もくじ
第1回本当は、いろいろ話したかったよね 2019-02-05-Tue
第2回最初は、周りの人が面白がってくれた 2019-02-05-Tue
第3回10代のころの感受性 2019-02-05-Tue
第4回サル山のボス 2019-02-05-Tue
第5回不幸になる気はしないです 2019-02-05-Tue

漫画家・イラストレーター・たまにデザイナー。
「アユム」と読まれがちな「アユミ」です。女子バスケの漫画を描いています。

隣人は、芸の肥やし

担当・歩

第4回 サル山のボス

清水
不思議と、「必ずウケる人」っていうのがあるんですよ。
別に桃井さんのこと強調してないんだけど、
普通にモノマネしてもすごいウケるのよね。
あと、男の人がやる矢沢永吉さん。すごくおかしいね。
憧れがどんなに強くても、そうじゃない人でも、
おかしくなるの。不思議だなぁと思って。
糸井
それは、幼稚園に行く子どものいるお母さんが
子どものハンカチに、クマとかウサギとか
目印に描くじゃない?あれでいう、パンダだね。
清水
何それ(笑)。
糸井
パンダはものすごく記号的じゃない?(笑)。
ウサギはまあ耳を描けばわかるんだけど、
ネコとクマを描かれても違いがわからない。
 
でも、パンダは、わかりやすくパンダじゃない(笑)。
永ちゃんって、超パンダなんだと思う。
桃井かおりも(笑)。
清水
桃井さんも超パンダなんだ(笑)。人が集まるしね。
そうか。だから、おかしいのかな。
糸井
だってさ、永ちゃんの面白さって
とんでもないよ、やっぱり。

清水
へぇ、そう。
面白さって、笑うほうと深みの二つあるけど、
どっちの?
糸井
結局それって、一つのものだよ。
つまりね、永ちゃんは二の線じゃないんだよ、大もとは。
ひょうきんな子だったらしいんだ、やっぱり。
清水
え、昔?『成りあがり』読むと違うけど(笑)。
糸井
だから、ちょっとかいつまんでんだよ、
あれは(笑)。
清水
書いた人が言うんだから間違いないか(笑)。
糸井
うん。あのね、今にして思えばやっぱり、
ジョン・レノンもそうなんだ。
それが音楽に行ったからビートルズになったわけで、
仮にセールスマンやってたとしても、
ちょっとおかしいことやってると思うよ、
ジョン・レノンは。
 
永ちゃんはひょうきんな子なの。
で、ひょうきんな子が二の線もやれる‥‥
そのレパートリーに入ってるんだよ。
だから、できるんです。
清水
そうかな。じゃあ、笑っても全然平気なのかな。
糸井
そこのあたりは、あまりにも本物なんで(笑)。
清水
(笑)
糸井
「それ、おかしい?」って聞きたくなるところが、
あまりにも本物性で(笑)。
 
俺はね、最近また永ちゃんのことが
ものすごく好きになったんだけど、
お互いに、ないものを持ってる人って
認識をしてるらしいんだよ、向こうも。
いつもひょいと何かの拍子に電話かけてくるんだけど、
暮れにも急に電話があって。
きっかけは、昔うちで作った『Say Hello!』っていう本。
「ずっと持ってたけど、今読んだ。
糸井、面白いことしてるねえ」って。
…何年前の本だよ(笑)。
もうさ、14〜5年前の本を今見て、電話したくなったって(笑)。
清水
(笑)。
すごいうれしいですね。少年っぽい。
糸井
で、それが素直に出てきて、
「思えばおまえのやってることは、そういうことが多くて、
俺にはそういう優しさとかってのが、ないのね」って。
清水
そんなことないですよね、きっと。
糸井
そう。で、「それは違うよ。
同じものをこっちから見てるかあっちから見てるかってだけで、
俺は永ちゃんに優しさをいっぱい感じるよ」って言うと、
「そうかな。うれしいよ、それは」って言ってて。
清水
へぇー、いいですねぇ。

