燃え殻さん、どうして「書く」の?【糸井重里×燃え殻】
担当・べっくや ちひろ
第3回 捨てないと、大人になれない
- 燃え殻
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そこで、ぼくが高校生とか中学生の頃に
ファイルしてたものを展示してもらってて。
ものすごい恥ずかしいんですけど、
小説に出てきた横尾忠則展のチラシとか。
- 糸井
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俺、行ったよ。あれ、いい展覧会だったね。
- 燃え殻
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よかったですよね。
そのとき、それを集めなきゃと思ったんです。
広告の専門学校に行ってたんで、
神保町の古雑誌屋で、いろんな人のコピーを集めて、
それをファイルしたりとか。
「資料集め」とか言って、毎週行ってたんです。
でもそれって、何の資料かもいつ発表するかもわからない。
いつか役に立つであろう資料。
- 糸井
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イチローがバッティングセンターに通ってたみたいなもんだ。
- 燃え殻
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そうですか?(笑)でも、そうかもしれない。
いつ役に立つかなんてわからないけど、
これを集めないとって思って。
もしかして今日のためだったのかもしれないですけど(笑)
小説のために集めてたのかもしれないですけど、
そんなことのために集めてなかった。
- 糸井
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ただ集めた。
- 燃え殻
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ただ集めてた。
いつか何かになるんじゃないかって、
淡い、淡い宝くじみたいなことを思いながら、
こうなりたいっていう努力じゃない努力をしてたんですね。
- 糸井
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それは、みんなするのかな、しないのかな。
- 燃え殻
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ぼく、物を捨てることとか、
人と縁を切ることがものすごい下手なんです。
この小説も、付き合ってた人と縁が切れてるんですけど、
自分の中では終わってないんですよね、気持ちが。
そういうこと言ってるから、怒られるんですけど。
気持ち悪いって言われたりとか(笑)
- 糸井
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うん。
- 燃え殻
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自分ですらガラクタだと思うんですけど、
こういうものを自分の手元に置いて、
何度も見返していないと安心しないというか、
リセットすると今までの自分と離れちゃった気がして、
荷物がなくなった気がして、一歩進むのが怖くなっちゃう。
「荷物はもう軽いほうがいいよ」って人がいますけど、
荷物が重くないとぼくはダメなんですよ。
- 糸井
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それは、そういう個性なんですかね。
- 燃え殻
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そうかもしれない。
- 糸井
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タイトルも、捨てられないって書いてありますよね。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』。
子どもを捨てないと大人になれないじゃないですか。
ぼくは、捨てる痛みが好きなんですよね。
捨てざるを得なくなって捨てるときに、
「ああ、捨てちゃったけど、とくに大丈夫だったな」って
涙と共に味わうのが好きですね。
- 燃え殻
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本当は、捨てても何の差し支えもないと
ぼくもわかってるんです。
- 糸井
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あるとしたら、寂しさです。根は同じです。
で、その寂しさが好きなんだと思うんだよね。
キュンとしてるときの自分の、実在感?
- 燃え殻
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「生きてるー」みたいな。
- 糸井
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俺、昨日、ビートルズについて取材をされて。
若いときの話をするから、
どういうふうに自分がモテなくてフラれたかって
軽い気持ちで話し始めたら、悲しくなっちゃって。
受け入れられなかった自分が不憫になっちゃって。
- 燃え殻
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ちょっと涙が?
- 糸井
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ちょっと、にじんじゃって(笑)
「ごめん、ちょっと待って」みたいな。
- 燃え殻
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大人になれてないじゃないですか(笑)
- 糸井
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だから、それは捨てても残ってるんです。
捨てない人は、「捨てたら俺じゃなくなっちゃうな」って。
そういう気持ちになるから、捨てたくないんです。
- 燃え殻
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ああ、ぼく、それだ。
- 糸井
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それだと思う。
だから、大人になれなかったって言ってるじゃないですか。
- 燃え殻
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はい。発売までして(笑)
- 会場
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(笑)