燃え殻さん、どうして「書く」の?【糸井重里×燃え殻】
担当・べっくや ちひろ
第4回 作品を出すこと、商品を出すこと
- 燃え殻
-
なんで売れたんですかね。
- 糸井
-
自分ではどう思います?
- 燃え殻
-
うーん‥‥これを発売したら
いろんな人たちが買ってくれるんじゃないか、
いいのができたなっていう気持ちと、
「でも、これダメかもしれないな」が繰り返すというのが
正直なところのような気がしますね。
- 燃え殻
-
小説はあまり売れない、さらに無名っていう前提のもとに
ぼくはやらなきゃいけなかった。
売れてる小説家さんのものを読んでも参考にならないから、
みんながYoutubeとかまとめサイトに使っている時間を
どうにか小説のほうに引きずり込みたかったんですね。
できる限り栞を使わないで、サーッと読めるようにするとか
あとは少し自分を突き放してサービスしたいっていう‥‥
- 糸井
-
サービスしたい。
- 燃え殻
-
じゃないと乗ってくれないだろうなと。
たとえば、読んでるときのリズム感のために
書いてあることを変えてもいいとぼくは思ったんです。
この台詞はリズムよくないから変えちゃおう、
そうするとスッと読めるよね、っていうのを選んだんです。
- 糸井
-
でも、それがまた楽しかったわけでしょ?
- 燃え殻
-
楽しかったですね。
- 糸井
-
自分しか読まないものと、この小説を分けたのは
そこなんじゃないでしょうかね。
- 燃え殻
-
そうですね。
- 糸井
-
新人のときには中身を直されたりするけど、
そういうやりとりはあったんですか。
- 燃え殻
-
あ、ありました。
- 糸井
-
それはどうでした?
- 燃え殻
-
女性の編集の方だったんで、ぼくとしてはアリでも
「女性が読むとちょっと‥‥」って言われた表現は
バッサリ捨てました。
たとえばオープニング、20年前に行ったラブホテルで
昔好きだった女の子を思い出すところで始まるんですけど、
「20年経って同じラブホテルに行ってる男、引きます」
って編集者に言われて(笑)
- 糸井
-
ああ、なるほど。
- 燃え殻
-
「もうちょっといいとこ行かないんですか」みたいな。
- 糸井
-
でも、しょうがないじゃん、ねえ(笑)
- 燃え殻
-
「いや、行ったりすると思うんですけど‥‥」って言ったら
「行かないでください。女性引きますから」って。
それで、六本木のシティホテルみたいなのに変えたり(笑)
- 糸井
-
ああ、そうか。
- 燃え殻
-
すごく好きな彼女がいるのに他の子といい感じになるのも、
「女子は引きます」と。
「男としては、まあ、あるっちゃあるんだよねえ、ハハ」
って言っても、「そういうことじゃないから」みたいな。
で、他の子との直接的なセックスシーンは全部切ったんです。
- 糸井
-
だから寂しかったのか。
- 燃え殻
-
切っちゃったんですよねえ。
- 糸井
-
本を作るっていうのは、
作品を出すことと商品を出すことと二重の意味があって、
「引くなら引けよ」は作品じゃないですか。
- 燃え殻
-
ああ。
- 糸井
-
でも、
「女子は引きます」
「そうですね、それ汚れに見えるからきれいにしましょう」
って拭くのは商品じゃないですか。
- 燃え殻
-
ああ、なんか言わなきゃよかった、
すごいダメだったかもしれない(笑)
- 糸井
-
でも、商品性を丸々否定するわけにはいかないし、
それはバランスの問題だから。
- 燃え殻
-
ゴールデン街の朝とか、
ラブホテルの朝か夜かわからないところは、
書いててすごく気持ちよかったんで、
いろんな人と共有したかった。
ほかの部分は、それを補強するものなんですよね。
だとしたら、
「多くの人に読まれる道はこっちなんじゃないですか?」って
提案されたものに関しては、
「じゃ、そっちの道で考えます」って。
- 糸井
-
やっぱり世の中の物事は、
作品と商品の間を揺れ動くハムレットなんじゃないの?
だって、結婚は愛じゃないとか言う人いるじゃないですか。
- 燃え殻
-
いますね。
- 糸井
-
事業だとかさ。
で、「そういう人とは一緒になんないほうがいいわよ」って
忠告するのは、商品として完成しなさいって話じゃない。
恋愛のまま突き進んでいって失敗する人というのは、
作品が売れなくなって大変な思いをする人。
両方ありますよね。
- 燃え殻
-
ありますねえ。
- 糸井
-
だから、みんなに伝わるか、自分が気持ちいいかみたいな
それはあるんじゃないでしょうかね。
- 燃え殻
-
ありますね、絶対。バランス難しいですけど、
バランスがいいとうれしいなぐらいですよね。
- 糸井
-
そうですね。
- 燃え殻
-
わからなくなってくるんですよね。
- 糸井
-
バランスを良くするコツを一生懸命探すと、
バランスを崩すんだと思う。
でも、今いっぱい取材受けてるのも、
ウソばっかりついてるのも、
トータルのバランスで言ったら、
あそこでああいうことを言えたからいいかとか、
ウソのインタビューを読んだ人が、
もうちょっといいことをかぶせてくれるとか。
- 燃え殻
-
そうですね。
「ウソ」って簡単に言っちゃったけど、
もしかして「気づき」なのかもしれない。
ああ、そういうことを求められてたのかって。
ぼくは受注体質なので。
- 糸井
-
受注体質(笑)
- 燃え殻
-
だから、お客さんが思うんだったら、
そういうものを作りたいなって思って、
そういうものが作れたんなら
いいじゃないかって思うんですよね。
ぼく、好きな小説とか映画とか少ないんですけど、
好きなものに共通しているのは
「自分語りをしたくなる」ということで。
そういったものが自分としてもできたのならば、
とてもうれしいというか。
- 糸井
-
できてますよね。
- 燃え殻
-
だとうれしいです。