糸井
永ちゃんは、ボスの役割をしてるボスと、
それから、ときにはしもべの役割をしたり、
ただの劣等生の役割をしたり、全部してるんです。
清水
そうか。
糸井
それ大体、それを全部大体俺は見てるんで、
相変わらず、業界ではもうトップ中のトップみたいな、
別格みたいになっちゃったけど、全然同じだなと思って。
また今年、じーっと見てようかなと。
『成りあがり』って本を作るために出会って、
もう長いんだけど。
清水
あ、本ありきで出会ったの?
で、どんどん好きになってったんだ。
糸井
キャロルとか見てたから、カッコいいなあと思ってて。
カッコいいっていうのと面白いなっていうのは、
当時から一緒だったのよ。
だって、今さらハンブルク時代のビートルズの
コピーバンドやってるみたいに思えたから。
清水
ああいうブームってほら、本当は脈々とあるじゃないですか。
不良が好きっていうのかな。
さすがに今の若い子たちにはないのかな。
糸井
うん、日本にはなかったよ。
キャロルがあって、ダウンタウンブギウギバンドがあった。
で、その後に『ツッパリHigh School Rock’n Roll』だとか。
 
あとはどんどん、キャロルに上積みしていったものです。
でも、世界的に見ると、若い頃のビートルズがやってたわけ。
若くて不良っぽいっていう人がモテたのは脈々とあると思うよ。
サッカー部のやつのほうが読書クラブのやつよりモテますよ。
清水
そうだね、そりゃ(笑)。
糸井
モテない人は、つれないどころか、
大サービスしてるのに「しつこい」って言われたり(笑)。
清水
不条理よね(笑)。
永ちゃんにあって糸井さんにないものって何だと思いますか。

糸井
永ちゃんにあってぼくにないものねえ、うーん‥‥
量的にものすごく多いんだけど、責任感じゃないかな。
清水
へぇー。それこそ、同じ社長としても?
糸井
学んでますよ、ぼくは。永ちゃんから学んでますよ(笑)。
やれるかやれないかのときに、
どのくらい本気になれるかとか、遮二無二走れるかとか、
それだけで言うなら‥‥そういう人はいっぱいいるからなあ‥‥。
 
あ、生まれつきっていうか、ボスザルとして生まれたサルと、
そうでもないサルとがいるんだよ。
そうでもないサルは、「ボス、すげえっすぅ!」みたいな
引き立て役(笑)。
清水
そうか。成りあがり、ボスだったんだ(笑)。
サル山にいそうですもんね(笑)。
糸井
チンパンジーの戦争のドキュメンタリーがあって、ボス争いがあるんだよ。
ボスっていうのを、何を基準に決めるんだろうって思わない?
どうやら、喧嘩じゃないんだよ。
清水
喧嘩じゃないの?
それ以外に何かあるの?
糸井
教えましょう。パフォーマンスなのよ。
つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
清水
やろうと思ったらこれだけできるよっていう。
糸井
そう、パフォーマンス(笑)。で、それを見てからますます、
永ちゃんのステージとか見てると(笑)、これは、もうできない。
 
