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高阪 |
沼澤さん、ちょっといいですか。
立っていただいて。
(ふたり、立ちあがる)
自分が歩いていくので、
同じような感じで歩いてもらいたいんです。
こっちから普通に歩いてきて、
この椅子の角を曲がってください。 |
沼澤 |
こうですね(歩く)。
角を曲がる‥‥と、こうやって、
‥‥こうですよね。 |
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高阪 |
はい、はい、やっぱり、そうですよね。 |
沼澤 |
(笑)えっ?! 何ですか?
なにが? どうして?! |
高阪 |
いま、歩いてきて椅子のところで
直角に、左に曲がってもらいましたよね。
沼澤さん、曲がるときの軸足が、
右足にあったんですよ。
右足をしっかり踏み込んで体重移動をして、
カラダの軸をぶらさずに左に曲がられました。
これ、もうすごく当たり前のことなんですけど、
左に曲がろうと思ったら、右足を軸にしないと
すっと曲がれないんです。
けれど、これ、あんがい、
できていない人が多いんです。
ためしに、意識して左足を踏み込んで
左に曲がってみてください。 |
沼澤 |
(歩く)
わ、すごく曲がりにくいですね。
なんだか妙な感じがします。
バランスをとるのが難しいです。 |
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高阪 |
沼澤さんは、ドラムも含めて
カラダをどうやったら楽に使えるだろうと、
意識してきた方なので、
意識していなくても、日常の動きが、
そういう動き、らくに動かせるかたちに
なっているんだと思うんですよ、 |
沼澤 |
はい、はい。 |
高阪 |
「角を曲がる」なんて、
そんなん、別に大したことじゃないですか、一見。
でも「普通にそれをやる」っていうのは、
じつは難しいことなんです。 |
沼澤 |
今、言われてはじめて
そうだっていうのが分かりました。
ふだん、そんな意識してないですもんね、 |
高阪 |
はい、言われてみれば、ってとこなんですけど、
気付いたことを今度は逆に意識するようにすれば、
もっと、生活がしやすくなるんじゃないかって
考えているんです。 |
沼澤 |
今、通っているジムですが、
最初はウエイトを上げて筋力をつけてきたのが、
今は「こういうふうにして上げましょう」
というカタチや、意識のことを、強く言われます。
で、それがそのまま音に出るんですよ。 |
高阪 |
沼澤さんのあの、長い演奏ができるのも、
そのトレーニングのおかげですね。 |
沼澤 |
たしかに長い演奏ですよね(笑)。
1曲が2時間ぐらい続くこともあります。 |
高阪 |
沼澤さん、カラダ全体をつかって
カラダの軸を使って左右にふりながら
ドラムを叩きますよね。
あれで音の強弱をつけているんですか。 |
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沼澤 |
あ、それは、そうですね。
そういうふうに、波を作りたいがための、
動きなんでしょうね。
自分の中で結構意識している大きなものが、
「波」なんです。海の波。 |
高阪 |
はい。 |
沼澤 |
あれって、たとえば機械的な
メトロノームでいったら、
それと同じふうには動いてないと思うんですけど、
海辺に座って波を見て音を聞いている、
完全に割り切れるような正確さはないんだけど、
こうなったと思ったらこういって、
次がちょっとおっきくて細かくなってって、
それがすごい気持ちいいじゃないですか、
音と動きとその全体の空気っていうものが。 |
高阪 |
はい、そうですね、はい。 |
沼澤 |
それが機械ではできないけど、
人間ではできるんじゃないか、
っていう気持ちがあるんですよ。
その、自然にそういうように動く。
それは頭だけでやるのはできないんだろうな、
っていうのがあって、
カラダの波を逆にこう、
機械に近づけるような正確さじゃなく、
動かしていくんです。
両足は、ある一定のリズムを
キープしようとするんですよ。
(と、足をタン・タン・タンと規則的に踏む) |
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高阪 |
はい。 |
沼澤 |
こういうふうに足はできるだけ
一定にキープさせますよね。
どっちかっていえば催眠的に。
それで上半身は、
さっき言った波みたいにしたいんですが、
腰のところでちゃんとつながってないと、
それができないんですよ。
ただその動き“しか”できなくなると
その逆になったときに今度、
バランスが崩れるので、
どっちでもできるようにならないといけない。
それは、基本的なドラムの世界には、
教材としてあるんですよ。
長い打楽器の歴史の中で築かれた、
手足、両手を、バランスを崩さずに、
いかに独立して動くようになるかっていう
練習方法があるんですけど、
ぼくは下手くそなんですよ、それが。
もっと上手な人が世の中にはごまんといる。 |
高阪 |
ああ、そうなんですか。 |
沼澤 |
自分がその技術がないことを、
ある意味、ちょっと後悔もしてるんですけど、
そういうことができる人の弱点もある。
それは、そこに頼っていくことなんです。 |
高阪 |
はい。 |
沼澤 |
そういうことができる、
その技術を持ってると、
それを披露するという
演奏方法になる人もいるんです。
音楽を演奏する場合には
技術を披露しようと思った時点で
ちょっと目的と離れることになりますよね。
中学生の高阪さんがRCサクセションの曲を
演奏するっていうときに
果たしてそれが必要なのかどうか?
‥‥と考えると、
練習すればできるかもしれないけど、
楽曲を演奏する、音楽を奏でる、
っていうこととは、
かけ離れると思うんです。 |
高阪 |
ええ、ええ。 |
沼澤 |
‥‥こういうことって
ふだん言葉にしないですよ。
高阪さんと話して、
はじめて言葉になりました。 |
高阪 |
実はそこがすごく自分は大事だと思ってるんです。
普段、積み重ねて来られてるからこそ
できてることっていうのがありますよね。
多分、世の中の、
プロフェッショナルと呼ばれる方というのは
ほとんどそうだと思うんですよね。
で、カラダはそれを気付いてるんだけれども、
それを具体的にこうだからこうなってるっていう
ことばにできる仕組みがあれば、
深いところの理解度が
さらに増すんじゃないかな。 |
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(つづきます) |