田中泰延さんと、 明るく人生について。
担当・志谷啓太
第2回 明日、絶対笑うやつがいるだろう。
- 糸井
-
田中さんのおられたチームの話をしましたけど、
圧の強い人たちが集まっているあのチームの中で、
田中さんはどういう存在だったって言えばいいでしょうね?
誰がどういう存在かってわかんないチームだね、あれは。
- 田中
-
なんでしょうね。とりあえず、
呼び方は「ヒロ君」なんですよ。
- 糸井
-
ヒロ君なんですよね。
- 田中
-
ヒロ君。
- 糸井
-
つまり、27歳くらいの呼ばれ方ですよね。
- 田中
-
もうずっと、入って以来ヒロ君なんですよね。
だから、ひどいこともあって、
大きい自動車会社のすごい社長とか重役とか、
バーッと20何人くらい並ぶプレゼンの時にも、
「では、えぇ、
具体的なCMの企画案については、ヒロ君のほうから」。
- 一同
-
(笑)
- 田中
-
向こうはザワザワって、「ヒロ君って誰だ?」、
社長が秘書に、「ヒロ君って誰だ?」(笑)。
- 一同
-
(笑)
- 田中
-
「いやいや、すいません、
ヒロ君と紹介されましたが、田中でございます」
で、プレゼンをするという。
- 糸井
-
俺はそこについてはね、自分もそうだったから。
- 田中
-
あぁ、あぁ。
- 糸井
-
わりと平気なんですけど、
でも、世の中からすると、変ですよね。
- 田中
-
そうですよね。
- 糸井
-
「ヒロ君からのプレゼン」ってね(笑)。
- 田中
-
「ヒロ君からのプレゼン」、芸名じゃないだから(笑)。
- 糸井
-
そこで育った田中さんですが、
嫌じゃなかったんですよね。
- 田中
-
いや、もうそれは居心地よすぎて。
- 糸井
-
20何年いたんですか?
- 田中
-
24年ですね。
- 糸井
-
相当長いですよね。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
僕が田中さんを最初に、
なんか書く人っていうふうに認識したのは、
東京コピーライターズクラブのリレーコラムなんですよ。
- 田中
-
リレーコラム、はい。
2014年の2月くらいに書きました。
- 糸井
-
あのコラムは、800字くらいかな、
で、そのうちの中身にあたるものはほとんどなくて。
- 田中
-
まったくないですね。
- 糸井
-
800字のうち600字くらいは、
どうでもいいことだけが書いてあるっていう文章。
- 田中
-
今でも全然変わらないですね、それ。
- 糸井
-
ねぇ。それがおもしろかったんですよ。
- 田中
-
ありがとうございます。
- 糸井
-
で、僕、書いたの27、8の若い人だと思って。
- 田中
-
(笑)
- 糸井
-
こういう、こういう子が出てくるんだなぁって(笑)。
- 田中
-
(笑)
- 糸井
-
もっと書かないかな、この子がって思って、
いつ頃だろう、27、8じゃないってわかったのは(笑)。
- 田中
-
46、7のオッサンだったっていう(笑)。
- 糸井
-
20歳開きがある(笑)。
- 田中
-
だから、ヒロ君のまま保存されているからですね。
- 一同
-
(笑)
- 糸井
-
そうですね、そうですね。
まだ触ると敏感みたいなね(笑)。
- 田中
-
そうなんですよ。
あの組織の中に入った23歳のヒロ君のまま、
今まで来ちゃってるから。
それが好きに勝手に書くっていうことになったのが
45、6歳ってことですよね。
- 糸井
-
それまで、田中泰延名義で、
ああやって個人の何かを書くことはなかったんですか?
- 田中
-
一切なかったんです。
- 糸井
-
(笑)
- 田中
-
で、あのぅ、僕たち、
この仕事、キャッチコピーね、
20文字程度、ボディコピー200文字とか‥‥
- 糸井
-
はいはい。
- 田中
-
それ以上長いものを書いたということが、
もう人生はないですから、あのぅ‥‥。
- 一同
-
(笑)
- 糸井
-
笑ってます(笑)。
- 糸井
-
じゃあ、広告の仕事をしてる時は、
本当に広告人だったんですか?
- 田中
-
もう真面目な、ものすごく真面目な、
これ、読む人に伝わるかわかりませんけど。
- 糸井
-
どうぞ、どうぞ。
- 一同
-
(笑)
- 田中
-
ものすごく真面目な広告人。
- 糸井
-
誰かの物真似みたいですね(笑)。
へぇー。
それは、コピーライターとして文字を書く仕事と
プランナーもやってたんですね。
- 田中
-
はい、テレビコマーシャルのプランナーを。
- 糸井
-
その分量配分はどんな感じですか?
- 田中
-
関西は、ポスター、新聞、雑誌といった、
いわゆる平面の仕事がすごく少ないんですよね。
出版社も新聞社も東京のほうが多いので。
- 糸井
-
あぁ。
- 田中
-
なのでいわゆる文字を書くコピーっていうのが
ほとんど仕事がなくて。
実質20年くらい、テレビCMの企画ばっかり。
- 糸井
-
はぁ。
- 田中
-
もちろんテレビCMの最後には、
何かコピーっていうものが載りますけど‥‥
- 糸井
-
「来てね」とかね(笑)。
- 田中
-
ありますあります、「当たります」とか(笑)。
だから、ツイッターができた時には、なんか文字を書く、
これが打った瞬間、活字みたいなものになって、
人にばらまかれるっていうことに関しては、
俺は飢えてたっていう感覚はありました。
- 糸井
-
あぁー。友達同士での、こう、メールのやりとりとか、
そういう遊びもしてないんですか?
