- 糸井
- このあいだ文章で書いたんだけど、昔エレキを買って練習してるときに、音楽も勉強も何もできないやつが、タンタカタンタン、タンタカタンタン弾き始めちゃったのを見て、何だったんだ俺は、って思ったんだよね(笑)。俺、そういう学びはけっこう多くて。
- 清水
- あいつに俺、負けてんだっていう(笑)。
- 糸井
- 負けてるどころじゃなくて、登れない山をあいつは上で逆立ちしてるよと思った。
- 清水
- そう。価値観がもうひっくり返ったんだね。
- 糸井
- そう。親とか老人たちが「何でも基礎をしっかりしとけば何とでもなる」って言うから、俺バイエルとか習ったんだから、一時は。ピアノ教室も行ったよ。嫌でやめたけど。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- そういうことの延長線上にビートルズを弾ける私が作られると思ったら大間違いで。「ちょっと貸してみ?」って言われて、ギターを貸したら、急にミッシェルを歌ったんですよ。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- 自分が守ってた価値観の延長線上にあった遠くの夢を、今日の明日で叶えちゃってる人を見ちゃうわけで。あれは今の自分に影響与えてますね。
- 清水
- そうか。自分は大したものじゃないんだって感じ。確かに芸能って、習うものじゃないものはあるかもしれないですね。なぜかできるって人、多いですもんね。
- 糸井
- その基礎が必要だっていうのと、やりゃいいんだよっていうのと、清水さんはどう思ってる?
- 清水
- …どうなんだろう。
- 糸井
- 弾き語りモノマネはできないよね、今日の明日じゃ。
- 清水
- あぁ、そうかもね。それはやっぱり私が10代の頃にすごい感銘受けたから。悔しかったんでしょうね、きっと。「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな(笑)。
- 糸井
- その心って大事かもね。その、何ていうの、不遜な(笑)。
- 清水
- 何という自信なんですかね(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 清水
- でも、今でも、もうちょっと頑張ったらなれるんじゃないかと思ってる自分がいるの。
- 糸井
- ああ。
- 清水
- 基本ができてないだけで、もう少しやればとか、そういう変な希望みたいのがあるんですよね。
- 糸井
- 矢野顕子にあって清水ミチコにないものは何なの?
- 清水
- それは音感。指ももちろん、ピアノから何から、音楽性。
- 糸井
- でも、同じ道で、振り向いたら矢野顕子の後ろに清水がいた、ぐらいのとこにいるわけだ。
- 清水
- いない、いない、全然。全然レベル違う。
- 糸井
- でも、遠くに見えるぐらいにはいるんじゃない?(笑)だって、ピアノ2台くっつけて両方でやってたじゃないですか。
- 清水
- あれは、矢野さんは一筆書きでササッと書いてるんだけど、私はどういう一筆書きをやったかっていうのをコピーして頭の中入れて、さも今弾きましたみたいなふりをしてるだけ。
- 糸井
- 思えばそれもさっきの瀬戸内寂聴さんをやるときと同じともいえるね。「あなたのやってることはこう見えてますよ」っていうことだよね。
- 清水
- あ、そうですね(笑)。それだったらうれしいね、でも。
- 糸井
- そういうことですよね。似顔絵とかもそうじゃないですか。そこには尊敬が入ってる場合と、そうでもない場合がある(笑)。
- 清水
- おいし過ぎる場合がね(笑)。「必ずウケる、この人」っていうの、何なんだろう。別に桃井さんのこと強調してないんだけど、普通にやってもすごいウケるのよね。あと男の人がやる矢沢永吉さん。
- 糸井
- それは、幼稚園に行く子どものいるお母さんが自分の子どものハンカチに、クマとかウサギとか目印に描くじゃない。あの、パンダだね。
- 清水
- 何それ(笑)。
- 糸井
- 目印に描くだけなんだけど、ウサギは耳でわかるけど、ネコとクマと描いてもわかんないじゃない。でも、パンダは、超パンダじゃない(笑)。
- 清水
- (笑)
- 糸井
- 永ちゃんって、超パンダなんだと思う。
- 清水
- ああ、なるほど。同じ動物界でも。だからおかしいのかなぁ。
- 糸井
- だってさ、永ちゃんの面白さって、とんでもないよ、やっぱり。
- 清水
- 面白さって二つあるけど、笑うほうと深みの。
- 糸井
- 結局それね、一つのものだよ。つまりね、永ちゃんね、二の線じゃないんだよ、大もとは。ひょうきんな子もレパートリーに入ってるんだよ。
- 清水
- なるほど。
- 糸井
- 永ちゃんから暮れに急に電話があって、もっと好きになったんだけどね。昔ほぼ日で作った『Say Hello!』っていう犬が生まれた本を見て「糸井、面白いことしてるねえ」って。お互い、ないものを持ってる人って扱いをしてるらしいんだよ。
- 清水
- すごいうれしいですね。
- 糸井
- 「いいよ。そういうところがいいよ」って。もうさ、14、5年前の本を今見て、電話したくなったって(笑)。
- 清水
- へぇー、少年っぽいですね。
- 糸井
- それが素直に出てきて、「思えばおまえのやってることは、そういうことが多くて、俺にはそういう優しさとかってのが、ないのね」って。
- 清水
- そんなことないですよね、きっと。
- 糸井
- そう。で、「それは違うよ。同じものをこっちから見てるか、あっちから見てるかだけで、俺は永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」って言うと、「そうかな。うれしいよ、それは」って言って。いいでしょ?
- 清水
- うん。
- 糸井
- だから、ボスの役割と、ときにはしもべの役割と、ただの劣等生の役割と…永ちゃんは全部してるんです。
(つづきます)