もくじ
第1回手土産と、お花見問題。 2017-03-28-Tue
第2回明日、絶対笑うやつがいるだろう。 2017-03-28-Tue
第3回自分が書いてくれるのを待ってる。 2017-03-28-Tue
第4回ご近所の人気者。 2017-03-28-Tue
第5回根拠はなくても水がある。 2017-03-28-Tue

コンテンツを作るとはどういうことなのか、考えたくて参加しました。できることを、精一杯がんばろうと思います。どうぞよろしくお願いします。

田中泰延さんと、 明るく人生について。

田中泰延さんと、 明るく人生について。

担当・志谷啓太

第5回 根拠はなくても水がある。

田中
この間の9月にみんなで、
燃え殻さんとか永田さんとか古賀さんと
雑談したじゃないですか。
『書くについての公開雑談。』
糸井
うん。
田中
あの時点でまったく会社を辞めると
思ってなかったですから。
糸井
素晴らしいね。

田中
辞めようと思ったのが、11月の末ですね。
糸井
(笑)
田中
で、辞めたのが12月31日なんで、1ヶ月しかなかったです。
糸井
素晴らしい(笑)。
11月末に何かあったんですか?
田中
いや、なんか、これが本当にね、ブルーハーツですよ。
糸井
(笑)
田中
だからなんか、まだこんなね、
50手前のオッサンになっても、
さっきお話したように中身は20うん歳のつもりだから、
それを聞いた時のことを思い出して、
「あ、これは、なんかもう、
このように生きなくちゃいけないな」って。
 
かと言って、何か伝えたいこととか、
「熱い俺のメッセージを聞け」とかないんですよ。
相変わらず、なんか見て聞いて、
「これはね」ってしゃべるだけの人なんですけど、
でも、なんか、
「ここは出なくちゃいけないな」ってなったんですよね。

糸井
あの、
どうしてもやりたくないことっていうのが世の中にはあって、
そこを僕は本当に逃げてきた人なんです。
で、逃げたというよりは捨ててきた。
 
それはどうしてもやりたくないことに、
人は案外、人生費やしちゃうからなんですよ。
田中
はい。
糸井
それで僕は、何かやりたいというよりは、
やりたくないことをやりたくないほうの気持ちが強くて。
 
そこからしょうがなく、マッチもライターもないから、
木切れをこうやって火を起こしはじめたみたいなことが
自分の連続だったと思ったんで。
 
そして広告も、
なんかどうしてもやりたくないことに似てきたんですよ。
田中
はい。
糸井
で、「これ、いや、まずいなぁ」と。
つまり、プライドっていう言葉に似てるけど、違うんですよね。
どうしてもやりたくないことに近い。
 
で、うーん‥‥。無名の誰かであることはいいんだけど、
やっぱりこう、魂が過剰にないがしろにされる可能性みたいな、
そういうのは嫌ですよね。
田中
とはいえ、糸井さんのその広告のお仕事見てても、
「この商品について、この商品の良さを延々語りなさい」とか、
そのリクエストに応えたことはないですよね、最初から。
糸井
うん、うん。
 
何なんだろう、だから、やっぱりさっきの、
「受け手として僕にはこう見えた、これはいいぞ」
って思いつくまでは書けないわけで。
 
だから、僕、結構金のかかるコピーライターで、
車の広告するごとに1台買ってましたからね。
田中
あぁー。
糸井
だから、それはおまじないでもあるんだけど、
「いいぞ」って思えるまでがやっぱりちょっと大変っていうか。
 
だから、お酒は飲めないけども、
その分どうやって取り返そうかみたいなところは
結構ありましたし、
どこかでやっぱり受け手であるっていうことに
ものすごく誠実にやったつもりではいるんです。
田中
はい、はい。
糸井
それでも、広告の仕事を辞めるっていうことを思い始めたのは、
「このまま、『あいつ、もうだめですよね』って言われながら、
なんで仕事やっていかなきゃならないんだろう?」
っていうふうに考えるように、たぶんなるんだろうなと思って。
 
「あいつもうだめですよね」って、
僕についてはみんなが言いたくてしょうがないわけですよ。
田中
はいはい。
糸井
だから、「はぁーっ」と思って、
「こういう時代にそこにいるのはまずいな」っていうか、
「絶対嫌だ」と思って。
 
