- 糸井
- 昨日、(ああ、そうだ、明日清水さんに会うんだな)てお風呂入りながら考えてて。何か一つぐらい自分で、「これを思ったんだよね」ってこと言いたいなって発見したのが、“私はこう感じてます”っていうことを清水さんはしてるんだ。」ってことだったの。
- 清水
- あ、本当? あ、当たってます(笑)。
- 糸井
- ねえ。批評をしてないんだよ、全然。
- 清水
- あ、うれしい。
- 糸井
- つまり、良いだの悪いだの何も言ってなくて、その真似してる対象の人が、「私にはこう感じられちゃってますよー!」って。
- 清水
- (笑)。そうかも、うん。さすが、その通りかもしれない。
- 糸井
- ねえ。それって芸になるっていうか。
- 清水
- ふふふ。どうなんだろうね、うん。
- 糸井
- 例えば、通信販売をする瀬戸内寂聴さんとかあるじゃないですか。あの通りしてないんだけど、私にはそう見えてますよっていうだけでしょう?
良いも悪いとか一つも言ってないんですよ。
例えば、ある芸能人がいて、まあ、概ね強気なことを言ってる、ていうのはみんなが感じてることだけど、それを、「私にはあなたのことは、すごく強気なことを言ってる人として面白いなあと見られちゃってますよ」っていう(笑)。
- 清水
- 背中を押すというかね(笑)。
- 糸井
- で、本人は悪気があるとかないとかのことを全然言うつもりはないんですけど、こう見えてるんですよね(笑)。
- 清水
- 確かに、うん。
- 糸井
- そうするとお客が、「そう見えてる、そう見えてる」って(笑)。
- 清水
- 「あるある」って、そうそうそう。そう、共感の人が多いでしょうね。
- 糸井
- 共感、共感ですよね。ツッコみ過ぎず、立ち直れないようなことしないじゃないですか(笑)。
モノマネだから、そういうふうに表現できるわけで、文章で書いてもつまんないよね。
- 清水
- そうですね。うん、そうだと思います。
- 糸井
- それ当たり前か。でも、文章は文章で面白いんですよ。ぼく、清水さんの文章を「みんな、このくらい書けるようになりなさい」って言った覚えがあります。
- 清水
- 本当?
- 糸井
- うん。言っては悪いですけど、「修業したつもりのない人がこんな文章を書けるっていうことに、もっとおののいてください」って社内で言ったことありますよ。
- 清水
- わあ、うれしい。頑張ろう。
- 糸井
- 清水さんがほぼ日で子どものこととか書いてる時代があったじゃないですか。あのときに、いつもいいなあと思ってて。ご本人は、文章は何だと思ってんの?
- 清水
- ブログなんかはやっぱり、1日、寝る前に、こういうふうだったってことを書くとスッキリして寝られるので、トイレみたいな感じですかね。排泄(笑)。
- 糸井
- ほう。でも、何も思わないで生きてたら、書く段になって書けないじゃないですか。例えばアシスタントの子が気が利くなあって思ったから、そのこと書けるわけじゃない? 思ってる分量は多いよね。
- 清水
- うん、きっと多いと思う。
で、高校のときにもう自分の面白ノートというのがあったの。それにやっぱり真面目なエッセイ欄があって、それを「今回も書きましたけど、どう? 読む?」みたいな感じで回して、その人が笑ってると、もうすごい幸せみたいな。
- 糸井
- ああ。ちょっと話聞いてると、生い立ちというか成り立ちが、さくらももこさんに似てるんですよね。思わない?
- 清水
- ああ、でも、ちょっとそうかな。
- 糸井
- 思ってることを別に人に言うわけじゃないけど、あいつがこうしたな、ああした、あ、おかしいことしてるなあって見てて(笑)。それを描いて。
- 清水
- ちまちまと(笑)。で、本人幸せっていうね。
- 糸井
- そう。さくらももこさん、いくらでも描けるつってたもん。「ネタが尽きるってことは私にはないんじゃないか」って。で、本当に覚えてるしね。
だから、今の清水さんの話も、周りの人が面白がるみたいなのが原点。俺は、それはなかったなあ。
- 清水
- あ、ないの?
