- 糸井
- 清水さんはピアノ弾けてるんですよね。親とかが言ってた基礎が必要だって言うのと、やりゃいいんだよってのと、自分ではどう思ってる?
弾き語りモノマネはできないよね、今日の明日じゃ。
- 清水
- ああ、それはやっぱり私が10代の頃にすごい感銘受けたから。
悔しかったんでしょうね、きっと。「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな(笑)。
- 糸井
- (笑)。
- 清水
- 頭おかしい(笑)。でも、できないっていうのがわかって。
- 糸井
- その心って大事かもね。その、何ていうの、不遜な。
- 清水
- 何という自信なんですかね(笑)。でも、今も、今でも、練習してて、もうちょっと頑張ったらなれるんじゃないかと思ってる自分がいるの。
基本ができてないだけで、もう少しやればとか、そういう変な希望みたいのがあるんですよね。
でも、やっぱり矢野さんと演奏したら、矢野さんは一筆書きでササッと書いてるように弾くんだけど、私はそれを綿密に、どういう一筆書きをやったかっていうのをコピーしてコピーして頭の中入れて……。
さも、今弾きましたみたいなふりをしてるだけ。
- 糸井
- でもさ、それもさっきの話、瀬戸内寂聴さんのモノマネをやるときと同じとも言えるよ。「あなたのやってることはこう見えてますよ」ってことだよね。
- 清水
- あ、そうですね(笑)。それだったらうれしいね。
- 糸井
- そういうことですよね。だから、似顔絵とかもそうじゃないですか。
- 糸井
- 「こう見えてますよ」って。で、そこには尊敬が入ってる場合と、そうでもない場合がある(笑)。
- 清水
- 本当だ。おいし過ぎる場合があるね(笑)。「必ずウケる、この人」っていうの、何なんだろう。
別に桃井さんのこと強調してないんだけど、普通にやっててもすごいウケるのよね。それと男の人がやる矢沢永吉さん。すごくおかしいね。不思議ね、あれ。憧れがどんなに強くても、そうじゃない人でも、なんかおかしい。
- 糸井
- どう言ったらいいんだろう。永ちゃん自身の面白さって、とんでもないよ、やっぱり。
- 清水
- 面白さって二つあるけど、笑う方と深みのどっちだろう。
- 糸井
- 結局それね、一つのものだよ。
つまりね、永ちゃんね、二枚目じゃないんだよ、大もとは。ひょうきんな子だったらしいんだ、やっぱり。
あのね、今にして思えばやっぱり、ジョン・レノンもそうなんだ、やっぱり。面白いことやってニヤニヤしてるっていうところがジョン・レノンにはあってさ、それが音楽に行ったからビートルズになったわけで。セールスマンになったとしても、ちょっとおかしいことやってると思うよ、ジョン・レノンは。
で、永ちゃんは、なんかね、おかしい子なの。ひょうきんな子なの。で、ひょうきんな子が二の線もレパートリーに入ってるんだよ。だから、できるんです。
- 清水
- そうかな。じゃ、笑っても全然平気なんだ。
- 糸井
- うん、いや、そこのあたりは、あまりにも本物なんで(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 「それ、おかしい?」って聞きたくなるってところが、あまりにも本物性で(笑)。
いや、俺はね、今年またね、永ちゃんをもっと好きになったんだ。なんかひょいと思い出して電話かけてくるんだけどさ、お互いね、ないものを持ってる人って、いい意味で褒めてくれたりするんだよ。
で、暮れに電話かけたきっかけは、昔うちで作った、犬が生まれた本があって、『Say Hello!』っていう。「それを今、ずっとあったんだけど見たら、糸井、面白いことしてるねえ」って。
- 清水
- (笑)。すごいうれしいですね。
- 糸井
- 「いいよ。そういうところがいいよ」って、何年前の、何年前の本だよ。もうさ、14、5年前の本を今見て、電話したくなったって(笑)。
- 清水
- へぇー、少年っぽいですね。
- 糸井
- で、それが素直に出てきて、「思えばおまえのやってることは、そういうことが多くて、俺にはそういう優しさとかってのが、ないのね」って。
- 清水
- そんなことないですよね、きっと。
- 糸井
- そう。で、「それは違うよ。同じもののこっちから見てるか、あっちから見てるかだけで、俺は永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」って言うと、「そうかな……。うれしいよ、それは」って言って。
- 清水
- へぇー、ずいぶん‥‥
- 糸井
- いいでしょ?
- 清水
- うん。
- 糸井
- だから、どう言えばいいんだろう……。ボスの役割をしてるボスと、それから、ときにはしもべの役割をしたり、ただの劣等生の役割をしたり、永ちゃんは全部してるんです。
それを全部大体俺は見てるんで、ああ、相変わらず、あの世界ではもうトップ中のトップみたいになっちゃった、別格みたいになっちゃったけど、全然同じだなと思って。また今年、じーっと見てようかなと。
- 清水
- 何で知り合ったんですか、最初。
- 糸井
- 最初は、だから、『成りあがり』って本を作るために知り合った。
- 清水
- へぇー。で、どんどん好きになってったんだ。
そしたら永ちゃんにあって糸井さんにないものっていうと何だと思いますか?
三枚目の線つったら、また怒られるかな(笑)。
- 糸井
- いや、三のところではぼくは、一緒にしてもいいと思う。永ちゃんにあってはねえ、うーん、量的にものすごく多いんだけど、責任感じゃないかな。
- 清水
- へぇー。それこそ、社長としても?
- 糸井
- 学んでますよ、ぼくは。永ちゃんから学んでますよ(笑)。
例えば、やれるかやれないかのときに、余計なことは、聞くことは聞くけど、やるべきだって言ったときに、どのくらい本気になれるかとか、遮二無二走れるかとか、そういうのは。
でもね、そこだけで言うと、そういう人はいっぱいいるからなあ……。
あ、生まれつきっていうか、ボスザルとして生まれたサルと、そうでもないサルといるんだよ。
- 清水
- そうか。成りあがりって、そっちだったんだ(笑)。
- 糸井
- そうでもないサルの僕が、永ちゃんのことを「ボス、すげぇっす!」、「ちょっとこれ、本に書いときます!」みたいな(笑)。大人数の人をひれ伏すようなサルたちはいっぱいいるよ、芸能の世界にだってね。
でも、やっぱり永ちゃんのそのボスザル感は、すごいよね。永ちゃんのステージとか見てると、これは、もうできない。
ぼくは永ちゃんに対しては、ずっと絶対にぼくは下につこうっていう、もう決意のように持ってますね。
- 清水
- 下の方が気持ちいいんでしょうね。
- 糸井
- もうすごい楽しいの、そのボスを見るのが。ボスザルを見るのが。
だから、そういうふうに思わせてくれる人って、やっぱりそんなにいるもんじゃないんでね。親しくすることもできるし、見上げることもできるしっていうのは、ありがたいことだよね。俺は永ちゃんには、もう負けてる場所にいるからっていうのも言える。だから、そこは楽ですよね。
- 清水
- そうか、立場をはっきりしとけば。
- 糸井
- うん。出会ったのが若いときからだった、っていうのがよかったかもしれないですね。