燃え殻さん、 調子はどうですか?
担当・朝倉由貴
第3回 心のやりとりの基本は100円玉で
- 燃え殻
-
「原宿ちゃん」はすごい話でしたけど、僕は肩書きが
また難しいんですよ。
ネット、雑誌、新聞と、それぞれの種類にもよるんですが、
だいたい向こうから「この肩書きどうですか」ってきます。
- 糸井
-
たとえば「作家」はある?
- 燃え殻
-
「作家」はある。「会社員」もあった。
- 糸井
-
あとは何がある?
- 燃え殻
-
「コラムニスト」みたいな。
- 糸井
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あるだろうな。
- 燃え殻
-
「ライター」と言われたこともある。
あと「テレビ美術制作」「ツイッタラー」。
- 糸井
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「ツイッタラー」(笑)。
- 燃え殻
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これね、面白半分に言われたんです。
「作家」なら炎上するかもしれないけど、
「ツイッタラー」なら、笑われて終わりだからいいです。
「会社員」ではすごく長い文章を書かされたんですよ(笑)。
- 糸井
-
確かに、長い文章と「会社員」は合わないな(笑)。
- 燃え殻
-
合わないじゃないですか。でも、用意されたのがそれで。
ただ、「作家でいいですか」って言われるのが一番‥‥
- 糸井
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やりにくいんだね。
- 燃え殻
-
「作家」で頼まれたのがインタビューで。
それは、「テレビ美術制作」にしてもらいました。
- 糸井
-
じゃ、まんなかに入るのが「テレビ美術制作」。
- 燃え殻
-
そうです。だから、難しいなと思って。
ライターの方に聞きましたけど、新聞によって「コラムニスト」「○○評論家」「ライター」といろいろ。
自分から名乗るより向こうから言われることが多いようです。
糸井さんって肩書きはどうしていますか。
- 糸井
-
「ほぼ日刊イトイ新聞主宰」か、「ほぼ日社長」が増えた。
「コピーライター」もまだいっぱいありますし。その3つかな。
地方の新聞に出るときの肩書きが、一般的に通用しやすいんじゃないかね。
「コピーライター」って書いたほうが、落ち着きがいいんだろうと思うんですよね。
もう最近は「樋口可南子の旦那です」っていうので‥‥
- 燃え殻
-
(笑)
- 糸井
-
いざとなったら自分から言うからね。
「えーと、あの人の・・・・・・」って言ったときに、
「あの人」っていうのは樋口可南子だなと思って。
もうね、攻めるの。鶴瓶さんから学んだよ。
声かけられそうなときは「鶴瓶でございます」って。
- 燃え殻
-
先にいくんだ。
- 糸井
-
一緒に歩いたことあるんだ、大阪を。
攻める攻める(笑)。
それは自分のすることだから、被害がない。
「楽しめ」と似てますよ。
主体は自分。自分がどうしたいかを問いかける。
そしたら楽しめるじゃないですか。
しんどいときも、その選択肢があるだけで変わると思うよ。
- 燃え殻
-
会田誠さんが「緊張する必要ないよ」とおっしゃったんですが、
「でも、メモ持って待ち構えてる人がいるんですよ」って僕は言ったんです。
そしたら、「メモのこと忘れるぐらい適当な話しよう」って。
- 糸井
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アーティストだね、やっぱり。
- 燃え殻
-
脱力しました。
- 糸井
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あの人は、すごく礼儀正しい人でしょう?
仮面かぶって大人やれるタイプだよね。
- 燃え殻
-
そうだと思います。

- 糸井
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行ったり来たりできる人がいるんです。
たぶん僕もそのジャンルに入ると思う。
- 燃え殻
-
そうですよ、きっと。
- 糸井
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下ネタの次にすごく真面目なこと言うみたいな。
赤とんぼの「とまっているよ竿の先」っていう歌詞が、
僕おかしくてさ。
書きたくて書いたのにぜんぜんウケなかった(笑)。
- 燃え殻
-
どこで書いたんですか(笑)。
- 糸井
-
ツイッターで(笑)。
- 糸井
-
真面目な合唱の番組を見てたの。
「赤とんぼ」が聞こえてきてね、お母さんたちが泣いてる。
何でこんなに泣けるんだろうなとか、歌はすごいなとか、
いろんなこと思って、「とまっているよ竿の先」‥‥
- 燃え殻
-
思いつかないでください、そんなこと(笑)。
- 糸井
-
「竿の先」ってところで笑うやつがいるだろうなって思ったの。
それ思いついただけでおかしくてさ。
- 燃え殻
-
みんな感動してるのに(笑)。
でも、そこの行き来ができない人っているじゃないですか。
- 糸井
-
下ネタに行ったっきりの人とかね(笑)。
- 燃え殻
-
女の人でもクスッと笑える下ネタと、潮干狩りができるぐらい引く下ネタってありますよね。
- 糸井
-
生理感覚みたいなところに訴えかける下ネタは
よしたほうがいいんじゃないですかね。
僕は描写として下手な下ネタのほうに泳いでいきます。
「あの人の下ネタはいやらしい」っていうのはだめ。
- 燃え殻
-
そう、だめなんですよね。
- 糸井
-
何だろう、心から言ったらいやらしくない?
