- ——
-
つかもとさんって、
「これ買っとけ」とか「それはあなたには売らない」とか
ストレートに言うけど、
そこには服とお客さんに対する愛があるような気がして。
だから嫌な気持ちにならないんです。
接客するときに意識することってあるんですか?
- つかもと
-
服を売って終わりじゃなくて、
最近どう? とか、
いくらもらってんの? とか、
家族構成から財布事情、なんの仕事してるのか、
彼氏彼女はいるのか、結婚してるのか、
そこまで入っていけるのが個人商店の強みじゃん。
この人、買ってくれるかな? っていう顔色じゃなくて、
こいつ元気ねえなっていう顔色を見てるかな。
- ——
- へえ! 顔色を見る。
- つかもと
-
それって基本じゃん、人付き合いの。
家族だって友達だって、顔色見て付き合うじゃん。
- ——
- 基本をやってるだけ。
- つかもと
- そう。
- ——
-
なるほどなあ。
だからか、スリラバには服屋へ行くっていうより、
喋りに来てるだけっていうか。
- つかもと
-
お客さんの駆け込み寺になるのが理想かな。
そこにいる俺が、たまたま服が得意なだけ。
- ——
- 服屋であって、服屋でない。
- つかもと
-
だって服は日用品だよ。
家で洗えなきゃ意味ないし、
“衣装”になっちゃ困る。
俺たち別に、ステージに立つわけじゃないでしょ。
生活するんでしょ。
だったら使いやすいものを選べばいい。
服はタワシと一緒だよ。
- ——
-
タワシ!
じゃあ、大事なのは使い心地?
- つかもと
- そっちじゃない?
- ——
-
オリジナルのデザインがシンプルなのは、
日用品だからなんですね。
今シーズンのタートルニットには
タグさえもついてなかったですよね?
- つかもと
-
タグつくって服の値段にのっけるなら、
そういう変な負担はなくす。
買い物袋もビニール袋でいい。
立派な袋に“The Three Robbers”って
ロゴ入れて外歩かれたら、恥ずかしいよ、俺(笑)。
- ——
-
(笑)
変な負担をなくすのは、
素材にこだわったうえで
職人さんにもしっかりとした対価を払いたいから?
- つかもと
-
あとは、真っ当な値段で売りたい。
俺、女性ひとり食わせる給料が出れば、
それで十分だよ。
- ——
- はあー。
- つかもと
-
それだけでしょ。
男に生まれたからには。
- ——
-
つかもとさんがもう10才若くて未婚だったら
好きになってたかも。
- ふたり
- (笑)
- ——
-
もうひとつ、つかもとさんから前に言われた、
「化繊にバカみたいな値段払うな」っていう言葉も
印象に残ってます。
- つかもと
-
化繊も良いとこあるけど、俺は好きじゃないね。
好き嫌いの問題で、正解はないのよ。
ウールのセーターだって、ポリエステル入れれば
毛玉は確かにできにくくなるの。
でも俺、セーターって
毛玉ができたら暇なときにハサミでぱちんぱちん、
切って落ち着くっていうのがあるのよ。
これはもう美意識だよね。
- ——
-
入れないものと入れたものでは、
たたずまいも違うんですか?
- つかもと
-
入れると生地は強くなるけど、
俺の好きな雰囲気にはならないね。
- ——
- だから基本的には使わない。
- つかもと
-
ほとんど使わない。
生地として真っ当になる黄金比っていうのはあるけどね。
- ——
- 真っ当っていうのは強さですか?
- つかもと
-
そう。
たとえばTシャツは
コットン88%、レーヨン12%が黄金比なの。
でもレーヨンが高いからっていう理由で、
代わりにポリエステルを使ってるものもあって。
じゃあそれを12%にするのかっていったら違う。
30%とか40%とかポリエステルを入れていて、
黄金比がどっかいっちゃってる。
- ——
- コストや工程の手軽さを取ってしまったのかな?
- つかもと
-
たぶんね。
それが好きじゃないんだよ。
今季つくったウールキャップの黄金比は
ウール90%、ナイロン10%だから、
生地が強くなるならって採用したんだけど。
- ——
- なんでその黄金比を変えちゃう人がいるんでしょう?
- つかもと
-
大量生産の影響が大きいと思うよ。
黄金比はわかっていても、
大抵はそこまでお金をかけてられない。
たくさん売って儲けることを優先しちゃってる。
それは“商品”だよね。
俺は“作品”をつくりたいから。
- ——
- 作品。
- つかもと
-
そう。
昔のつくりを今の製法でパワーアップさせたり、
誰もやっていないものをつくる。
それって作品でしょ。
- ——
-
アーティストみたいですね。
作品だから、お客さんが着てる姿を見ると
うれしいんじゃないですか。
- つかもと
-
もちろん。
それがいちばんうれしいに決まってるよ。
(つづきます)