もくじ
第1回漫画編集者の「4つの仕事」 2017-05-16-Tue
第2回一番になろうとは思わない 2017-05-16-Tue
第3回すべては面白い漫画をつくるために 2017-05-16-Tue
第4回誰かが成長する瞬間 2017-05-16-Tue

本が好きです。
あと歩いている時は、
だいたいラジオを聴いています。

「面白い」のために全力をつくす。</br>漫画編集者・大熊八甲インタビュー

「面白い」のために全力をつくす。
漫画編集者・大熊八甲インタビュー

担当・藤村

発行部数は1200万部超。
WEB発のコミックとして最も売れた漫画『ワンパンマン』。

この秋2度目のアニメ化が決まった人気作『干物妹!うまるちゃん』。

そしてマンガ大賞を受賞し、
一気に300万部を突破しようとしている『ゴールデンカムイ』。


週刊ヤングジャンプ編集部の大熊八甲さんは、
一作ヒットを生み出せればすごいと言われる世界で、
次々とヒット漫画を世に出しています。

だけど、大熊さんはいたって謙虚。
ヒットの要因のほとんどは先生の力で、
自分がしていることはわずかなことだと語ります。

その「わずかなこと」がいったい何か知りたくて、
今回インタビューをお願いしてみました。
(筆者は、大熊さんと仕事上のお付き合いがあります)

「僕が思う編集者はあくまで黒子で、
作家さんより前に出てはいけないと思ってるんです」
と話す大熊さんに何とかお願いして、
今回、インタビューを受けていただきました。


そもそも、編集者ってどんなお仕事?
どれくらい作品にかかわるの?
いま仕掛けている「次の漫画」は?

質問をぶつけるうちに見えてきたのは、
大熊さんの徹底したプロ意識。
自分のできることとできないことを見極め、
できることを全力でやる。真摯に、まっすぐに。

漫画が好きな方だけじゃなく、
何かを頑張っているすべての方に
読んでいただきたいインタビューになりました。

正直、インタビューをしていて、
何度もぐっときました。

全4回でお届けします。

プロフィール
大熊八甲(おおくま・はっこう)さんのプロフィール

第1回 漫画編集者の「4つの仕事」

――
まず、漫画編集者ってどういうお仕事なんですか?
大熊
面白い漫画を作る仕事ですね。
プロセスでいいますと、最初の仕事は、
才能のある新人作家さんを見つけることです。
主に新人賞や持ち込みなどで原稿を拝読し、
才能を感じた方と漫画づくりを始めます。
 
そしてもうひとつ、
作家さんを連れてくることもあります。
――
作家さんを連れてくる?
大熊
すでに漫画家としてデビューされている方に、
自分の雑誌に描いていただけるよう交渉するんです。
――
なるほど、そういうこともあるんですね。
大熊
例えば『ワンパンマン』の
村田雄介先生もそうですね。


『ワンパンマン』原作/ONE 漫画/村田雄介

とぼけた顔をしているくせに、
どんな凶悪な怪人も一撃で倒してしまうヒーロー“サイタマ”。
強くなりすぎたせいで、戦いに虚しさを感じているが‥‥
圧倒的な画力で描かれる、「日常ノックアウトコミック」。 

大熊
僕、先生がジャンプで描いていた『アイシールド21』が
本当に好きで。
就活で落ち込みそうになると読み返して、
やる気をもらってました。
編集者になってから、
なんとか村田先生とお仕事をできないかと思ったんです。
 
でも村田先生は超人気作家ですし、
相当ハードルは高いです。
僕が担当していた新人作家さんが
たまたま村田先生のアシスタントをやっていたので、
まずは名刺を渡してもらいました。
 
それから社内の人間に頼み込んで協力してもらい、
なんとかお会いする機会をつくって、
アピールしました。
村田先生が最も描きやすい環境であることもお伝えし、
連載を始めていただくことができました。
 
