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沼澤 |
ぼくはだめなところがあるので、
自分のライブを映像で見て、
「どうだったんだろう」というのを
考えるんです。 |
高阪 |
いまも練習をたくさんなさるんですか。 |
沼澤 |
イメージ的なことの方が多いですけれど。
とくに本番前はどっちかっていうと
メンタルな方が大きいんです。
人って、「自分のやれること以上のこと」は、
できませんよね。
無理していいとこ見せようとか、やろうとすると、
本意じゃないものが出てきて失敗する。 |
高阪 |
そうですね。
格闘技も同じですよ。
できないのに思いっきりやっても、
相手は倒れてくれません。 |
沼澤 |
一緒ですよね。
なので、どちらかというと、ぼくは、
メンタル的なトレーニングの方を考えるんです。
動きを練習するっていうことよりも、
イメージして、そう動けるぞという
気持ちを持っているか持っていないかが、
本番では大きいんですね。
実際にステージに上がったときっていうのは
いかに集中するかっていう方が大きいので。
野球で打席に入る前に重たいバットを振って、
軽い感じで行くぜっていうのとは全然違って、
どっちかっていうと
いかにその1時間の演奏に、
深く入り込んでいけるか、ということなんです。
いわゆる技術の練習とは、別なんですよ。
本番直前に1時間練習したからといって、
今日のステージが昨日よりいいってことは
ありえない。
積み重ねて来てないとだめだから。 |
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高阪 |
本番では、もう、自分を自分に任せている。
戦う自分自身に、演奏する自分自身に。
沼澤さんは、ステージに上がった瞬間の
沼澤さん本人に自信を持たれているというか、
そこにもう、任すしかない。 |
沼澤 |
どっちかっていうと諦めてるっていうか、
これ以上のことはできないんだから、
今、できることを精神的に一番いい状態で
出せるようにしなきゃいかん、ていうことですね。
練習を否定しているわけではなくて、
ほんとにする必要があったら、
絶対やってると思うんで。
やんなきゃいけない、これをやんないとなあ、
と思ってやってることってだめじゃないですか。
試験勉強と一緒で。
忘れるじゃないですか、次の日に。
明日までにこれをやんないと試験が、
っていうことって、
それを答案用紙書いた瞬間、
次の日から全部忘れるじゃないですか。 |
高阪 |
そうですね。 |
沼澤 |
だからそこでわりと諦めてるっていうか、
ほんとにやりたいと思うことでないと、
自分の中で蓄積されないじゃないですか。
ぼくにとって練習って、そういうものなんです。 |
高阪 |
すっごく分かります。 |
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沼澤 |
子どものときにほんとに好きだった歌だとか、
そういうのって絶対覚えてるのとかって、
そういうのに似てると思って。
心から思ってることって、覚えてる。
やんなきゃいけなくて、
しょうがねえから俺、やるか、って
やんなきゃいけないものは、
それが終わった瞬間に忘れません?
でも嫌だけどやんなきゃいけなかったり
することってあるじゃないですか。
‥‥難しいですよね。 |
高阪 |
(笑) |
沼澤 |
もちろん、嫌だと思ってやってることは
1個もないんですけど、
やってみないと分からないし、
とりあえず声かけてもらったらありがたいし、
やりに行くじゃないですか。
でもやっぱり長年やっていくと、
だんだん仕事の幅が狭く、
深くなっていくんですよね。
糸井さんは、頼まれた仕事は、
自分がお願いしてでもやりたい仕事だと
いうふうに持って行くとおっしゃるのだけれど、
そうなるには結構時間がかかりました。
ぼくも、ほんと、この5年ぐらいですね、
自分の活動が変わり出したのは。
それまではやっぱりいろんなところで、
やってみないと分からなかった。
今、ようやく、自分から、
ものすごい入れ込んでやれることを
やれるようになってきた。
だからやっぱり、声かかんなくなりましたよ。
逆に。
「あ、この人はもう多分、
こういうところには出ないだろうな」
って思われる演出を自分でしてったので、 |
高阪 |
沼澤さんはステージでも
譜面を見ていませんよね。
あれは覚えていかれるんですか。 |
沼澤 |
レコーディングでもライブでも、
譜面を見ながらというのが嫌なんです。
どういう曲をやるのかっていう、
その資料やメモを必ず始めに貰って、
その楽曲に合うための楽器を選んで、
全部覚えていくようにしています。
譜面に書いてあるものを見ながら叩くと
やることがひとつ増えるんですよね。
だから曲は覚えていくんです。 |
高阪 |
それは、ステージに上がったら、もう、
自分ができることはできることなので、
もう開き直るぐらいに諦める、
っていうことにつながりますね。 |
沼澤 |
高阪さんは、対戦相手が決まったとき、
「こいつとやったら負けるかも」
というふうには考えますか。
そんなふうに思ったことあります? |
高阪 |
「負けるかも」って思わないやつはいない、
と思うんですよね。
「絶対勝つ」というふうに、
もちろん思うんですけど、
でも、その反面、
負けるとしたらこういうパターンで
負けるのかなっていうのも、
一瞬ですが、考えます。
ところがそれが面白いもので、
一瞬思うんですけど、
そっから自分との戦いが始まるんです。
負けるかもっていう思いを消してしまうために。 |
沼澤 |
消せるんだ‥‥。 |
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高阪 |
はい。で、どうするかっていうのを
自分はずーっと考えてきたんですけど、
結局は、ふだんの練習に戻るんです。
「ちょっと今日はこれ以上動けないな」
っていうところまで練習したときに、
「もう1本だけスパーリングをやろうぜ」と。
それを毎日積み重ねてると、
「負けるかも」が
どんどんなくなっていくんですよ。 |
沼澤 |
それは心からそういうふうに思うようになる、
なれるってことなんですね。 |
高阪 |
なれるんです、それが。
それは、何でなのかなって思ってたんですが、
結局、気持ちもそうなんですけど、
カラダが、自分が思ってもいないような動きを
やってくれるようになる、
ということなんです。 |
沼澤 |
それは練習と考え方の
両方で、そうなっていくわけですね。 |
高阪 |
そうですね、試合前の練習であったりとか、
あと、練習中は気付かなかったりするんですけど、
帰るとき、帰りの電車の中で、
「ああいう動きって今まで俺、
したことなかったな」
とかっていうのがあったりとか、
だんだん積み重ねていって、
それが自信になっていくんです。 |
沼澤 |
リングに上がった瞬間はやっぱり
「絶対負けない」って思って行くんですよね? |
高阪 |
そうですね。「負けるかも」が
なくなった状態で上がるように、
自分はしてました。 |
沼澤 |
ぼく、いっつも不思議に思うんですよ。
素人が見てて、どう見てもこの人が勝つよね、
っていうマッチメイクがあるじゃないですか。
ぼくらが見てても、
絶対差が有りすぎるっていうときがある。 |
高阪 |
(笑) |
沼澤 |
ああいうときに、明らかに負けるであろう方が、
こいつ、でも、ひょっとしたら
いけると思っているんだろうか、
どうなんだろうって思うことがあるんです。 |
高阪 |
それは選手によって違うかもしれないですね。
でも少なくても自分は、リング上がった瞬間に
そういう気持ちになったことは一回もないです。 |
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(つづきます) |