、
引き出しにあるものが少ないうちは
なかなか上手にできません。
だから、そのことを理解して、
行動を表面的に見るだけではなく、
「お腹が痛い」という言葉から
いったい何を言おうとしているのか、
じっくり考えていってあげる必要があるのです。
(つづきます)