高阪 輔蔵さん、踵に重心をって言われて、
それを気づかれ、あ、なるほどねと思われたときに、
その後からは意識するようにされました?
花柳 そうですね。僕、どっちかといったら
爪先の方に重心があったんです。
真ん中ぐらいだったのかな、
それで人よりも前にかかってしまったので
僕が注意されたんですね。
ですから、それが体に入るまでは
かなり意識をしました。はい。
体に入ってからはもう
意識しなくても大丈夫にはなりましたけれども。
高阪 そうですか。
花柳 右肩が上がるとか、そういう自分の癖とか、
ちょっと上半身を人以上に動かしてしまう、
っていう癖があったりっていうのは
意識して直してきました。
高阪 体を動かしてしまいがちなところを
動かさないようにっていうことをされたときは、
動かさないようにするんだけれども、
あの、何て言うんですかね、
体の中でそれを動かしてるっていう?

花柳 そうですね、まさにほんとに!
僕は肩が動いちゃうんですけど、
肩が動くってことは重心が
上に上がってしまうんであって、
僕、常にこう、この腰回り、
丹田(たんでん)ですか。
高阪 はい、丹田。
花柳 丹田に、ぐっと力があれば、
体全体を使って動けるっていう
話だったと思うんですよ。
だからそういう動きになるべくするようにしたら、
悪目立ちしなくなるんだと思います。
高阪 でも常に重心は取れてるっていう状態なんですね。
花柳 はい、そういう状態です。
高阪 そういうことがすごくいっぱい実はあるんですよ。
動いちゃいけないんだけど
動かさなきゃいけないっていう状態がすごくいっぱい、
特にスポーツの世界にはすごく多くて。
自分たちの格闘技とかだと、
あんまり大きな動きをするとバレちゃうんですよね。
次、何をやるか。
花柳 あー、なるほど。
高阪 だからできるだけ動かさないようにして、
打撃を出すとかということが求められるんですよ。
特に上のレベルの者だと。
たとえばパンチ、打撃のところで、
初動の動作が大きすぎると、
気づかれて、避けられちゃうんですよね。
だから、ぱっと手が出るように。

花柳 一緒ですね。
一緒っていったらあれですけど、
体を使うということでは同じですよね。
高阪 そうですね。
股関節回りであったりとか、
骨盤であったりとかで、
中で回すということが
すごく大事になって来るんですよ。
で、どっちにしても中で回すために
すごく大事なのは、
実は動いてないんだけど
動いてるっていうことなんです。
花柳 動いてないんだけど動いてる。はい。
ほんとまさに僕らもそういう感覚です。
高阪 そういうのも含めてやっているうちに、
根本的な部分ていうのが、
だんだんだんだん、
バリが取れて行く状態になっていって、
それでかたちが完成されると思うんです。
先ほど、自分に教えていただいた
踊りでもそうなんですけど、
自分が汗っかきだっていうのもあるんですけど、
自分はものすごく疲れてるんですよね。
だけど輔蔵さんはそうでもないと思うんです。
そうなれたのが、いつぐらいかっていうの、
何か感覚で覚えてらっしゃいますか?
それまではちょっとバランス崩れたりしていたのに、
何回も繰り返してるうちに
体がちょっと辛いなっていう感覚から、
今みたいな状態になっていくところの、
ポイントっていうか。
花柳 特にこれというポイントは
今、思いつかないんですけども、
ほんと、僕も汗っかきで、
だらだらかいてたんですね。
でも、先輩はかいてないぞと思って。
かいてない人は上手い人なんですよね。
なんでかなと思って、
とにかくこの「菊づくし」も
階段上がれなくなるぐらい稽古して、
膝頭がぼろぼろになるぐらいまでやったんですね。
基礎の稽古ばっかり。
そしたら、だんだん体に入ってきたのかな、
どんなに稽古しててもやっぱ緊張して
汗をかくものなんですけど、
かかなくなったんです。
僕は師範の免許を取ったんですけど、
練習を一つ越えると自信になって、
汗をかかなくなりましたね。
精神的な部分が多いんですかね。
本番でも、稽古でやってるのと
同じような状況で踊れると、
自然に汗もかかなくなりますし。

高阪 はい。さっき言われた、体に入っていくって、
僕も実は、おっきなポイントだと思うんです。
ほんとに辛くなるぐらいまで練習をされていると
体が勝手に、どうやったら楽に動けるかとか、
無駄な動作をしなくていいかっていうのを
探し出してくれるんじゃないかと思うんですよね。
だから、今まで辛かったのが、
思い返してみれば前に比べたら、今、楽だなとか。
で、よくよく考えると、
そう言えばあんなことやってたなっていうのが分かる。
そこまで考える必要もないので考えてないだけで、
自分の中で答え合わせができるっていうことが、
スポーツも含めて、体を使って行うことには、
必ずあると思うんですよ。

自分がもう一個、大事だと思うのは、
うちにも弟子が何人かいるんですけれども、
自分が見ても分かるんですよね。
あ、こいつはここが使い方が分かってない。
だからうまくいってないんだっていうのが。
で、本人もそれがうまくいかないのを
すごくジレンマに感じてるんですね。
自分は答えが分かってるんですけど、
答えを言うんじゃなくて
ヒントをあげるっていうことが
すごく大事だと思うんですよね。

そうするとそのヒントを元にその本人が考えて、
ある日、もしかしたらこういうことなんですかねって
聞いて来て、おおよそ合ってたら、
それプラスアルファの
答えを教えてあげるっていうことをしてやると、
すごく理解度が増すんですよ。

花柳 はい。
高阪 何も専門の分野の方だけじゃなくて、
今、普通に生活されてる人たちでも
単純にたとえば歩くっていうことにしても
うまく歩けてない人とか、
あまりにも便利になり過ぎて、
無茶苦茶な歩き方して、
それで腰痛とか、
体、故障したりとかしてる人って
すごく多いと思うんです。
そういう人たちに、
今、いや、そこはこうじゃなくて、
こういうことなんだよって
いきなり答えを言ったところで
うまくできないと思うんですよね。
それを、普通にどう動きとしてやりましょう、
というところで、
体操っていうかたちでみんなにやってもらったりとか、
やるようにすれば、
ひょっとしてこういうことなのかなっていうことに
つながっていくようなことができるんじゃないかな。
そんなことを考えているんです。

  (つづきます!)
   
    2007-12-28-FRI    
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