読み手として、生きること。田中泰延 × 糸井重里
担当・小森谷 友美
第2回 読んだ人の声が、報酬。
- 糸井
-
田中さんのことを「文章を書く人」だと初めて認識したのは、
東京コピーライターズクラブのリレーコラム。
読み始めたらおもしろくて。
僕、27歳か28歳の若い人だと思ったんです(笑)。
「この子がもっと書かないかな」と思って。
- 田中
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あのコラムは、2年前のことですね。
それまで、自分の名義で、
何かを書くことは一切ありませんでした。
- 糸井
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へえ(笑)。
- 田中
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コピーを書くのではなく、自分が何かを書くって言ったら、
2010年にツイッターに出会ってからですね。
文字を打った瞬間、活字になって、
人にばらまかれるっていうことに出会い、
「俺は飢えてた」ことに気づきました。
- 田中
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それで、「世界の街角クリエイティブ」で連載中の映画評論が
次に書いたもので。
最初は「2、3行の映画評を書くだけ」って
頼まれたんですね。それで、
「映画観て、2、3行書くだけでいいの?」
って聞いたけど、
「そうです」って言うから。
次の週に、とりあえず7,000字書いて送りました。
- 糸井
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飢えてたから(笑)。
- 田中
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「これを明日ネットで流せば、絶対笑うやつがいるだろう」とか想像すると、
ちょっと取り付かれたようになったんですよね。
キーボードに向かって、「俺は何をやっているんだ、眠いのに」って。
はじめて、勝手に無駄話が止まらないっていう経験をしたんです。
- 糸井
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大道芸人の喜びみたいな感じですねぇ。
- 田中
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そうですね。
- 糸井
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もし雑誌だったら、
急に7,000字を書くって、まずないですよね。
打ち合わせを挟んだりして。
- 田中
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雑誌に寄稿したこともありますが、
印刷されたものに対して僕に直接、
「おもしろかった」とか「読んだよ」とか反響がないので。
いくら印刷されて、本屋に置いてあっても、
ピンと来ないんですよね。
- 糸井
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インターネットネイティブの発想ですね。
- 田中
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45歳にして(笑)。
- 田中
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「自由に文字書いて、必ず明日には誰かが見るんだ」と思うと、
うれしくなったんですよね。
- 糸井
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新鮮ですねぇ。それはうれしいなぁ。
- 田中
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今、文章を書いても、大して食えないんですよ。
これからの時代は、コンテンツや文章を
お金を出して読む人がどんどん減りますから。
「じゃあ、どうするんだ?」ってフェイズに入っています。
- 糸井
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イェーイ(笑)。
- 田中
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ただ、僕の中では未だに変わらず、
何かを書いたらお金ではなく、読んだ人の声が報酬です。
「おもしろい」「全部読んだよ」とか。
家族はたまったもんじゃないでしょうけどね。