- 糸井
-
『じみへん』で中崎タツヤさんが書いた言葉で
「ご近所の人気者」っていうフレーズがあるじゃないですか。
で、それをうちのカミさんが、「俺だ」って言ったんですよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
アマチュアであることとね、「ご近所感」ってね、
結構隣り合わせなんですよ。
- 田中
- うんうん。
- 糸井
-
で、アマチュアだってことは、
変形してないってことなんですね。
プロであるってことは、変形してる。
- 田中
- 変形。
- 糸井
-
これは吉本隆明さんの受け売りで、
吉本さんはマルクスの受け売りなんですけど、
「人間は自然に働きかける。」
そして「働きかけた分だけ自然は変わる」。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
「それは作用と反作用で、
変わった分だけ自分が変わっているっていうのが、
これはマルクスが言ったんすね」と。
で、「つまり、何かするっていうのはそういうことで、
相手が変わった分だけ自分が変わっているんだよ」と。
- 糸井
-
わかりやすいことで言うと、
「ずっと座ってろくろを回してる職人さんがいたとしたら、
座りタコができているし。あるいは、指の形やらも
変わっているかもしれない。散々茶碗をつくってきた分だけ、
自分の腰が曲がるという形で、反作用を受けてるんだよ」と。
で、「1日だけろくろを回している人には、それはないんです」って。
- 田中
- そうですよねぇ。
- 糸井
- うち、夫婦ともにアマチュアなんですよ。
- 田中
-
えぇ?奥様は、僕らから見ると、
やっぱりプロ中のプロのような気がするんですけど。
- 糸井
-
違うんです。
「プロになるスイッチ」を入れて、
その仕事が終わったらアマチュアに戻る。
そういうタイプの人は、世の中にやっぱりいて。
それはプロから見たら、卑怯ですよね。
- 田中
- うーん‥‥。
- 糸井
-
「あんた、いいとこ取りじゃない」みたいな。
でも、スイッチ換えて2つの人格をするって、
なかなかしんどいし、心臓に悪いんですよね。
だから、アマチュアは体力要るんです。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
-
カミさんは高い所が、本当は苦手なんですよ。
僕は、パラシュートとか、
自分はできるかなって思うタイプなんですけど。
カミさんに「じゃあ、仕事ならやる?」って言うと、
「やる」って。
- 田中
- おっしゃるんですね(笑)。
- 糸井
-
だから、アマチュアである人のほうが、プロだなと。
「次もあるから、それやっちゃだめだよ」とか
「そこで120パーセント出したら、そういうイメージが
付いちゃうから、もうだめだよ」みたいなこと、
へっちゃらなんですよね、アマチュアって。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
やっぱり、「プロって弱みなんですよ」っていうのは
肯定的にも言えるし、否定的にも言えるし。
ただ、「何でもない人として生まれて死んだ」っていうのが
人間として一番尊いことだっていう価値観は、
僕の中でどんどん強固になっていきますね。
- 田中
-
そういう意味では、「えらそうくならない」って、
これは大阪弁ですけど、すごい大事だなって。
あれは、吉本隆明さんのお話でしたっけね、お花見の時の。
- 糸井
-
うんうん。
午前中から来て。
- 田中
-
そう、午前中から。
吉本さんがいろいろセッティングをしていると。
- 糸井
-
自転車でブルーシートを背中に背負って、
そこで読む本を1冊持って、
人が集まる夜まで、本を読んでるんです。
- 田中
- すごいですよね。
- 糸井
-
たしか鍋のセットを持って行ったんじゃないかな。
でも、鍋が上手じゃなくて。
「さぁやろう」っていう時に火が点いて、
グツグツいい出すと、こう、鍋の具材をいっぺんに入れちゃう。
それで、「ちょっと、吉本さん、それはどうかと思いますよ」
って言ったんですよ。
- 田中
- (笑)。
- 糸井
-
吉本さんも「あぁ、そうか、そうか」って言うんですよ。
だいたい「そうか、そうか」っていうことで、
すぐ謝っちゃうんです。
- 田中
- すぐ謝る(笑)。
- 糸井
-
いや、そういう見本を見てたからだと思う。
その、間違わない場所みたいなのを、
僕はなんか吉本さんを見てたのが
すごいでかいような気がしますね。
- 田中
- そうですね、すごい大事だなって。
- 糸井
- 鶴瓶さんとかも、ものすごく上手ですね。
- 田中
- まったく「えらそうくならない」ですね。
- 糸井
-
あれはもう、鍛え抜かれた「えらそうくならなさ」ですね。
あの人はトップだなぁ。
前に、一緒に大阪の街を歩いたことがあって。
- 田中
- ええ、ええ。
- 糸井
-
「お好み焼き食いに行こう」って言ってね。
で、鶴瓶さんだって気付きそうな人がいたら、
自分から攻めていくもんね。
鶴瓶さんの方から、「こんばんはぁ」って(笑)。
- 田中
- はぁ(笑)。
- 糸井
-
すごいなぁ。「攻撃は最大の防御や」って言うんだけど。
ああいういい見本が関西には多いね。
その、なんていうんだろう、
「身内」っていう感覚の持ち方の上手さ。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
それは「身内」イコール、また「ご近所」なんでね。
あの人にとってみれば。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
-
じゃあ、ここで終わりにしよう。
つまり、「どうするんですか」話は‥‥
公な所じゃなくて、もっといびれるような所で。
- 田中
-
いじめてください、もう(笑)。
で、ずっと思っていたんですけど、そのバッジは何なんですか?ヒロノブって(笑)。
- 糸井
- これですか?服着たら付いてた。
- 一同
- (笑)。
- 糸井
- それでは、お疲れ様でした。どうもありがとうございます。
- 田中
- ありがとうございました。
(おわりです)