もくじ
第1回よしもとばななさんとの出会い 2017-11-07-Tue
第2回主人公との共通点 2017-11-07-Tue
第3回めぐるめぐる大きな流れ 2017-11-07-Tue
第4回いちばんの好きな理由は 2017-11-07-Tue

93年、九州生まれの会社員。おいしいもの好きが高じて、大学では農業を専攻。農業の現場、微生物、スーパーや八百屋さん巡り、料理、器、、、おいしいものがめぐりめぐっている感じがすき。好きな作家は、吉本ばななさんと山田詠美さん。マイブームは、みょうがと酒盗。

わたしの好きなもの</br>よしもとばななさんの「王国」

わたしの好きなもの
よしもとばななさんの「王国」

担当・まるやま

第2回 主人公との共通点

わたしは生まれも育ちも九州で、社会人になるとともに東京
に越してきました。ある意味では憧れで、ある意味では怖か
った東京。わくわくと不安とで、自分の中はごちゃごちゃし
ていました。

引っ越してきて2週間くらいのとき、友だちに誘われてスカ
イツリーにのぼりました。何の気なしに行っただけだったの
に、スカイツリーから東京の街を見下ろしたとき、冗談抜き
でしまった、大変なところに来てしまったと思いました。わ
たしは、こんなところでは生きていけない・・・。

山や緑なんてこれっぽっちしかなくて、すべてを人間が作り
上げて、すべてを人間が支配しているような場所だと思いま
した。大げさに思うかもしれないけれど、そのときのわたし
は大真面目に本当に思ったんです。

「この場所において、ことを思い通りに進められないなら、
それは努力不足だ。だってここは人間が支配している街だ
から。だからこれからは言い訳なんかできないぞ。」と。

スカイツリーから街をみおろした図

わたしが住んでいた九州では、嫌でも自然と付き合っていか
なければなりませんでした。台風が直撃する可能性は高く、
山も海も近くにあるから天候に合わせて行動しなければ自分
の身が危ない。だからある意味では、何かの行動ができなく
てもしょうがない、と思わせてくれる理由が自分以外のとこ
ろにありました。自分の意思の通りにならない、人間よりも
もっと大きな力がはたらいているものがたくさんあることを
実感しているから、せかせかせず、大らかに構えていられた
ような気がします。

でも東京は人間が巨大な勢力(自然)に立ち向かって勝利し
たような街なので、わたしも勝ち続けなければならないぞ。

そんな、なんだか分からないけど不安で、どこにすがってい
いのか分からないようなこの気持ちが、山から街へ出てきた
主人公の雫石(しずくいし)と自分を重ね合わせたのだと思
います。

心の中では不安で、もやもやしていても、平気な顔をしてい
たい気持ちもあります。だから、「東京じゃ深く息が吸えな
い!」なんてことは相談しない、できない。

そんなときにこの本を思い出して、手に取りました。主人公
の雫石が都会の変なところについて語っていたり、逆に、街
のいいところに気づいていたりすると自分の気持ちを代わり
に言ってくれている気分になって嬉しくなります。息苦しさ
を感じているのはわたしだけじゃないぞ、ってすっきりしま
す。雫石が街のいいところを実感している場面では、うんう
ん、そうだよね!って頷きたくなります。

あんまり人に話すことのない、人間がつくった街の息苦しさ
とおもしろさを共有できるから、わたしは「王国」が好きで
す。

(つづきます)

第3回 めぐるめぐる大きな流れ