大人数の人をひれ伏すようなチンパンジーたちはいっぱいいるよ、
芸能の世界にだってね。
でも、やっぱり永ちゃんのボスザル感は、すごいよね。
清水
ユーミンさんが1回、何かのインタビューで、
どうして矢沢永吉さんは自分が毎日のようにやるパフォーマンスに
飽きてないのか知りたいって、本気で言ってたけど、
どうなさってると思います?
いつもどこ行っても満員でワーワー、じゃないですか。
どんなバンドも、それにちょっと飽きてしまう。
糸井
「それは矢沢が真面目だから」。
(矢沢さんの真似をしながら)
清水
(笑)
糸井
「矢沢、手は抜かない」。
多分そういうことだと思うよ。
清水
やめてもらっていいですか(笑)。
好きなんですね。
糸井
手を抜けないんだよ、多分。
抜いたら矢沢じゃなくなるって。
だから、矢沢は矢沢を全うするんですよ。
清水
そうか。それはみんなのためでもあるし。
糸井
うん。さっき「責任」って言ったのはそういうようなことで、
それのちっちゃいやつはみんなが持ってるわけです。
例えば清水さんの最初の武道館だって、大勢が集まって。
清水
あ、そうです、そうです。
糸井
あのときに、「私がぐずぐずしてらんない」っていうのは
きっとあったじゃないですか。なくはないですよね?
清水
そうそうそう(笑)。
あと糸井さんが、お客さんって1人を見たいんだと言ってくれて、
そうかなと思って1人でやってみたら、
やっぱり「あ、これ、いただいた」って感じがして(笑)。
糸井
すごかったでしょう?(笑)
清水
うん。快感でしたね。
糸井
やっぱり、「ここは私がちゃんとしないといけない」
みたいなのは、みんなちょっとずつは持ってるんですよね。
清水
そうか。そういえばその武道館、
このあいだ森山良子さんと一緒にやったんですけど、
リハーサルスタジオに行って
うちのスタッフがエレベーターに乗ったら、
「何階?」って言ってくれたのが永ちゃんで、めっちゃビックリしたって(笑)。
やっぱりいい人なんですね。そういう方なんですね。
糸井
そういう方なんです、うん。
だから、矢沢永吉としてできてる、
みんなが思ってるものを壊すのは
自分であってはいけないって気持ちがあるっていうか。
 
分裂してるんですよ、ある意味ではね。
みんなが思ってる矢沢永吉像と自分というのは、
やっぱり離れてると思うよ。
清水
そうでしょうね。
糸井
それはイチローでも何でもみんなそうですよ、とんでもない人たちは。
清水
そうか、マウンドに出るときは。
糸井
うん。清水ミチコはどうなんですか(笑)。
清水
私、そのままかもしれない(笑)。
できるだけそのままでいようと思うしね。
糸井
ふく人はそのままの人が多いね。
プッて自分で言ったことでふく人は、松本人志と(笑)‥‥。
清水
そうかも。だって、その人になるんだもんね、舞台上で(笑)。
自分で笑っちゃう(笑)
糸井
その2人はふくね、清水ミチコと(笑)。
清水
幸せ(笑)。
糸井
それ興味ある部分なんですよね。
だから、ぼくは永ちゃんに対しては、
ずっと絶対に下につこうっていう、もう決意のように持ってますね。
 
もうすごい楽しいの、そのボスザルを見るのが。
そういうふうに思わせてくれる人って、
やっぱりそんなにいるもんじゃないんでね。
親しくすることもできるし、見上げることもできるしっていうのは、ありがたいことだよね。
清水
そうですね。
ちょいちょい電話かかってくるっていう
関係もいいですね、また。
糸井
ちょいちょいじゃないんだよ。何か節目なんだよ。
これからアメリカ行くんだみたいなときだとか、
こうしようと思うんだってときにかかってきて。
それはずっと意識してるからだって本人は説明するんだけど、謎だよね。

清水
矢沢さんと普通にしゃべることはできます?
ビビらずに、お電話でも対面しても。
糸井
うん、それは普通。
清水
へぇー。
糸井
だから、俺は永ちゃんには、
もう負けてる場所にいるからっていうのも言えるし。
だから、そこは楽ですよね。
清水さんは、アッコちゃんと普通にやれるじゃないですか。
清水
いや、そうでもないです、
やっぱり(笑)。
糸井
本当?
清水
嫌われたくないっていうのがすごい強過ぎて、
よく噛みます、本当に(笑)。

(つづきます)

第5回 不幸になる気はしないです