- ――
- まず、漫画編集者ってどういうお仕事なんですか?
- 大熊
-
面白い漫画を作る仕事ですね。
プロセスでいいますと、最初の仕事は、
才能のある新人作家さんを見つけることです。
主に新人賞や持ち込みなどで原稿を拝読し、
才能を感じた方と漫画づくりを始めます。
そしてもうひとつ、
作家さんを連れてくることもあります。
- ――
- 作家さんを連れてくる?
- 大熊
-
すでに漫画家としてデビューされている方に、
自分の雑誌に描いていただけるよう交渉するんです。
- ――
- なるほど、そういうこともあるんですね。
- 大熊
-
例えば『ワンパンマン』の
村田雄介先生もそうですね。
『ワンパンマン』原作/ONE 漫画/村田雄介とぼけた顔をしているくせに、
どんな凶悪な怪人も一撃で倒してしまうヒーロー“サイタマ”。
強くなりすぎたせいで、戦いに虚しさを感じているが‥‥
圧倒的な画力で描かれる、「日常ノックアウトコミック」。
- 大熊
-
僕、先生がジャンプで描いていた『アイシールド21』が
本当に好きで。
就活で落ち込みそうになると読み返して、
やる気をもらってました。
編集者になってから、
なんとか村田先生とお仕事をできないかと思ったんです。
でも村田先生は超人気作家ですし、
相当ハードルは高いです。
僕が担当していた新人作家さんが
たまたま村田先生のアシスタントをやっていたので、
まずは名刺を渡してもらいました。
それから社内の人間に頼み込んで協力してもらい、
なんとかお会いする機会をつくって、
アピールしました。
村田先生が最も描きやすい環境であることもお伝えし、
連載を始めていただくことができました。
さらに幸運なことに、村田先生を通して、
『ワンパンマン』の原作のONE先生という
素晴らしい才能と出会う機会までいただいてしまいました。
- ――
-
そういう努力から始まるんですね。
次に編集者はどんなお仕事をされるんですか。
- 大熊
-
どんな内容の連載にするかを先生と話し合います。
あ、でも『ワンパンマン』は元々ONE先生の原作があり、
村田先生ご自身がそれを漫画化したいと
おっしゃったところから企画が始まっているので、
『干物妹!うまるちゃん』の例でもいいですか?
- ――
-
はい。
うまるちゃんの話、ききたいです。
『干物妹!うまるちゃん』サンカクヘッド著
妹の“うまる”は、容姿端麗で文武両道、
誰もが羨む完璧な女子高生。
しかし、この美妹には秘密があった。
一度、玄関をくぐれば、あっちにゴロゴロ♪こっちにゴロゴロ♪
“食う・寝る・遊ぶ”の干物妹ライフ!?
内弁慶の外美人“うまる”の生態を追った
ニュータイプ兄妹コミック。
- 大熊
-
「これを描いてください」と企画前提で
進めるタイプの編集の方もいるんですけど、
僕は基本的に「漫画家さんの中にあるもの」を
前提に描いていただきたいと思っているんです。
その作家さんがどんな来歴を持っているのか、
どんなことを考えているのか、
どんなものが好きなのかをお話ししてもらって、
その中から
「できるだけ多くの読者さんに売れるテーマ」
を選んでいく。
野球でたとえると、
どういう球種を持っているかを
キャッチボールをしながら見極めていく感じです。
そして、その人の持つ強い球種を
研ぎ澄ましていこうと。
- ――
- なるほど。
- 大熊
-
うまるちゃんの場合ですが、
元々「妹もの」は
漫画の中でも人気があるテーマなんですが、
サンカクさんにも実際に妹さんがいらっしゃるんです。
そこから連想したのと、
あと、僕サンカクさんのデビュー作の
『ぽんてら』がとても好きで。
多種多様な美少女が出てくる、
クスリと笑えるコメディなんです。
その原点に帰っていただきたかった。
- ――
-
「多種多様な美少女」と「クスリと笑えるコメディ」が、
サンカクヘッドさんの持っている
一番強い球種だということですね。
うまるちゃんの魅力は、主人公のうまるちゃんが
外では完璧な優等生だけど、
家ではグータラしているという、
そのギャップにあると思うのですが、
そのアイディアはどこから生まれたんですか?
↑優等生の「外うまる」
↑グータラの「家うまる」
- 大熊
-
先輩から引き継いだ漫画で
『B型H系』という作品があります。
主人公の女の子は美少女なのですが、
中身は童貞の中学男子みたいで、
辞書のエッチな単語に赤線を引いたりする、
というキャラクターなんです(笑)
そこから「ギャップの面白さ」を
学ばせてもらいました。
うまるちゃんもそういう魅力がありますよね。
外では成績優秀で
スポーツ万能の完璧美少女が、
家ではみんなと同じようにグータラしてるのって、
夢あるなって(笑)
ぐっとキャラが身近に感じられるし、面白いなって。
それが、
サンカクさんの中にあったキャラクターの魅力なんです。
- ――
-
そういうアイディアを引き出すのも
編集者の大切な仕事なんですね。
あとはどんな仕事があるんですか?
- 大熊
-
あとは先生に気持ちよく仕事をしてもらえるような
環境を整えることですね。
先生をのせる、というと語弊がありますが、
創作意欲を常に高い状態に保っていただくことが大事で。
例えば、先生が落ち込んでいるときには
深夜にひたすら3時間とか話をきいたり‥‥
そういった、
カウンセリングのようになることもあります。
あと、大事な仕事は、
プロモーションです。
100面白いものが80しか売れていないときに、
100売れるようにするのは
普通の編集者の仕事だと思うんです。
それをさらに120売れるようにするのが
良い編集者だと考えています。
先輩の編集者から、
「作品を作ることだけじゃない。
売ることまで考えるのが編集者」だと教わりました。
社内の各部署と協力したり、
ツイッターで情報発信したり、
編集部発のプロモーション企画を考えたり、
そういったことも大事な仕事です。
(つづきます)