- 田中
-
あんまりしてなかったですね。
- 糸井
-
すごい溜まり方ですね、
その、性欲のような(笑)。
- 田中
-
もうすごいんですね。溜めに溜まった何かが(笑)。
- 糸井
-
コピーライターズクラブのコラム、
あれは何回書いてますかね。
- 田中
-
えぇと、1週間、月曜から金曜までの5回を
2014年と2015年にやってるので、
計10回書いてますね。
- 糸井
-
あぁ、それしかまず個人の名前で書いて出てくるものは
なかったわけだ。
- 田中
-
はい。あれだけがなんかはけ口だったんですけど(笑)、
しかもあれ、反応がないんで、ツイッターとかみたいに。
- 糸井
-
とりあえずあれはないと思いますね。
で、なんていうんだろう、嫌々やる仕事ですよね。
- 田中
-
うん、回ってくるのでやる仕事ですね。
- 糸井
-
でも、それを田中さんは全然嫌じゃなかったんですか?
- 田中
-
あれはもう初めてのことなんで、
「あ、なんか自由に文字書いて、
必ず明日には誰かが見るんだ」と思うと、
うれしくなったんですよね。
- 糸井
-
新鮮ですねぇ。あぁ、それはうれしいなぁ。
で、やがて、映画評みたいなものが次ですか?
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
西島さん(:西島知宏さん)にお願いされて。
- 田中
-
はい。
糸井さんが見られたのと同じ、
東京コピーライターズクラブのリレーコラムと、
それから、ツイッターで時々
「昨日見た映画、ここがおもしろかった」って
2、3行書いてたのを見て、
「うちで連載してください」と。
で、「分量はどれくらいですか?」って聞いたら、
「ツイッターの映画評と同じ2、3行でいいです」って。
- 糸井
-
(笑)
- 田中
-
「いいの?2、3行で?」、
「映画観て、2、3行書けば、それでなんか仕事的な?」
って言ったら「そうです」って言うから、
映画を観て、次の週に、
とりあえず7,000字書いて送りました。
- 一同
-
(笑)
- 糸井
-
溜まった性欲が。
- 田中
-
そう。書いてみると、やっぱりね。
- 糸井
-
2、3行が(笑)。
- 田中
-
2、3行のはずが7,000字になってたんですよね。
- 糸井
-
7,000字、多いですよね。
- 田中
-
多いですね(笑)。
- 糸井
-
書き始めたらなっちゃったんですか?
- 田中
-
なっちゃったんです。
『フォックスキャッチャー』っていう、
わりと地味な映画なんですけど、
それを観て、2、3行それも書くつもりだったんですよ。
そうしたら、初めて、
勝手に無駄話が止まらないっていう経験をしたんですよね。
- 糸井
-
あぁー。
- 田中
-
キーボードに向かって、
「俺は何をやっているんだ、眠いのに」っていう。
- 糸井
-
書くことへのうれしさから?
- 田中
-
なんでしょう?
「これを明日ネットで流せば、
絶対笑うやつがいるだろう」とかっていう想像すると、
ちょっと取り付かれたようになったんですよね。
- 糸井
-
あぁ。一種こう、大道芸人の喜びみたいな感じですねぇ。
- 田中
-
あぁ、そうですね。
- 糸井
-
はぁ。もし雑誌のメディアとかなんかだったら、
打ち合わせがどうだとかなんとかあって、
そんな急に7,000字になって出すってことは、まずないですよね。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
頼んだほうも頼んだほうだし、
メディアもインターネットだったし、
本当にそこの幸運はすごいですねぇ。
- 田中
-
その後、雑誌に寄稿もしたんですけど、
雑誌は、僕に直接「おもしろかった」とか
「読んだよ」とかないので、
なんかピンと来ないんですよね。
- 糸井
-
はぁ、インターネットネイティブの発想ですね。
- 田中
-
反応がないというのが。
- 糸井
-
若くないのに、そのね。
- 一同
-
(笑)
- 田中
-
45にして(笑)。
- 糸井
-
いや、でも、その逆転は、
25歳くらいの人とかが感じてることですよね。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
はぁ、おもしろい。そんなの、すごいことですね。
だって、酸いも甘いも、40いくつだから、
一応知らないわけじゃないのに。
- 田中
-
すごいシャイな少年みたいに、
ネットの世界に入った感じですね。
で、前は大きい会社の社員で、
夜中に仕事終わった後書いてましたけど、
今はそれを書いても生活の足しにならないから、
じゃあ、どうするんだ?っていう
フェイズには入っています。
- 糸井
-
27の人と今話してますね(笑)。
- 田中
-
そうですね(笑)。
- 糸井
-
いや、そんなの、そうだね(笑)。
「誰かに相談したの、それは(笑)」?
- 田中
-
すごい、悩み相談、若者の(笑)。
- 糸井
-
27の子が独立したっていうことで、
「それは誰かに相談したの?すでに。
奥さんはなんて言ってるの?」
- 田中
-
そんな感じですね(笑)。そう。
- 糸井
-
愉快だわ(笑)。
- 田中
-
ただ、僕の中では相変わらず、
何かを書いたら、お金ではなく、
「おもしろい」とか、「全部読んだよ」とか、
なんか「この結論は納得した」とかっていう
その声が報酬になってますね。
家族はたまったもんじゃないでしょうけどね、
それが報酬だと。