さらに幸運なことに、村田先生を通して、
『ワンパンマン』の原作のONE先生という
素晴らしい才能と出会う機会までいただいてしまいました。
――
そういう努力から始まるんですね。
次に編集者はどんなお仕事をされるんですか。
大熊
どんな内容の連載にするかを先生と話し合います。
あ、でも『ワンパンマン』は元々ONE先生の原作があり、
村田先生ご自身がそれを漫画化したいと
おっしゃったところから企画が始まっているので、
『干物妹!うまるちゃん』の例でもいいですか?
――
はい。
うまるちゃんの話、ききたいです。


『干物妹!うまるちゃん』サンカクヘッド著
妹の“うまる”は、容姿端麗で文武両道、
誰もが羨む完璧な女子高生。
しかし、この美妹には秘密があった。
一度、玄関をくぐれば、あっちにゴロゴロ♪こっちにゴロゴロ♪ 
“食う・寝る・遊ぶ”の干物妹ライフ!?
内弁慶の外美人“うまる”の生態を追った
ニュータイプ兄妹コミック。

大熊
「これを描いてください」と企画前提で
進めるタイプの編集の方もいるんですけど、
僕は基本的に「漫画家さんの中にあるもの」を
前提に描いていただきたいと思っているんです。
 
その作家さんがどんな来歴を持っているのか、
どんなことを考えているのか、
どんなものが好きなのかをお話ししてもらって、
その中から
「できるだけ多くの読者さんに売れるテーマ」
を選んでいく。
 
野球でたとえると、
どういう球種を持っているかを
キャッチボールをしながら見極めていく感じです。
そして、その人の持つ強い球種を
研ぎ澄ましていこうと。
――
なるほど。
大熊
うまるちゃんの場合ですが、
元々「妹もの」は
漫画の中でも人気があるテーマなんですが、
サンカクさんにも実際に妹さんがいらっしゃるんです。
そこから連想したのと、
あと、僕サンカクさんのデビュー作の
『ぽんてら』がとても好きで。
多種多様な美少女が出てくる、
クスリと笑えるコメディなんです。
その原点に帰っていただきたかった。
――
「多種多様な美少女」と「クスリと笑えるコメディ」が、
サンカクヘッドさんの持っている
一番強い球種だということですね。
 
うまるちゃんの魅力は、主人公のうまるちゃんが
外では完璧な優等生だけど、
家ではグータラしているという、
そのギャップにあると思うのですが、
そのアイディアはどこから生まれたんですか?


↑優等生の「外うまる」


↑グータラの「家うまる」

大熊
先輩から引き継いだ漫画で
『B型H系』という作品があります。
主人公の女の子は美少女なのですが、
中身は童貞の中学男子みたいで、
辞書のエッチな単語に赤線を引いたりする、
というキャラクターなんです(笑)
 
そこから「ギャップの面白さ」を
学ばせてもらいました。
うまるちゃんもそういう魅力がありますよね。
外では成績優秀で
スポーツ万能の完璧美少女が、
家ではみんなと同じようにグータラしてるのって、
夢あるなって(笑)
ぐっとキャラが身近に感じられるし、面白いなって。
それが、
サンカクさんの中にあったキャラクターの魅力なんです。
――
そういうアイディアを引き出すのも
編集者の大切な仕事なんですね。
あとはどんな仕事があるんですか?
大熊
あとは先生に気持ちよく仕事をしてもらえるような
環境を整えることですね。
先生をのせる、というと語弊がありますが、
創作意欲を常に高い状態に保っていただくことが大事で。
 
例えば、先生が落ち込んでいるときには 
深夜にひたすら3時間とか話をきいたり‥‥
そういった、
カウンセリングのようになることもあります。
 
あと、大事な仕事は、
プロモーションです。
100面白いものが80しか売れていないときに、
100売れるようにするのは
普通の編集者の仕事だと思うんです。
それをさらに120売れるようにするのが
良い編集者だと考えています。
 
先輩の編集者から、
「作品を作ることだけじゃない。
売ることまで考えるのが編集者」だと教わりました。
 
社内の各部署と協力したり、
ツイッターで情報発信したり、
編集部発のプロモーション企画を考えたり、
そういったことも大事な仕事です。
 
(つづきます)
第2回 一番になろうとは思わない