もくじ
第1回誘うとき、誘われるときなんて言う? 2017-10-17-Tue
第2回人前に立って、ゆれる気もち 2017-10-17-Tue
第3回心のやりとりの基本は100円玉で 2017-10-17-Tue
第4回ややこしくして晴れるなやみもある 2017-10-17-Tue
第5回やり続けたこと、人を喜ばせること 2017-10-17-Tue

編集経験8年。
媒体の主な分野は教育系、旅行系です。

燃え殻さん、 調子はどうですか?

燃え殻さん、 調子はどうですか?

担当・朝倉由貴

第5回 やり続けたこと、人を喜ばせること

糸井
燃え殻さんが書いてることは、絵っぽいですよね。
パノラマみたいな、スケッチみたいな。
燃え殻
景色さえ決まってしまえば、何も起きなくても大丈夫かなと
思っています。
糸井
絵を描いていた?
燃え殻
昔はやっていました。小学校ぐらいから。
糸井
やっぱり。とてもビジュアルっぽいから。

燃え殻
「山藤章二の似顔絵塾」っていうのに出していたんです。
糸井
それで入選したの?
燃え殻
「週刊朝日」に載りました。今でもぜんぶとっていますよ。
1年間、竹中直人さんの似顔絵だけで出しました。
糸井
知らなかった(笑)。
燃え殻
学ランにエプロンの竹中直人、体育座りで茶色い顔の竹中直人。
バリエーションを変えて1年間。それで4、5回載りました。
糸井
はぁ~。山藤さんも選び続けた。
燃え殻
だから、「○○くん、また竹中直人だね」ってコメントで。
友だちは発売前日のコンビニに「ジャンプ」を買いに
行くんですけど、僕は同じように月曜夜に行って。
誰もいないんです、「週刊朝日」を待つ人は(笑)。
糸井
そうだろうねえ(笑)。何回ぐらい載ったの?
燃え殻
20回以上載った。
糸井
それは素晴らしいんじゃない。何か勲位をもらった?
燃え殻
一時期はすごく載って。
1年間でよかった作品が最後に選ばれるんです。
選ばれませんでしたけど、その審査風景に僕の絵があって。
山藤さんのほか、確かナンシー関さん、松本人志さんとかが
審査員で。そういう人たちが選んでくれているところに
自分のものがあるのが‥‥。
糸井
それはすごい。
燃え殻
選んでもらえて、価値がある人間なんじゃないかって。
糸井
ただ落ちている石ころじゃない、ちょっと面白い形をしてると。
燃え殻
俺は面白いんだって思わないと、やってられなかった。
高校から専門学校出て、エクレア工場で働いていたときも
ずっとです。
糸井
それは大事な何かだね。やり続けられたんだ。
燃え殻
ラジオにも出しましたけど、そこでディスクジョッキーの人が、自分のペンネームを読んでくれる。
そうすると、「いてよし」って言われたような気がしたんです。
糸井
みんなそういう気持ちでやってるんだねぇ。
「ブレーン」という雑誌があったんだけど、専門学校の当時の
先生が書いた原稿に、「若手のコピーライターのI君が」って
書いてあった。たったそれだけで「これ俺なんだ!」って、
跳び上がるほどうれしくて。買ったよ、その雑誌。
燃え殻
わかる!
糸井
その「いてもいいんだ」感。
燃え殻
今ので思い出しました。僕は彼女に、職場で主任になったりしたことは何も言われなかったのに、「宝島」に投稿したハガキネタが載ったことは「すごいじゃん」ってすごくほめられた。
映画の『エイリアン2』を観に行ったんです。
宇宙船で、エイリアンが出てきたら嫌だなってシーンで、
彼女が突然「ギャー!」って叫んだ。
そしたら、僕も「ワー!」、周りの人も「ワー!」って。
糸井
そうだろう(笑)。
燃え殻
彼女は、エイリアンが出てきたかと思って、
ハラハラし過ぎて言っちゃったっていうんですよ。
周りの人たちも「えぇー?!」みたいな(笑)。
で、それを書いて出したら採用されたんです。

