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高阪 |
自転車の補助輪が取れた瞬間ってありますよね。
補助輪が取れたらずっと自転車に乗れる。
乗れなくなることは、もうない。 |
沼澤 |
はい、はい。 |
高阪 |
それと一緒で、カラダって、
できるようになったら一生できるんだと
思うんですよね。
できなかった状態っていうのに
戻れなくなっちゃう。
もし戻ろうとしたらすごく何か、
やりにくくって、
「何、俺、そんなことやってたのかよ」
っていうふうなことになる。 |
沼澤 |
逆に不自然かもしれない。 |
高阪 |
それが、正しかった本当の
カラダの使い方なんだと思うんです。 |
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沼澤 |
そういえば、ドラムの動きで、
手首が痛くなったりとか、
怪我をしたとき、痛くならないように
動かないといけないっていうところから、
徐々に効率のいい動きをすることが
できるようになっていきました。
怪我したことで、じゃあ、どうやったら
そういう負担がかかんないようになるんだろうと。
で、それは一回わかると、
またやっちゃったっていうのがなくなるんです。 |
高阪 |
やっぱり。 |
沼澤 |
高阪さんは、相手があるから、
ちょっとちがうのかもしれないけれど。 |
高阪 |
自分が格闘技やってて、
こういうことを考えるようになったのは、
まさに相手がいるものだからなんです。
ちょっとでも変な動きをしたり、
自分のカラダに合ってない動きをすると
やられちゃうんですよね。
で、勝てないんです。
ほんとにそれで倒れちゃったりとか、
試合の最後までもたなかったりとか。
全部の動きが正しくないと。 |
沼澤 |
“自分としての正しくない動き”は、
だめなんですね。
ヒョードルと対戦したときはどうでしたか。
ヒョードルって、連打してるときでも、
すっごいでかく見えるじゃないですか。
ダイナミックに見える。 |
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高阪 |
うんうん、あれは、軸がしっかりしてるから。
股関節も含めた軸がすごく強い。
でも思った通りだったんですよ。 |
沼澤 |
試合前に考えたことが、
ああ、やっぱこうだった、っていうことですね。 |
高阪 |
ただ、その前の段階で流血して、
単純に見えなくなってしまったんで。
目ん玉にパンチが入って、
ぼやけちゃうんですよね。で、ぼやけて、
それがだんだんだんだん戻っていくんですけど、
パンチを同じとこばっかりもらってると
ぼやけたまんまで何も見えなくなった(笑)。 |
沼澤 |
やっぱそうですよね。
距離感がいきなり難しくなりますもんね。 |
高阪 |
分かんないんですよね。
ヒョードルは右側が得意だから、
右を見ようと思ったのに見えないものだから。 |
沼澤 |
ああ、そこ、当てられちゃいけなかった。 |
高阪 |
いけなかったんですよね。
で、後からフィルム見たら、
「思った通りじゃん!」みたいな。 |
沼澤 |
ところで、プロの格闘家というのは
科学的なトレーニングをするものなんだと
思っていたんですが、
高阪さんはどうですか。
以前ジムで吉田秀彦さんが話してるのを
聞いていたことがあるんですけれど、
あの人とかなれば、日本で最もすごい人が
付いているのかと思いきや、
そういうわけでもないみたいなんですよね。 |
高阪 |
秀彦は自分と同い年なんですけど、
自分らの世代ってそうなのか、
あんま気にしてこなかったんですよね。
秀彦もそうなんじゃないかな。
自分ら世代とかって、アイシング
(使った筋肉を氷で冷やすこと)をしたらね、
笑われるみたいなことがありましたから。 |
沼澤 |
「氷とか乗っけてる!」みたいな?
「かっこわるー、お前、冷やしてんの!」
みたいな感じですね。 |
高阪 |
ほんと、そういうのがあるんですよ。
ほっときゃいいんや、こんなもん、
ていう感じでした。
でもそれはね、絶対よくないんですよ。
トレーニングし終わったらもう絶対
冷却しなきゃだめなんです。
だけどそういうのを
やってこなかった世代なんです。 |
沼澤 |
吉田さんはそうやっても
金メダルを取った人なんですよね。 |
高阪 |
はい、そうですね。ただ、秀彦なんかは
あんだけオリンピックで金メダル取って、
あれだけ取りざたされてるのにも関わらず、
周りが思ってるようなことは一切、
やってないんですよ。
トレーナーの方がちゃんと付いてっていう
感じではないんですよね。 |
沼澤 |
もうとにかく強い人だ、
っていうことなんでしょうね。 |
高阪 |
そうですね、根っこが強いんでしょうね。 |
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沼澤 |
格闘技に転向したときから、高阪さんが、
ずっとセコンドに付いてたじゃないですか。
そういうときにも、そういう話、
してなかったんですか? |
高阪 |
秀彦は、たとえば技に関して、
うまくできていないところがあるとすると、
「ちょっとこうやればうまくいくよ」って言うと、
形が分かると同時に使い方が分かるんですよ。
一瞬にして自転車に乗れるようになる、
というようなことですね。
そこがすごいんです。 |
沼澤 |
すごい。そういうセンスがあるんですね。 |
高阪 |
天才型ですよ。 |
沼澤 |
高阪さん、選手を引退なさって、
格闘家の人たちのトレーニングを
指導してるんですか? |
高阪 |
はい、総合格闘技の指導をしています。
うちの選手がだんだん育ちだして
プロの大会とかに出だしてるんで、
そっちにかかりっきりですね、今は。 |
沼澤 |
ああ、そうなんだ。 |
高阪 |
で、今日、沼澤さんとお話したようなことも、
分かるやつは分かるんですけども、
分かんないやつには、
そのさらに前の段階から話をしてやらないと。
沼澤さんはふだんからカラダの動きを
気にしているほうですか? |
沼澤 |
ぼくは効率や動きとかっていうのを、
わりと気にしてるほうだと思います。
自分自身、吉田秀彦さんのように、
やったら何でもできたわけじゃなくて、
むしろ、ものすごいできなかったから。 |
高阪 |
まわりの人は「最初からできた人だ」って
思って見ていたりするでしょうね。 |
沼澤 |
いや、すっごいできなかったんですよ。
だからものすごく習って、
練習しなきゃいけなかったんです。
なので、今でもそういうことっていうのは
すごく考えてやんないとだめなんです。 |
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(つづきます) |