- 田中
-
糸井さんが広告の仕事に一区切りつけた、
違うことに踏み出そうと思ったときのことを
今日お伺いしようと思っていたんです。
- 田中
-
糸井さんと初めて京都でお会いした時に、
タクシーの中で、僕が最初に聞いたことで。
- 田中
-
「ほぼ日という組織をつくって、
その会社を回して大きくしていって、
その中で好きなものを毎日書くっていう。
この状態にすごい興味があります」って言ったら、
糸井さんが、「そこですか」っておっしゃったんですよ。
それが忘れられなくて。
- 糸井
-
「電通の人なのに、そんなこと興味あるのか」と思ったですね。
辞めると思ってなかったから。
- 田中
-
その時、僕も辞めるとはまったく思っていなかったです。
辞めようと決めてから退職するまで、
1ヶ月しかなかったです。
- 糸井
- その理由は‥ブルーハーツ?
- 田中
-
ブルーハーツですよ。
50手前のオッサンでも、中身は20代のつもりだから。
それを聴いた時のことを思い出すと、
人生、すごい速く感じてきたなと思ったんです。
うちの祖母が死ぬ前に言った、
忘れられない一言があって。
「この間18やと思ったのに、もう80や」って(笑)。
- 糸井
- 素晴らしい。
- 田中
-
ここ(会社)は出なくちゃいけないって、
思ったんですよね。
- 糸井
-
僕の場合は、どうしてもやりたくないことが
世の中にあって。
そこを本当に逃げてきた人なんです。
逃げたというよりは捨ててきた。
どうしてもやりたくないことに、
人は案外、人生費やしちゃうんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
僕は、何かやりたいというよりは、
やりたくないことをやりたくないほうの気持ちが強くて。
そこから、マッチもライターもないから、
しょうがなく木切れに火を起こしはじめたみたいなことが
自分の連続だったと思ったんです。
広告も、どうしてもやりたくないことに似てきたんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
これは、まずいなぁと。
プライドっていう言葉に似てるけど、違うんですよね。
魂が、過剰にないがしろにされる可能性が。
そういうのは、嫌ですよね。
- 田中
-
とはいえ、糸井さんの広告のお仕事見ても、
「この商品の良さを延々語りなさい」とかいう
リクエストに応えたことはないですよね、最初から。
- 糸井
-
うん。さっき話にあったみたいに、
「受け手として僕にはこう見えた、これはいいぞ」って
思いつくまでは書けないわけで。
だから僕、結構金のかかるコピーライターで、
車の広告つくるごとに1台買ってましたからね。
- 田中
- ああ。
- 糸井
-
だから、自分でその商品を
「いいぞ」って思えるまでがちょっと大変っていうか。
どこかでやっぱり受け手であることに、
ものすごく誠実にやったつもりではいるんです。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
-
でも、誠実にやりきれなかった仕事も、ときには混じりますね。
「『糸井重里はもうだめですよね』って言われながら、
なんでこのまま仕事しなきゃいけないんだろう?」って、
たぶんそのうち感じるんだろうなと思ったんです。
- 糸井
-
「糸井重里は、もうだめですよね」って、
みんなが言いたくてしょうがないわけですよ。
- 田中
- はいはい。
- 糸井
-
こういう時代に、そこにいるのは絶対嫌だと思って。
それで、僕にとってのブルーハーツが、釣りでした。
釣りは誰もが平等に、争いごとをするんですよね。
その中で勝ったり負けたりっていうところで、
血が沸くんですよ。
- 糸井
-
普段見えていない生き物が、
竿の先に付いたラインの向こうで
ひったくりやがるわけです、
ものすごい荒々しさで。
その実感がもうワイルドにしちゃったんですよ、僕を。
なんておもしろいんだろうって。
プロ野球のキャンプまでの道に何回も水が見えて、
野球を観に行くはずなのに、水を見てるんです。
- 田中
- 水を見てる(笑)。
- 糸井
-
お正月に温泉旅行に行った時も、
真冬に海水浴やるようなビーチで、
一生懸命ルアーを投げるんです。
まったく根拠なく。
- 田中
- 釣れるんですか?
- 糸井
-
まったく釣れません。
根拠のない釣りですから。
でも、根拠がなくても水があるんですよ。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- 僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
今、はじめて説明できたわ。
根拠はなくても水があるんです。
- 田中
- 根拠はなくても水がある。
- 糸井
-
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
それが自分に火を点けた。
僕の「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)。
- 田中
- 水と魚、なるほど。