もくじ
第1回好き勝手生きたあとに 2017-12-05-Tue
第2回社長としてはじめての小さな仕事 2017-12-05-Tue
第3回同僚でもある母に聞く 2017-12-05-Tue
第4回社長としての決意 2017-12-05-Tue

岐阜で生まれ育ち、現在は東京・武蔵野で家族三人、猫一匹と暮らしています。ファッションを中心に編集やライターの仕事をしています。狂おしいほどナッツが好き。最近のおすすめは中国発のスパイシーピーナッツ。

なりたくなかった“社長”になった日。

なりたくなかった“社長”になった日。

担当・なちまさと

第2回 社長としてはじめての小さな仕事

平成元年に建てられた自社ビルは
年月を経て目に見えて老朽化が進んでいる。
一階部分だけ地元では穴場として知られる
おしゃれなカフェが入り、家賃収入があるようだが
母が隣で「オーナーが若い女の子で応援したくて
本当にわずかな賃料で貸しているの」と笑っている。
自分のお金に頓着しない性格は親譲りなのか。

鼻息荒く意気込んで帰省したものの、
ビルとマンションと猫の額ほどの駐車場があるだけで
正直、面白くケレン味たっぷりに語れるだけの仕事はない。
本当は『里帰り若社長の奮闘記!』とかを
かっこよく書きたいけれど、いたって地味なのである。
家賃の入金を確認したり、部屋が空いたら不動産屋に
入居者募集の告知をしてもらうだけのようだ。
だから、時機を見て岐阜に戻ってきます。
(おわります。)

いやいや、ここで終われない!
よーし! と気を取り直して
まずは管理人らしくマンションの掃除をした。
十数年ぶりに足を踏み入れたマンションは
汚れやほこりが堆積して黒ずんでいたので
家の掃除でもここまではやらないっていうほど
隅々までほうきで掃いて、天井のほこりをとって、
3階から1階まで母と協力して丁寧に清掃した。
日ごろの感謝、というと聞こえはいいけど、
自分なりの決意表明として。

そのあと、毎年決算申告を行っていただいている
税理士の方にごあいさつ。
朴訥とした語り口で、繰越欠損金や減価償却で吸収可能な
経費の額や翌期予測の話をしてくださるのだけど
普段見慣れていない決算報告の数字の細かさを見て
あやうく船を漕ぎそうになってしまった。
現状を把握し、近況を報告したあとに、
「母に任せきりにしてしまっていた仕事を、
ぼくがしっかり引き継ぎます」と前のめりに宣言したら
表情を崩すことなく「はい」と軽くいなされてしまった。

状況のせいにして、自分本位で変わろうとする、
うまく見せようとしてしまうことに
自分に対して苛立ちが募る。
帰省や課題にかこつけたひとり相撲になっている。
たかが一日ありていのことをしただけで
劇的に変化するなんてことはないのに。
でも、一歩、いや半歩だけでも踏み出さないと
根無し草のように浮ついたまま
生きていくことになるような気がするから
逃げずに向き合うしかなかった。

そして、母とこれまでのこと、
これからのことを話すことにした。

(つづきます)

第3回 同僚でもある母に聞く