で、僕にとってのブルーハーツに当たるのが
釣りだったんですよね。ずっと釣りしたかったんで。
 
そこは、誰もが平等に、争いごとをするわけですよね、
コンペティション。
田中
はい、コンペティション。
糸井
で、その中で勝ったり負けたりっていうところで
血が沸くんですよ、やっぱりね。
田中
この間おかしかった(笑)、
「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても、
魚がいるんじゃないか」って(笑)。
糸井
そう(笑)。

田中
そう見える(笑)。
糸井
そうなんです。
 
釣りを始めたのは12月だったと思うんですよ。
東京湾に、シーバスって呼ばれてるスズキですね。
田中
スズキ。
糸井
それがいるんだってことがわかっただけで
もううれしいわけですよ。
 
で、「いるんだ」っていうのと、
普段見えていない生き物が俺のその、
竿の先に付いたラインの向こうでひったくりやがるわけです、
ものすごい荒々しさで。
 
その実感がもうワイルドにしちゃったんですよ、僕を。
なんておもしろいんだろうと思って。
 
その後、プロ野球のキャンプに行ったんです。
野球もまた僕をなんかワイルドにするものなんですけど、
青島グランドホテルに向かうまでの道のりに何回も水が見えて、
野球を観に行くはずなのに、水を見てるんです。
田中
水を見てる(笑)。
糸井
折りたたみにできる竿とかを、
野球のキャンプの見物に行くのに、持っているんです。
田中
持ってるんですね(笑)。
糸井
で、正月は正月で、家族旅行で温泉かなんか行った時に、
まったく根拠なく、
真冬に海水浴やるようなビーチで、一生懸命投げてる。
田中
投げて(笑)。
糸井
それを妻と子どもが見てるんだ。
田中
(笑)なんか釣れましたか、その時は?
糸井
まったく釣れません。
田中
(笑)
糸井
根拠のない釣りですから。
田中
(笑)
糸井
でも、根拠がなくても水があるんですよ。
一同
(笑)
糸井
いいでしょう?
これ、僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
田中
なるほど。
糸井
もう今初めて説明できたわ。
田中
はぁー。
糸井
根拠はなくても水があるんです。
田中
根拠はなくても水がある。
糸井
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
で、それが自分に火を点けたところがある。
 
だから、僕の「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)。
田中
水と魚、はぁー。なるほど。
糸井
おもしろいんですよ。
 
朝日が明ける頃に1人で誰もいない所で釣りをしてると、
何も気配がなかった、
ただの静けさの田んぼの間の水路みたいな川で、
初めて釣れる1匹に泥棒に遭ったかのように
ひったくられるんですよ。
 
で、「俺の大事な荷物が今盗まれた!」っていう瞬間みたいに、
パーッと引かれるんですよ。その喜び。
 
これがね、なんだろう、俺を変えたんじゃないですかね。
 
広告を辞めるとかっていう、
「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、
「水さえあれば、魚がいる」っていうような、
その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
田中
はぁー、なるほど。
やっぱり肉体の重要性というか、身体性がともなうことって、
すごい大事ですね。
 
いや、そしてその話が、まさかインターネットにつながるとは。
糸井
思いついてなかったですね。
田中
あぁ。でも、言われてみたら、きっとそういうことですよね。
糸井
田中さんもなんかこう、
さっきの釣りの「当たり」みたいなおもしろさのところのは
たどり着いてみたいですねぇ。
 
おもしろいんですよ。
その魚がね、生存をかけてひったくるわけじゃないですか。
田中
はい、はい。
糸井
俺の罠を。あれはすごいですよ。
田中
さっきのね、
「ご近所」の話もそうですし釣りの話もそうですけど、
糸井重里さんにお会いして身体性の話に行くと
思ってなかったから、今日、もうそれがもうすごい、
何か僕のこれからがやっぱり変わってくると思います。
糸井
このへんで終わりにして、
「どうするんですか」話は、公な所じゃなくて、
もっといびれるような所でしましょうか(笑)。
田中
いじめてください、もう(笑)。 
今日はいい話、非常に聞きましたよ、本当に。
糸井
お疲れ様でした。どうもありがとうございます。
田中
ありがとうございました。

(拍手)