「面白い」のために全力をつくす。漫画編集者・大熊八甲インタビュー
担当・藤村
第2回 一番になろうとは思わない
- ――
-
そもそも、大熊さんはどうして
漫画編集者になろうと思ったんですか?
- 大熊
-
当たり前の答えですけど、
漫画が好きだったからですね。
漫画はものすごく読んでましたし、
大きな影響を受けてきました。
- ――
-
例えばどんな作品にですか?
- 大熊
-
例えば『うしおととら』には
「まっすぐ、正しく生きる」という道徳観念を教わりました。
さっきも言いましたが、『アイシールド21』には
就活で心が折れそうなときに助けられました。
だから漫画に恩返しがしたいという思いがあります。
でも、絶対に漫画編集者になりたい、
ということではなかったんです。
これだけ、と決めてしまうと選択肢がなくなり、
考えが固まってしまうからです。
だから新聞社や証券会社も受けてました。
- ――
-
意外です。
いつ寝ているんだろう、って思うくらい、
日々漫画の仕事に打ち込んでいるのを見ているので、
「どうしても漫画の編集者になりたい!」
という感じだったのかと。
- 大熊
-
そうじゃないんです。
出版社の中でもスポーツ雑誌や小説の編集にも
興味がありました。
選択肢の幅が広いのは楽しいなって思ってました。
あと、中で働いてもいないのに
「ここの部署じゃなきゃ嫌だ」って思うのは、
そこで働いている人にも失礼ですし、
漫画だけをやりたいって考えるのは、世界が狭いなって。
でも集英社で漫画の仕事をできているのは、
結果的にすごく良かったと思ってます。
- ――
-
どうしてですか?
- 大熊
-
僕の考えですが、ジャンプに代表されるように
集英社はホームランを狙いやすい会社だからです。
だから世の中を動かすような漫画を狙う為には
集英社という環境はとても恵まれているなと感じています。
だからこそ、狙いに行かなくてはいけないなとも思います。
- ――
-
なるほど。
- 大熊
-
大きな仕事ができるから、
集英社は成長するにはいいところだと感じます。
日々成長したいという思いが常にあるんです。
結構強く。
- ――
-
そうなんですか。
- 大熊
-
はい。
僕、何事においても
右肩上がりがいいと思ってるんです。
今までの人生で大きな失敗や挫折もなければ、
大きな成功もなかったんです。
一番になったことがなくて、
だいたい三位くらいのところにいました。
でも三位っていいなって。
常に成長できるから。
- ――
-
一番を目指せるってことですか?
- 大熊
-
いや、一番になろうとは思わないです。
- ――
-
そうなんですか?
- 大熊
-
はい。
自分の限界が分かっているんです。
能力が高くないって分かっている。
僕は一番にはなれない。
でも、三位だと日々成長できるじゃないですか。
常に向上・進化していきたい。
もしかしたらそれが最も業が深いのかもしれないですが。
- ――
-
一番になろうと思わないのは昔からですか?
- 大熊
-
小さい頃は一番を目指していたかもしれません。
でも、だんだん一番にはなれないんだって気づいて。
もう小学生の時にはすでに、
「自分よりすごい人はたくさんいて、その人には勝てないな」
って思ってました。
- ――
-
早いですね。どうしてでしょうか?
- 大熊
-
もしかしたら、
昔から背が低かったからかもしれません。
さっそく劣等感があるじゃないですか。
でもケンカをしたとして、
「身長が低いなら、小回りを利かせて、
相手の膝を蹴ってやろう」みたいな、
そういうメンタリティはありました。
与えられた能力や特性をフルに活かして勝とう、
という考え方を、その頃からしていたと思います。
漫画でいえば、『うまるちゃん』が
『ゴールデンカムイ』に勝っているところもあるし、
もちろんその逆もある。
それぞれの持っている良さで戦っていけばいいなって。
- ――
-
なるほど。
- 大熊
-
背の話に限らず、
自分のスペックが高いわけじゃないから、
先にたくさん準備して、考えて、
全部の手を尽くして勝とうって思ったんです。
- ――
-
それが今の仕事の仕方にも
表れているのかもしれませんね。
- 大熊
-
本当に優れている人って
何があっても揺るがないんですよね。
だけど僕は小物なんです。
でも小物って分かっているのが強みなんです。
そういう戦い方ができるから。
- ――
-
仕事をするうえでも、
一番になろうとは思いませんか?
一番売れる漫画を作ってやりたい、とか。
- 大熊
-
ないですね。
僕は競馬でいえば、
10着だった馬を5着以内に
持ってくる仕事がしたいんです。
- ――
-
表彰台に持ってくる
仕事をしたいんですね。
- 大熊
-
僕と組んだことによって、
作家さんが実力を発揮できたり、
あるいは実力を超えた勝ち星を
積み重ねることができたりしたらいいなと思ってます。
一番になりたい、というのは作家さんのほうが
抱く思いではないでしょうか。
- ――
-
そうなんですね。
- 大熊
-
僕は引き出し上手でありたいです。
それが、理想とする編集者像なんです。
ただ、傲慢かもしれないですが、
担当する作家さんの過去の作品は超えたいんです。
部数という意味ではなくて、面白いという意味で。
そのために、全力を尽くしたいと思っています。
(つづきます)