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江戸時代に史実をもとに創作された物語が、
およそ3百年間、途切れずに上演されています。
いまも年末に時代劇として放映されることのある
「忠臣蔵」の大流行のおおもとは、
江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎でした。
とにかくやればあたる演目で、さびれた芝居小屋も
「忠臣蔵」をかければたちまち大人気だったらしい。
「忠臣蔵」のどこがすごいの?
ほぼ日の学校でHayano歌舞伎ゼミを開く
サイエンスフェローの早野龍五に訊きます。
2018年8月29日に草月ホールで行う
「落語で歌舞伎入門」は、
忠臣蔵と落語で歌舞伎に近づく、
はじめての方向けのイベントです。
チケットは7月20日(金)午前11時より販売開始です。
いまごらんのページから
イープラスの特設ページへ移ります。

第2回

スーパーヒット作。

早野
歌舞伎をよりたのしむには、まず
いくつかのことについて、
あらかじめ知っておくことが大事です。
──
知っておくと、
おもしろさのジャンプができるんですね。
早野
そう。
いちばん大事なポイントを言いますよ。
「歌舞伎は、ほぼ江戸時代に演じられたものである」
ということ。
ですから、その時代特有の事情というものがあります。
──
はい。
早野
たとえば、歌舞伎の忠臣蔵には、
浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)も
吉良上野介(きらこうづけのすけ)も
大石内蔵助(おおいしくらのすけ)も
出てきません。
──
え‥‥。
早野
知らなかったでしょう。
──
え? え?
じゃあ、忠臣蔵じゃないじゃないですか。
早野
赤穂事件にはもちろん、
浅野内匠頭も吉良上野介も大石内蔵助も登場します。
でも歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」には、
みなさんが知っている人物は出てこないんです。
──
なぜですか。
早野
あれですよ、あれ。
テレビドラマの最後にテロップが出るでしょう。
「このドラマはフィクションです。
実在の人物や団体とは関係ありません」
というのが。
──
あ‥‥‥!
そうか、実際にあった事件だから。
早野
武士の世界の出来事をそのまま
民衆が舞台で演じたりしたら、
すぐにお縄になっちゃう。
──
取り締まりがあるんですね。
早野
ですから、当時の人々は江戸時代の、
──すなわち当時でいえば現代ですね、
現代劇ではないかたちを取ったんです。
「これは室町幕府のあった、足利時代の話です」
──
昔話にしちゃった、と。
横道にそれますが、ここでちょっと質問が。
早野
はい、なんでしょう。
──
江戸時代の歌舞伎では、
ニュースやワイドショーのように、
実際の事件をよく題材にしたんですか?
早野
どこかで誰かが心中したとか、
大名家でお家騒動があったとか、
事実をもとにしたものも扱いました。
すごいときにはすぐにシナリオ書いて、
事件の起きた3日後に演ったりするわけ。
──
おお、かわら版ネタを!
早野
どこかのお姉さんが
お店屋さんのお兄さんとくっついた、
というような出し物は「世話物」といって、
そのままやっても問題ありません。
でも、どこかの大名が人を斬っちゃったなんて話は、
実名じゃできないんです。
──
しかし、お客さんは、
いまのTVドラマと同じで
「モデルはあの人だ」とわかって観るんですね?
早野
もちろんお客はわかっています。
取り締まるほうも見逃してくれた。
その結果、こうして忠臣蔵は
3百年続いているわけです。
建前上「昔の話です」と言い張る、
それは「世界を借りる」という言い方をします。
忠臣蔵の場合は足利時代の太平記の世界を借りて、
登場人物を巧みにマッピングしたわけです。
──
では、太平記の登場人物名で
浅野内匠頭が出てくるんですね。
そのことを知らずに歌舞伎を観たら、
いつ浅野内匠頭が出てくるのかと、
ずっと待っちゃいますね。
早野
太平記の世界を借りているのだな、ということを
知っておくだけで、
格段にわかるようになるんです。
浅野内匠頭は塩冶判官(えんやはんがん)、
吉良上野介は高師直(こうのもろのう)として
出てきます。
──
じつは‥‥まず忠臣蔵のお話からして、
くわしく知らないんですけれども、
それでもおもしろく観られますか?
早野
サラッと知ってれば大丈夫。
だってね──、この「仮名手本忠臣蔵」という芝居は
討ち入りした赤穂事件から
47年後に作られた話なんですけれどもね。
──
うわっ、ぐうぜん四十七士と同じですね!
早野
そう‥‥知らないと言いつつよく知ってますね、
四十七士で47年後なんですよね、それでね。
──
はい、へんな合いの手を入れてしまいました、
それで‥‥?
早野
事件後の47年後に上演されて、大ヒットして、
それからおそらく現在まで、
1年たりとも途切れることなく上演されています。
ハイッ、ここが驚くところです。
──
驚きました。
早野
ただし、エクセプト・フォア・
昭和20年から21年にかけて、です。
──
江戸時代から上演され続けてきたのに、
昭和20年にいったん止まった‥‥、
あ、太平洋戦争ですね。
早野
そう。
終戦後にアメリカ軍が来て、
「仇討ち話はけしからん」ということになって、
いったん途切れたんです。
エクセプト・フォア・そこの2年ぐらいかしら?
そこを除いて初演時からおよそ3百年、
上演されなかった年は1年もないといわれるくらい
続いています。
──
‥‥スーパーヒット作ですね。
早野
スーパーヒット作です。
これね、「独参湯」っていいいます。
「忠臣蔵は独参湯」
──
どくじんとう‥‥?
早野
要するに、漢方の万能薬です。
すなわち、芝居小屋が経営不振になったらば、
これさえ演れば必ず経営が盛り返すという‥‥
──
特効薬。
早野
それほどの超有名、超人気作。
そのことを、みなさんが
よく知らないわけですよ。
──
知らない。もったいない。
くやしい。
独参湯は気になります。
早野
でしょ?
いったい忠臣蔵の何がそんなに
独参湯なのか、と思うでしょう。
──
知りたいです。
(明日につづきます)
2018-07-18-WED

ほぼ日の学校スペシャル

落語で歌舞伎入門

  • 8月29日(水)18:00開場 19:00開演
  • 草月ホール(東京・赤坂)
  • 出演:桂吉坊(落語)・早野龍五(解説)
  • 全席指定4,320円(税込)
  • チケットは7月20日(金)午前11時より販売開始
    いまごらんのページからイープラスの特設ページへ移ります。
イベントについてくわしくはこちらをごらんください。