燃え殻さん、 調子はどうですか?
担当・朝倉由貴
第4回 ややこしくして晴れるなやみもある
- 糸井
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横尾忠則さんが前から何回も聞いてる話をしているとき、
「ああ」「へぇー」なんてあいづち打っていたら、
「糸井君、この話、僕は何度もしてるよ」って言うの。
- 燃え殻
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そんな、泳がせるなんて。ひどい!(笑)。
- 糸井
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横尾さんには本当に参る(笑)。
- 燃え殻
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僕、話している途中で思い出したことがあるんですよ。
「だから、たとえば・・・・・・」ってうちの若手を叱ってたら、
そのあたりから、これ言ったなあと思ったんです。
- 糸井
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わかる(笑)。
- 燃え殻
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「まあ、いいけども」って、結局かなりはしょったんですけど、
横尾さんはやっぱり途中で気づいたのかな。
それともフリなんですかね、アーティストだから。
- 糸井
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わかんないけど、大宇宙から自分を見てる、
もう1個の視線をもってるからなあ。
ひとつも決め打ちがないし、やることなすこと、
いつでも次があるんだよ。
- 燃え殻
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でも、「横尾さん、それ聞いたことあるよ」って
言いづらいですもんね。
- 糸井
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何でも言うつもりでいるけど、さすがにそれは言えないです。
「何度も言ってるよ」って言われたときに、何て返したか
覚えてないもん(笑)。
- 燃え殻
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そこは、「あ~」じゃないですか?(笑)

- 糸井
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思い出した・・・・・・「知ってたんですか?」。
そしたら、「知ってるよ、そんなこと」みたいな(笑)。
でも、これがやりとりになるわけ。
- 燃え殻
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往年のレスラーが必殺技を出すみたいな美しさが
あるんじゃないですか。
わかってて言わなきゃいけないときもありますか?
- 糸井
-
初めての人がいるから「あれ、この話、聞いてなかったっけ?」
とか言って話し出して、おまけを付けようとするんだけど、
おまけもふくめてだいたい前に話してるんだよ(笑)。
- 燃え殻
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面白い話だったらいいですけど、教訓めいた話をするときとか、
導かなきゃいけないときに、これ前に言ったなあって
思うことないですか。バリエーションとして。
- 糸井
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そういうときは「何度も言ってるけど」って前置きして話すな。
「楽しめ」なんていうのは、もう何回言ってるかわかんない。
自分にさえ言い聞かせてるぐらいだから。
これはどこで聞いたのかもはっきり覚えてるからね。
ロスで撮影用に芝生に椅子を出して、しゃべったんです。
ロスの永ちゃんは、「矢沢」である必要がない時間が多いから、
すごくいい感じに「矢沢」なんだよね。
そこで言うことは、たぶん本当に思っていることで。
僕はどれだけ「楽しめ」を使ったかわかんないから、
それはまさに教訓じゃないですか。でも面白いんだよ。

- 糸井
-
僕が好きなフレーズに「考えたことがあるんだよ」ってのが
あるんです。
それほど考えてなさそうな人が、何かした質問に、「なるほど」
って答えたりするんですよ。
で、「さんざん考えたんだね」ってたずねると、「ええ」って、
すっと返ってくる。
燃え殻さんも話を聞いていると、そういうのがある。
「だって考えざるを得ないじゃないですか」みたいな。
- 燃え殻
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あります。
- 糸井
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それは絶対面白いんです。
このあいだ、イケちゃんという、一見軽薄そうに生きてる
感じのカメラマンの写真展があって、対談の相手を買って出た。
そしたら、「ちゃんと考えたんだね」ってことが、
いっぱいあって。考えない人もいるからね。
燃え殻さんは、その考えたふしがあるっていうことが、
小説になったりエッセイになったりしてるわけだね。
- 燃え殻
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そうなんです。考えていることを出しているというか。
なやみとかも常にそうです。
なやんだ状態で保留しておくとか、なやみが変わるとか、
