もくじ
第1回書きたいことは、2か所しかなかった 2017-10-17-Tue
第2回居場所がない世界で、生きている 2017-10-17-Tue
第3回捨てないと、大人になれない 2017-10-17-Tue
第4回作品を出すこと、商品を出すこと 2017-10-17-Tue
第5回「一旦保留」の人生相談があってもいい 2017-10-17-Tue

東京の下町で楽しく暮らしています。カントリーマアムと本屋が好きです。

燃え殻さん、どうして「書く」の?</br>【糸井重里×燃え殻】

燃え殻さん、どうして「書く」の?
【糸井重里×燃え殻】

担当・べっくや ちひろ

会社員でありながら、
デビュー小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」が
ベストセラーとなり、
一躍時の人となった「燃え殻」さん。

糸井と燃え殻さんの交流はTwitterを通じて始まり、
9月上旬、銀座ロフトで、二人での初対談が実現しました。

燃え殻さんがあの小説で“本当に”書きたかったことは?
そして、燃え殻さんにとって「書く」って?

小説を読んだ方も、まだ読んでいない方も。
どうぞゆっくりお楽しみください。

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 書きたいことは、2か所しかなかった

糸井
体は大丈夫ですか。
最近、ものすごい取材受けてるでしょ。
燃え殻
はい、サラリーマンなのに(笑)
糸井
サラリーマンなのにね。

燃え殻
6月30日に本が出て、そこからありがたいことに何十と。
糸井
何十と。はー。
燃え殻
でも、いろいろな方の質問に答えるのが、
心苦しいんですよ。
糸井
心苦しい。
燃え殻
取材で、「なんでこの本を書いたんですか」とか
聞かれるじゃないですか。
本当はあまり意味がない。
 
でも、「90年代の空気みたいなものを
一つの本に閉じ込めたかったんです」
というウソを、この1か月ぐらいずっとついてて。
糸井
てことは、新聞でインタビューを読んだ人は
ウソを読んでるわけですね(笑)
燃え殻
「90年代になってバブルが終わって、
でも、世の中にはまだバブルが残ってる。
そのまだらな世界を、一つの本に閉じ込めたかったんです」
 
って言うと、みんな「あ、なるほど」みたいな。
でも、ウソ(笑)
糸井
(笑)
燃え殻
もうスルスル、スルスル、
ウソが口から流れるようになって。
糸井
でもそれは的確なウソですよね。
「それが聞きたかったんですよ!」みたいな。
それでみんな、自分の話をしたいんですよね。
燃え殻
新聞社の方とか、文芸の記者の方とか、
ぼくと同世代の40代中盤から後半の人が多いんです。
「ぼくもだいたい近いところにいたんで。一緒ですよ」
と言われたり。
 
みなさんちゃんと学歴があって、新聞社とか出版社とか
すごくいい形で社会に入ってきていて、
ぼくとは全然一緒じゃないんですけど。
糸井
はいはいはい。
燃え殻
取材に来たカメラマンも、
「最初はよくわかんなかったけど、
そういうこと書いてる人なんだね」
って感じでシャッターを押してくれたりして、場が少し温まる。
 
温まりたいから、それをずっと言う。
糸井
ずっと言う(笑)
燃え殻
「こういうこと言っとかないといけないんだな」って。
いろんな人が見てるし、その人たちが頷いてないと
怖いじゃないですか。
 
ぼく、今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、
小説って何か訴えなきゃいけないことがないと
書いちゃいけないんですか。
糸井
それは、たとえばナマズを彫った高村光太郎に
「高村さん、なぜナマズを彫ったんですか」
って聞くみたいなことですよね?
燃え殻
そうそう。
「これは社会的に意味があることなんだ」と、
高村さんは言えたんでしょうか。
糸井
言えないんじゃないでしょうかね。
燃え殻
ぼくは多分、この小説の中で2か所ぐらいしか
書きたいことがなくて。
糸井
ほう。
燃え殻
それは訴えたいことじゃなくて、
書いてて楽しいことなんです。
糸井
自分が嬉しいこと。
燃え殻
いつだったか、
同僚とゴールデン街の狭い居酒屋で飲んだあと、
そこの畳の上で寝てたんですよ。
 
で、目が覚めたら、ご飯の匂いがする。
網戸を開けたら、日が差してお天気雨が降っている。
糸井
うんうん。
燃え殻
何時かよくわからないんだけど、7時前くらいかな。
 
仕事に行かなきゃなって思いながら、
同僚と飲み屋のママとの何でもない会話を聞きながら
ボーッとして、頭が痛くて二度寝しそうで。
 
昨日は嫌なことがなくて、
今日も嫌なスケジュールが入っていないっていう1日‥‥
糸井
よいですねえ。
燃え殻
その1日を書いてるときは、気持ちがよかった。
 
もう一つは、ここで言うのも何ですけど、ラブホテル。
真っ暗で、朝なのか夜なのかわからない中で、
喉がカラカラで、自分の下着とポカリスエットを探す。
 
それから、お風呂でも入れなきゃなってお風呂に行ったら、
タイルがすげえ冷たくて。
安いラブホテルなんで、お湯の温度も定まらない。
「熱っ! 寒っ!」みたいな(笑)
糸井
うんうん(笑)
燃え殻
ああ今日これからまた仕事なのかって思いながら、
一緒にいた女の子と
「地球とか滅亡すればいいのにねえ」とか言ってる。
っていう1日。それを書いてるときは、楽しかった。
 
それを新聞社の人に言うと、
「ふざけんな」って言われるじゃないですか。
でも、それを‥‥書きたかったんですよねえ。
糸井
思って終わりにするのはもったいないような気がして、書く。
思ったときにすぐ書くとは限らないけど、
「覚えとこう」と思うだけで、なんかいいですよね。
燃え殻
そうですね。
糸井
「思うだけじゃなくて書きたい」のは何なんだろうね
っていう話を、してみましょうか。
第2回 居場所がない世界で、生きている