いやはやもう、泣くやら笑うやら、 すっかり10分のアニメーションに あたまをグルグルされてる感激団ですが‥‥ どうですかみなさん? まだ話せますか? |
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スンスン‥‥あい。 すみません、大丈夫です。 |
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‥‥だいぶ落ちつきました。 |
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じゃあ、ぼくは、 ぜひあのシーンについて話したいんですが。 |
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ほう、あのシーンと言いますと? |
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それはですね、 おばあさんのことを思いだす、 まさにその瞬間のシーンです。 |
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ええと、それは‥‥。 |
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はいはい、パイプを拾う瞬間の、 あのカットバック! |
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そうそうそうそう! パイプを拾おうとした瞬間にね、 おばあさんと過ごした過去のシーンが はさみこまれる。 |
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それでパアッと思いだすんだよね‥‥。 わたしはあの瞬間まで、 おじいさんは過去のことを すっかり忘れていたんだって思いたい。 |
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ああ〜、つらいからね。 |
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たぶん、忘れてたんじゃないかな。 |
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そうだよね、 たまたま偶然に出てきたんだよね。 |
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そうそう。 |
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日常のさりげないしぐさから、 うわあっと思い出して。 |
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あの、落ちているパイプを拾う、 この姿勢(やってみせる)で 思い出すんだよね。 |
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そうそう、形で。 「肉体」が思い出したんですよね。 |
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そう、肉体が思い出した。 あの表現はみごとでした‥‥。 |
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なんか、そういう、 思い出さないようにしてることを ちょっとした感触で思い出すことって よくあって‥‥(声が震えだす)。 わたしの父が亡くなったときと、 ちょうど同じころに 知り合いのお母さんが亡くなったんですね。 |
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うんうん。 |
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で、その人が話してたんですけど‥‥スン、 お母さんが亡くなる前に‥‥‥‥ なんあ、ようふくのすろを‥‥‥‥‥‥ |
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(笑) |
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おスギさん(やさしく)、 なに言ってるのかわからないよ。 |
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落ちついて? ね? へいきだから。 |
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‥‥すみません、らいじょうぶです。 あの‥‥‥‥わらしの知り合いが、 お母さんを亡くしたんですね。 その知り合いが話してたんですけど‥‥ なんか、洋服のスソを引っぱられたことが あったんだそうです、お母さんに。 「なんでこんな洋服着てんのお?」 みたいなことをお母さんは笑いながら。 なんでもない日常のことですよね、それって。 でもわたしの知り合いは、 その引っぱられる感触を お母さんが亡くなってからも こころのどこかで覚えてて。 あるとき、木の枝か何かに、 洋服のスソが引っかかったんですね‥‥。 |
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ああ〜。 |
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だら‥‥そいれ、おかさんに‥‥ それをひっぱら‥‥言って‥‥ぇぐ‥‥。 |
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うんうん。 だから、そのときのそれで、 お母さんに洋服のスソを引っぱられたことを ふいに思い出したっていうことよね? うん、わかる、わかるから。 |
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(笑) |
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‥‥すみません‥‥スンスン。 そんなふうに、思い出すんですね。 普段は思い出さないようにしてるから。 思い出すと、つらいから。 |
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ずっと思い出し続けてると、 おかしくなっちゃいますよね。 |
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うん、いまを生きられない。 |
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そう。 |
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無理だよね、つらくて。 |
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つらすぎると思う。 |
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そうですよね。 だから、いろんなことはもう 水の底に沈めちゃうんだね。 でも、ふとしたときに、 「はっ」という場面があるんだよ。 |
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でも、「はっ」って思えるっていうことは、 すごい、なんだろう、 幸せ不幸という言葉じゃ簡単すぎるけど‥‥ やっぱり‥‥幸せなことですよ。 |
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そうですね。 |
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なんかねえ‥‥わかんなくなっちゃう。 過去に嫌なことばっかりあったほうが 将来は幸せなのかなあ? |
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ん? どういうこと? |
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「いい思い出を作らないほうが、 夫は老後、幸せかしら?」とかね。 |
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ははははは! いま旦那に優しくすべきか、冷たくすべきか? |
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そう(笑)。 悪い思い出だけを残してあげれば、 将来そこにすがらなくてすむじゃない? |
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また、すごい考えが出ましたよ(笑)。 |
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しかも半泣きで。 |
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「あんな女いなくなってよかった」 って思ってくれたほうがいいと思っちゃう。 |
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だからって、いま悪妻になるの? |
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そう(笑)。 |
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ああ〜、すごいわ、その考え。 |
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いや、スガノさん、あのね、 基本的には、優しくしてあげたほうがいいよ。 |
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(爆笑) |
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そうですよ、やさしくして 悪いことないですよ、きっと。 |
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たのしい思い出つくってくださいよ。 |
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つくってこう! つくってこう! |
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あははははは。 |
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ちょっとの優しさでいいからさ。 |
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この前、糸井さんが言ってましたよね、 夫婦生活の話。 長く一緒に暮らしていって もう惚れたはれたじゃない状態になっても、 ほんのちょっと気に掛けてくれたり、 「あれ買っといたよ」とか、 「畳んどいたから」みたいな、 そういうなんでもないようなことが ちょっとさ、いいんだよって。 だから、無理やりね、 「いい思い出をつくろう!」 っていうことじゃなくて、ね? |
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そうね。 この物語の奥さんも、 パイプ拾ったくらいですから。 |
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そう、パイプ拾っただけ(笑)。 「あなたのために思い出を作ったわ!」 って過剰なことはしてないでしょう。 |
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うん、してないね。 |
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日常があっただけです。 |
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日常のことですよね。 |
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日常があるっていうことの、 すばらしさだよね。 そこに、生活があった。 |
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ほんとほんと、ふつうでいい! |
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さっきスギちゃんが言ってた、 「洋服のスソを引っぱる」 みたいなことだよね。 |
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ぅわらしわ‥‥そのはらしになると‥‥ |
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あわわわわ、ごめんごめん! |
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‥‥スン、スンスン。 |
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鼻をかんでください。 |
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スンスンスンスンスンスン。 |
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なんでもらい泣きしてんの!(笑) |
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(コンコン、とノックの音) |
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あ、はいー。 どうぞー、お入りくださーい。 |
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(ドアが開く) |
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あ、失礼します‥‥。 |
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わざわざありがとうございます。 えー、みなさん、ご紹介します。 こちら、『つみきのいえ』の作者の、 加藤久仁生さんです。 |
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こんにちはー。 |
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(つづきます!) |
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2008-12-23-TUE |
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協力 ロボット / 東宝 / pieces of love |