「・・・・・・いいお天気ですねえ」。
- 燃え殻
-
情感たっぷりな「いいお天気ですね」って面倒くさい(笑)。
- 糸井
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お天気の話をするだけなのに、悲しそうに暗そうに言う人が
いるんだよ、知り合いで。「・・・・・・寒いわね」。
- 燃え殻
-
(笑)
- 糸井
-
エレベーターでその人と2人になったとき、暑ければ
「・・・・・・暑いわ」。
心からネガティブなことにまとめるの、その日を。
だから、「いや、暑くない」とか、つい言っちゃう(笑)。
- 燃え殻
-
汗びっしょりかいてるのに(笑)。
心が通わないほうがいいこともあるってことですね。

- 糸井
-
ほとんどの時間が通わないほうがいいんじゃないの?
- 燃え殻
-
え? そうか。
- 糸井
-
通うにしても等価交換。10円渡して10円もらうみたいな、
小銭のやりとり。
- 燃え殻
-
それぐらいがちょうどいい距離感なのかな。
- 糸井
-
今、燃え殻さんに100円あげたとする。
「これで温かいものでも食べて」って手に握らせて。
そのまま受け取っても、お互いにギャグになるじゃないですか。
でも渡したのが6800円ぐらいだったら、「何、どうした?」
ってなりますよね。
- 燃え殻
-
それはちょっと意味が出ちゃうな。
- 糸井
-
自分がどう見られたんだろうとか、
「何だろうこの人、へんなことするな」とか思って、
気持ち悪いですよね。
だから、基本は100円玉の流通ですよ。
- 燃え殻
-
日常というか、コミュニケーションは。
- 糸井
-
偶然「何この100円!」っていうのを見つけたときは
うれしいですよね。鏡みたいに光ってるからとっておく。
- 燃え殻
-
ここで100円くれるのか、っていうのもありますね。
- 糸井
-
あります。「ああ、もらっちゃおう」とかね。
そういうことが楽しいの。
だから、それ以上は相手の心に立ち入っちゃうんだよ。
そんなことしないでほしいっていう。
- 燃え殻
-
考えさせちゃう。
- 糸井
-
燃え殻さんが小さなエッセイみたいなツイッターをするとき、
これは100円とか10円なんだと思うけど、その100円玉が
「なんでそんなに磨いたの」みたいなことがあると、
人はうれしいんです。どっさりと載せないから。
ツイッターにどっさりは、しょっちゅうやっちゃダメですね。
- 燃え殻
-
ツイッターでもどっさりの人はいますね。
- 糸井
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います。で、あわてて「まじめか!」みたいに言わなきゃなんなくなったりする。
僕らも、「まじめか!」は混ぜることはあるけど、
ツイッターって違う話をしたり、次の1点を入れられる。
ただ、パンチを打ったあと、ブルース・リーが「うーん!」
って構えるみたいな。あれはあんまりやっちゃダメだね。
- 燃え殻
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わかる。それは陶酔だから。
ハンマー投げのあとの「なー!!」って。
- 糸井
-
ハンマー投げ(笑)。
- 燃え殻
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そういうことをつぶやく人もいますね。
- 糸井
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古賀さんが犬のこと書いてるときとか、
なんか1円玉みたいじゃない。かわいい(笑)。
犬がおやつくれるのかなみたいな。
それはあってほしいよね。
- 燃え殻
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そういうものがあいだに入らないと、
110円のときに効かなくなる。
古賀さんは、ほっといたら150円ぐらいになっちゃう。
だから、そこは1円でバランスがいいんですよね。
150円が効いてくるから。ずっと150円の人もいるなあ。
- 糸井
-
古賀さんはおそらく、毎日書くことを自分に課して、
書くことがない日でも書くって決めたから、
1円玉が使えるようになったんじゃないかな。
たぶん自分の楽しみとして、そうしたかったんだと思う。
おじいさんとか無駄話ばっかりしてるじゃない。
あ、僕だ(笑)。
- 燃え殻
-
いえいえ(笑)。