そういうことだらけで解消しなくて。
すると、また新しくなやみの枝葉が分かれて増える。
それがいいのか悪いのかはわからないですけど、
とにかく先には進むんです。
ずっと同じことを考えるよりは、精神衛生上いいかなぁ。
- 糸井
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五十肩の痛みが痛風で意識されなくなった知り合いがいて。
痛風の痛みは何にも勝るんだね。
「五十肩どうしたの?」って(笑)。
なやみもちょっとそういうとこあるよね。
- 燃え殻
-
本当にあります(笑)。
なやみはなやみで消すみたいのありますよ。
ずっとなやんでいると病みますから。
- 糸井
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そんなになやむんだ。タイプ的に。
- 燃え殻
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でも、そこでダメになるわけにはいかないと思って、
解決法としては、ほかのことを悩むという。
「おまえ、同じことばっかりなやんで、つまんねえよ。
もっと面白いことないの?」って自分に問いかけるんです。
- 糸井
-
ああ、面白いなやみ。
- 燃え殻
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「新しいなやみが欲しいなあ」
- 糸井
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自分にもそういうところ、あるかもしれない。
ややこしくなって、ややこしくなるおかげで。
工作している人がドライバーを持って、
「これ面倒くさいんですよ」って回しているみたい。
- 燃え殻
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それ本当にわかる。
面倒くさくしちゃったほうがいいときがあるんです。
何ていうか、手元にいろいろあったほうがいい。
すごくなやんで解決しない人って、「人生が」とか
すぐ言うんです。でかいんですよ、悩みが。
それは横尾さんしか解決しそうもない(笑)。
宇宙から見ないと解決しないなやみを言うんですよ。
- 糸井
-
あるね。
- 燃え殻
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そういうときは手元に悩みを置くことをおすすめします。
それに集中しなきゃいけなくなるので。僕はそうしますね。
ちょっと遠いなやみって、ロマンチックになるじゃないですか。
僕はお酒飲むと、言いがちなんです。
「人生ってさ」「仕事ってさ」。
「来週の納期ってさ」って言わないじゃないですか(笑)。
- 糸井
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うんうん、言わない。
- 燃え殻
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来週の納期とかの話をすると、本当の意味で解決します。
前に進みますね。
- 糸井
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その「来週の納期」の積み重ねこそが、
「人生ってさ」の裾野だもんね。
- 燃え殻
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「人生ってさ」っていうのは、振り返って言う話なので、
ふりかぶって言っちゃダメだと思うんですよね。
- 糸井
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僕は、燃え殻さんが言うことは、自分もそうだなって思う場面
がいっぱいあって、今のあたりは近いね。
形になりようがないものについて考えるのは、これはこれで
お楽しみではある。
でも、こっちの人がうまくいって、こっちの人はうまくいかないとか、そういう不平等の話とか、急に言われても困るじゃないですか。
- 燃え殻
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絶対的真理とか言われても困るんですよ。
- 糸井
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抵抗しようがないから。
- 燃え殻
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そうすると、どうしようもなくなって、目の前の努力も
やめてしまいそうになるじゃないですか。
だから、ずっと1個、意味もなくボトルシップ作るみたいな。
そうすると、頃合いがいいですよ。
- 糸井
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だいたいの男は、そういう傾向のあるやつが家庭をもって、
目の前の忙しさが増えて、解消したんだか何だかわかんない
っていうふうにまとまるんじゃないですかね。
- 燃え殻
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でも、それはひとつのいい答えです。
- 糸井
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そうなんでしょうね。
だから、実際にボトルシップを作っている人から見ると、
「子どものよだれをふいて時間が過ぎていくの?」って
思うのかもしれないけど、そのよだれがボトルシップ。
妻の頭の角が、鑑賞に堪えうる帆船ですよね(笑)。
- 燃え殻
-
はい(笑)。