燃え殻さん、どうして「書く」の?【糸井重里×燃え殻】
担当・べっくや ちひろ
第2回 居場所がない世界で、生きている
- 燃え殻
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今まで仕事で使った手帳、21冊、
全部とってあるんですよ。
- 糸井
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らしいね。
- 燃え殻
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会社の引き出しの中に全部入れてて、ときどき読み返すんです。
自分の安定剤というか。
ぼくはテレビの裏方の仕事をやってるので、
納期とか、打ち合わせの予定とか、
その打ち合わせがどうなったかとか、書いてある。
- 糸井
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必要だからね、そこはね。
- 燃え殻
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そこにもう一つ、会った人の特徴とか似顔絵だったりとか、
あとは、その日たまたま食った天丼屋がうまくて、
でも、その天丼屋多分忘れるなって思って、
天丼屋の箸袋を貼ってあったりとか。
結局、十何年行ってないんですけど、
その袋に、天丼のシミとか付いてて。
- 糸井
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行かなくても、「行くかもしれない」っていうのが、
残ってんだよね。
- 燃え殻
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そう、行かなくても残ってる。
- 糸井
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その感じっていうのと、
燃え殻さんの文章を書くってことがすごく密接で。
- 燃え殻
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すごく近い気がして。
- 糸井
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「これは俺しか思わないかもしれない」っていうことが
みんなに頷かれたときって、
「悔しい」じゃなくて「うれしい」ですよね。
- 燃え殻
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すごくうれしい。
- 糸井
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ゴールデン街で酒飲んでそのまま寝ちゃった話とかは、
同じこと経験してなくても頷ける人は、
けっこういると思うんです。
発見したのは「俺」だけど、それが通じる。
- 燃え殻
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そうですね。「経験してないけど、わかるよ」がうれしい。
- 糸井
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そこに自然に乗っかっちゃうのが、音楽でしょう。
- 燃え殻
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はいはい。
- 糸井
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それは書いてないけど、流れてますよね。
- 燃え殻
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音楽も、共有できることじゃないですか。
だから、小説のところどころに音楽を挟んでいったんです。
- 糸井
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入れてますよね。
- 燃え殻
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そこでこの音楽がかかってたらうれしいなっていうのと、
ここでこの音楽がかかってたらマヌケだなっていう、
その両方で音楽は必要だった。
そうすると、読んでくれている人が共鳴してくれたり、
共感してくれるんじゃないかなって思ったんですよね。
- 糸井
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音楽って、耳ってふさげないから、
暴力的に流れてくるじゃないですか。
- 燃え殻
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はいはいはい。
- 糸井
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そこまで含めて思い出だ、みたいなことは、
あとで考えると嬉しいですよね。
- 燃え殻
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そうなんですよ。
小説で、同僚と別れるシーンがあるんですけど、
映画やドラマだったら、悲しい音楽が流れてほしいところで
AKBの新曲が流れるっていうのを、
ぼくは入れたかったんですよ。
- 糸井
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いいミスマッチですよね。
- 燃え殻
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もう俺たち会わないなっていうのはわかる。
でもそれは言わないで、「おまえは生きてろ」と言う。
そのときに、AKBの新曲がのんきに流れてるって、
なんかあるよなって。
- 糸井
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あるある。大いにある。
自分が主役の舞台じゃない世の中を表すのに、
外れた音楽を流すというのはすごく、すごくいいですね。
自分のための世界じゃないとこにいさせてもらってる感じ。
- 燃え殻
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ああ、今思いました。
- 糸井
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燃え殻さんの小説の中にいっぱい出てくるのはそれですよね。
俺のためにあるんじゃない町に紛れ込んでみたり。
- 燃え殻
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そうですね。
- 糸井
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俺のためのパーティじゃないところにいたり。
- 燃え殻
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なんかこう、そこに所在なしみたいなとこに
ぼくはずっと生きてるような気がしていて。
- 糸井
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いる場所がない。
- 燃え殻
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どこにも居場所がないっていう感じで生きてて、
居場所がないっていう共通言語の人と‥‥
- 糸井
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会いたいよね。
- 燃え殻
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そう、会いたい。
- 糸井
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それは、みんなあるんじゃないですか?
- 燃え殻
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みんな感じてるんですかね。
- 糸井
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「90年代の空気を書きたかった」みたいに、
とりあえずこの言葉で納得していこう、
今日は考えないことにしようと思って、
考えないことが溜まってってるんじゃないですか?
それよりは、この商品を明日どう売るかとか。
- 燃え殻
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ああ、そっちのほうを。
- 糸井
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忙しいことがたくさんあるから、
これやらないと怒られるよなってことを
みんな先にしますから。