糸井
だって面白いもの。それに出合ってること自体が面白いよ。
燃え殻さんは、彼女が思わず「ギャー」って言ったところに
出合って、投稿するための絵を描き直して、選ばれた。
日本一のコンテストにも出場できるかな、っていう感じが
あったんじゃないですか?
燃え殻
うーん。
糸井
クラスで一番をいばるのはどうかと思うって昔書いたんだ。
だって何クラスもあるし、学校も山ほどある。
全国の土俵に出たらぜんぶパーじゃないかって。
ちょっと冷めた感じでそう思ってたの。
燃え殻
わかります。
糸井
でも、もしかしたら、今の「ギャー」の話は、
全国で通じるかもしれないじゃないですか。
友だちにウケたことは、全国でもウケるのかもしれない。
燃え殻
縁もゆかりもない、自分にとって有利でない場所で
「俺はいてもいいのか」と思えたのかも。だから、うれしくて。
糸井
受験で全国一を争っている子は、実は通用することもあるから、
少しでも手が届いたら、うれしいんじゃないですかね。
でも下手すると、ただの有名になりたい病になる可能性も
あって、そうやってダメになっちゃう人も山ほどいる。
僕は、ダメになっちゃうみっともなさに対してすごく慎重
だった一方、やっぱりいい気になって踊っちゃうのもある。
燃え殻
両方ですよね。
糸井
これは一番だなっていうものに出合うようになると、だんだん、
普通のよさに気づかされる。「普通にすごい」ってことに。
だから、「そのままでもいいんだ」っていう答えになるかも
しれない。誰にも知られないままでもいいのかもって。
燃え殻
自分が会いたかった人が普通の人だったことや、
普通の話をしてくれたことに感動したりして。
僕とつながっていた。その人たちも・・・・・・。
糸井
自分と同じ人間だった。
燃え殻
その確認をしたいんですよね。
作品とかがあまりに素晴らしいから。
糸井
任天堂の岩田さん(※元代表取締役の岩田聡さん)を
みんなが好きなのは、普通だったからなんですよ。
それはうちの会社の人たちはよく知っています。
100億円の価値だと思われていたものが、
実はピカピカしたひとつの100円玉なんだということ。
その「100円玉感」をキープする美意識をもっています。
燃え殻
僕は糸井さんに会ったときに思いました、「同じだ」って。
緊張すると思ったら、しなかったんです。
糸井
それは僕にとってもうれしいことです。
100円玉でいたいと思って、いられていることの証明だから。
横尾さんもそう。
今出てる連載(※ほぼ日の連載「ヨコオライフ」)は、
もうめっちゃくちゃそれですよ。
燃え殻
へぇ~。
糸井
本当にしょうもないんだけど、読んでて面白い。
手土産について、僕と漫才みたいなことをしゃべってて。
でも、冗談は言わないんだよ。
燃え殻
真剣なんですね。
糸井
それとも違うんだよね。
動物のように真剣。リスとかネズミのような目をして(笑)。
横尾さんのまねはできないですね。
燃え殻
僕は横尾忠則展に行ったときに、すでに横尾さんが謎でした。
そこで、パフォーマンスをしてたんですよ。
お客さんが全員座っているところで、横尾さんが足の裏を赤く塗って、キャンバスをダーッと歩いたように覚えています。
20何年か前です。
糸井
今80歳ぐらいですからね。
燃え殻
老けないですね。
糸井
いや、ちゃんと老けてますよ。歳はとっているんです。
でもさらに大盛りになったり、省略したりみたいなところで
絵が変わっていくんですね。おかしい人です、本当に。
燃え殻
横尾さんにはもっていかれますね。

糸井
通り一遍なことだけど、会社は辞めないですか。
燃え殻
ああ、それですか。えーと、絶対辞めないです。
糸井
絶対辞めない(笑)。
燃え殻
絶対に辞めないです。
自分が雑誌に出たりすることを、うちの会社の子が見てくれる。
それが一番面白いというか、うれしい。
糸井
ああ。
燃え殻
自分は、社会の数に入っていない感じが猛烈にあって、
それをどうにかしたくて、山藤さんに似顔絵を送っていた。
会社に入ってからは、テレビ局や制作会社の人たちから、
「おまえの会社は数に入っていない」と言われたわけですよ。
会社を認めてもらうために、社長と一緒にあれこれ考えながらやってきて、それこそ似顔絵が選ばれたように、何度かそれが叶う機会がありました。
そして、僕が小説を書いてこうなったことを、何につながるとかでもなく、一番喜んでくれたのが社長だったんです。
ある意味、親より喜んでくれて。それがうれしかった。
「会社辞めないの?」ってよく聞かれますけど、
「辞めないよ!」と。
糸井
その答えはすごくいいですね。耳にいい。
聞いててうれしい気がします。
「会社辞めないの?」とは、まったく正反対の質問だけど、
何か書くってことはやめないですか。
燃え殻
やめないつもりでいます。
お客さんからの企画でも、美術制作のフリップ1枚でも、
受注したことに対して全力で取り組むということを
ずっとやってきて、小説のときもそうだった。
まったく会ったこともないような、たとえば富山の女子高生に
どうしたら喜んでもらえるか。
そういうことばかり考えています。
多くの新聞社の方からは「この作品で何を言いたかったですか」とたずねられましたが、訴えたいことは正直ないんです。
糸井
子どもが小さいとき、寝かしつけるためにデタラメな話をして。
主人公を子ども本人にしたりして、いろんなこと言ってると
ウケるんです。それと似てますね。
燃え殻
似てる。本当にそうだと思う。
糸井
喜んで聞いてくれる誰かがいるなら、その人のために。
どうしようか、なんて考えながら手をつないでいるような感じ。
燃え殻
僕はもう、それだけです。
仕事じゃないんだから、小説では自分の好きなことだけ
やればいいじゃないと考える人もいると思います。
でも、せっかく流通するなら、関わった人も含めて、
みんなを喜ばせたい。その純度を増したいんです。
ツイッターもそうですが、自分の作品なら、
どんなに残酷にもできるじゃないですか。
糸井
自分のハンコを必ず押すもんね、ツイッターって。
燃え殻
人を驚かせるとか、悲しませるとかってある意味、
狂気的なことをすればいいんですけど、
面白がらせるってけっこう大変だと思って。
糸井
案外、人は普段浮かない気持ちでいるもんね。
それをウキウキさせるのは実は力仕事です。
燃え殻
受けとめる人がどんな状態かってわからないじゃないですか。
自分自身が明るい人間じゃないので、僕がこれぐらいに思えば、
ほとんどの人はもうちょっと調子が出るだろうと。
ものを作るのには向いているのではないかと思っています。
糸井
壁新聞から始まって、投稿もそうだし、それをずっとやってきたんだもんね。