- 糸井
- 漫画描いたりして回覧板的に回すみたいなことでしょう?
- 清水
- そうそうそう。
- 糸井
- それは少しはしてるんです。してるんだけど……つかめなかった、お客さんが(笑)。
- 清水
- ははは。芸人だったらダメな言葉だね(笑)。
- 糸井
- 結局、女の子の方が見てくれて。
男には案外ダメだった。男は勝ち負けをさ、つい考えちゃうからさ、認めるの得意じゃないね。
- 清水
- そうかもね。男って面白い男の人に嫉妬するっていいますもんね、今でも。
- 糸井
- なるほどね。
それで、ただしょうもないことを言っておかしいやつは、小学校のときとかは自分じゃないやつがもっとおかしかった。だから、憧れてた。そういうことをやってみたいものだなと思って。
- 清水
- さんまさんみたいな感じね?
- 糸井
- そうだね。だから、修学旅行でガイドさんがマイク回すと、そいつが取ったら、もう絶対面白いみたいな。
- 清水
- 任せたみたいな(笑)。
- 糸井
- うん。で、それは思えばね、姉ちゃんがいた。
- 清水
- あ、そう。関係あるのかね、女兄弟がいるかいないか。やっぱり。
- 糸井
- 姉ちゃんがいてね、「平凡」とか「明星」みたいの取ってて、そいつんちに行くとね、貸本屋から借りて返さない漫画とかいっぱいあったりね。
- 清水
- 大丈夫なの?(笑)貸本から借りて返さないってことは、借金が溜まっていくってことでしょ?
- 糸井
- そうだと思うよ。毎日、延滞金が溜まっていくから夜も眠れない思いをして。もう取り返しがつかないってなって、布団をかぶって泣いてたんです。小学校の5年生ぐらいのとき(笑)。
- 清水
- 早い(笑)。こんなのいるんだろうね、今の世界も(笑)。
- 糸井
- どうしたらいいんだろうと思ってたのに、そいつんちに行ったら、貸本屋のハンコが押してある漫画がもうじゃんじゃんあるのよ。で、俺が今まで泣いてたのは何だったんだろうって。
- 清水
- へぇー。でかいのかな、人間が。
- 糸井
- 全然わかんない。つまりルールに対する、こう(笑)‥‥。
- 清水
- 外国人が来た、ペリーが(笑)。
- 糸井
- そうかもしれない(笑)。
あ、俺、そういう学びはけっこう多いわ。
この間、書いたんだけど、高校のときエレキを買って練習してたら、まったく音楽もできないし、勉強も何もできないやつが、「ちょっと貸してみ?」つったんですよ、ギターを。で、急にミッシェルを歌ったんですよ。同級生だけど、誰とも遊んでないような、まあ、高校デビューみたいなやつだったんだ。
- 清水
- あいつに俺、負けてんだっていう(笑)。
- 糸井
- 負けてるどころじゃなくて、登れない山をあいつは上で逆立ちしてるよと思った。
- 清水
- 価値観がもうひっくり返ったんだね。
- 糸井
- そう。親とか老人たちが言う、「何でも基礎をしっかりしとけば何とでもなるんだから」って言って、俺、一時はピアノ教室も行ったよ。嫌でやめたけど、バイエルとか習ったんだから。そういうことの延長線上にビートルズとか弾ける自分が作られると思ったら大間違いで。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- だから、何だろう。夢ってのは自分が守ってた価値観の延長線上、遠くにあったのに、今日の明日で叶えちゃってる人とか見ちゃうわけで。あれは今の自分に影響与えてますね。
- 清水
- 習うものじゃないものは確かに芸能ってあるかもしれないですね。なぜかできるって人、多いですもんね、なんか。