糸井

以前に、ちょうど本を持って友達と来たとき、この部屋にお見えになりましたね。

燃え殻

そうですね。

糸井

‥‥よく頑張ってるよねぇ。

燃え殻

あぁ～、ひさしぶりに褒められた(笑)。

銀座ロフトでのイベントから2日後。
ほぼ日のオフィスで、ふたりはもう一度お話をしました。
第3回からは、そのときの話をどうぞ。
　
　

糸井

「考えたことあるんだよ」って話は、すごくぼくの好きなフレーズでなんですよ。

燃え殻

へぇ～。

糸井

あまり何か考えてなさそうな人が、ぼくがした質問に、なるほどって答えをくれたりするんだよね。そのときに、「あぁ、それはさんざん考えたことあるんだね」って言うと、「ええ」って言ってさ。俺もそういうことが多いんだよ。誰かに何か聞いたときに、「それは俺もね、何回も考えたんだよ」って一生懸命言うの。燃え殻さんにも、多いかなぁ。

燃え殻

あ、そうですか？

糸井

「そりゃだって考えざるを得ないじゃないですか」みたいな。

燃え殻

あぁ～、うん。あります。

糸井

それは絶対面白いんですよ。

燃え殻

うーん。

糸井

このあいだ、とあるカメラマンさんの写真展があって、対談が急に決まってさ。その相手をぼくが探すことになって、初めて「俺が行く」って言って売り込んだの。で、しゃべったら、あぁ、ちゃんと考えたんだなぁっことが、ポロポロッといっぱいあるんだよ。
普段そんな話をしないけど、「考えたんだね」って言うと、当たり前に考えたことだから、素直に「ええ」って言うんだよね。

燃え殻

あぁ、‥‥そうか。

糸井

燃え殻さんは、その考えた節があるっていうのが小説になったりエッセイになったりしてるわけだから。
「それについちゃね、答えないんだけど書いたんだよ」みたいな（笑）。

燃え殻

そうなんですよ。考えてるっていうことを出してるというか。

糸井

そうだよね（笑）。

燃え殻

‥‥悩みとかも常にそうですよね。

糸井

（笑）

燃え殻

悩みが解消しない。悩んでるままで置いとくとか、悩んでることが変わるとか、なんかそういうことだらけで。

糸井

うん。

燃え殻

ある悩みが、解消しないままくる。すると、新しく枝葉が分かれて、悩みが2個に増えたりする。いいか悪いかもわからないんですけどね。でも、先には進む。ずっと同じことを考えてるっていうよりは精神衛生上いいかなぁ、ってぐらいの話で。

糸井

知り合いでね、五十肩の痛みが痛風で意識されなくなった人がいて。

燃え殻

（笑）

糸井

痛風は、何にも勝るんだね。

燃え殻

痛みには、痛み。みたいな。

糸井

「五十肩どうしたの？」って（笑）。

燃え殻

痛風だと、今は。

糸井

悩みもちょっとそういうとこあるよね。

燃え殻

本当にあります（笑）。

糸井

で、なんか温泉入って麻雀したら治ってたみたいなね。

燃え殻

悩みは、悩みで消すみたいのありますよ、本当に。
‥‥やっぱりずっと悩んでると病みますからね。

糸井

そんなに悩むんだ。

燃え殻

うん‥‥。

糸井

タイプ的に。

燃え殻

タイプ的に。でも、そこでダメになるわけにはいかないと思って。解消法としては、ほかのことを悩むという。
「おまえ、同じことばっかり悩んでて、つまんねえよ」って自分で言うんですよ。「もっと何か面白いことないの？」って。面白いことって、悩みですよ。

糸井

面白い悩みかぁ。

燃え殻

「新しい悩みがほしいなぁ」みたいな。

糸井

あ、そう言われると、自分にもそういうとこあるかもしれない。
ちょっとそれ難しいんだけど、そっち行っちゃったほうがややこしくなって‥‥

燃え殻

そう。

糸井

ややこしくなるおかげで、その悩んでる間の時間が‥‥。
なんだろう、工作してる人がドライバー持って、「面倒くさいんですよ～、これ」って言いながら回してるみたいな。

燃え殻

それ本当にわかる。本当にわかる。

糸井

そう？（笑）

燃え殻

うん。あのね、面倒くさくしちゃったほうがいいってときあるんです。すごく、手元にいろいろあったほうがいいんですね。
‥‥悩んで解決しない人って、「人生が」とかすぐ言ってしまうんです。

糸井

あぁ。

燃え殻

でかいんですよ、悩みが。

糸井

うん。

燃え殻

宇宙から見ないと解決しないことを言うんですよね。

糸井

うんうん、あるね。

燃え殻

そういう人にはやっぱり、手元に悩みを置くことをすすめます。そうするとね、それに集中しなきゃいけないんで。それはおすすめですね。ぼく、そうしてます。
でかい悩みってロマンチックになるじゃないですか、お酒とか飲むと特に。「やっぱり人生ってさ」とか語って。でも、「来週の納期ってさ」とは言わないじゃないですか。

糸井

言わない、言わない。

燃え殻

やっぱり来週の納期とかの話をしてると、いいですよね。いろいろ本当の意味で解決します。
前に進みますね。

糸井

その「来週の納期」の積み重ねが、「人生ってさ」の裾野だもんね。

燃え殻

そうです。

糸井

まさしくね。

燃え殻

うん。「人生ってさ」っていうのは、ふり返って言う話なので、ふりかぶって言っちゃダメだなって思うんですよね。

糸井

あぁ～。

燃え殻

そう、だと思うんですよねえ。

糸井

ぼくは、その燃え殻さんが言ってることを、自分もそうだなって思う場面がけっこういっぱいある。

燃え殻

そうですか。

糸井

何ていうんだろう、形になりようがないものについて考えるのは、これはこれでおたのしみとしてはあるけど。
でも、どうしたって、ある人がうまくいって、ある人はうまくいかない。「そんなの不平等だ」とか言われても困るじゃないですか。

燃え殻

困るし、絶対的真理とか言われても困るんですよ。

糸井

困る。抵抗しようがないから。

燃え殻

そうなんですよ。そうすると、なんかもうどうしようもなくなって、目の前の努力もやめてしまいそうになるじゃないですか。だから、ずっと１個、意味もなくボトルシップ作ってるみたいな。

糸井

さっきのぼくのドライバーをセメダインに換えて。

燃え殻

ひとつ。だから、なにかそういうものを持っておいたほうがいいと、今思いました。
　
　
(つづきます)