ここまでいろいろ書きましたが、とにかく、あったかいもの
につつまれている本なのです。よしもとばななさんはこの本
のあとがきで、何が言いたかったんだろうと自分で言ってい
ます。でもわたしは、その余白のようなものが、入り込む隙
があっていいのかもしれないなあと思います。
教訓めいていなくて、メッセージ性が強すぎなくて、それな
のに読むごとにじわじわくる、そういう感じ。読むたびに毎
回感じることが違って、でも毎回頷けるところがある。だか
らたぶんずっとそばに置いておいて、いつでも戻れる場所で
あってくれるのだと思います。
主人公の雫石をはじめとして、育ての親のおばあちゃんや、
師匠であり友人でもある楓、雫石の永遠のライバル?の片岡
さん。みんな真っ直ぐで、愛情深くて、ちょっと不器用。で
も、こんなに魅力的な姿勢で生きられるのならわたしも、不
器用さを恐れずに、素直に、真っ直ぐにぶつかりたいと思わ
せてくれます。だから本を読みながら、あけっぴろげな気持
ちでわたしも、自分の考えを投げている。
そんな風に、読むと気の知れた友だちとお茶をするような感
覚になれるから、わたしは「王国」が好きです。
人によってすきな感じは違うから、あなたにとっても絶対に
良い本ですよ!とは全然思いません。でも、もしもわたしに
とっての「王国」のように、他の人にとって安心できる帰り
たい場所になる本や映画があれば、聞いてみたいなぁと思い
ます。
最後に、何よりも。この文章を書いて、気づいたことがあり
ました。物語を読んでいるのに、後には聞いてもらったよう
なすっきりとした気持ちが残る。だから、わたしは「王国」
が大好きです。
(おしまい)