- 糸井
- 小鳥さんが写真を撮るときにも、
撮られる人との距離みたいなものがありますよね。
自分も硬くなっちゃうことはあるんですか?
- 小鳥
- あ、緊張ってことですか?
- 糸井
- つい気張ったり、カッコつけちゃったことはない?
- 小鳥
- あぁ、今は緊張しないですね。
緊張してもいいことが1個もないって気づいてから、
写真を撮るときには緊張しないです。

- 糸井
- いつ気づいたの?
- 小鳥
- 最初は本当にすごく緊張してたんですよ。
でも、いつからか気づきました。
- 糸井
- それは、最初の写真集を出してからですか?
それとも、出す前ですか?
- 小鳥
- 出してからかもしれない。
- 糸井
- じゃあ、僕らが「川島小鳥」という名前を
知るきっかけになった『未来ちゃん』の時には、
まだ、その術は知らなかったんですか?
- 小鳥
- その時には知ってました。
ふだんは本当に緊張するんですけど。
- 糸井
- たぶん、僕が思ったのと同じようなことを
皆さんも感じたと思うんですけど、
『未来ちゃん』は、親が撮ったのかと思ったんです。
こういうタイプのポートレートってなかなかないし、
生活の中に入り込んでるじゃないですか。
「こういうの、親じゃないと撮れないんだよなぁ」って
思っていたわけです。
そうしたら、「作者がいる。他人だ」と聞いて、
「なんで撮れるの?」って思ったわけです。
その辺の思い出をちょっと語ってもらえませんか?

- 小鳥
- 女の子のお母さんが僕の友達で、
佐渡島のすごい田舎に住んでいるんです。
茅葺屋根でポットン便所、
その家に居候して撮っていました。
- 糸井
- あぁ、一緒に暮らしたんだ。
- 小鳥
- 一緒に寝たり、ご飯食べたりして。
写真を撮りに行っていたんですけど、
一緒に暮らしていたっていう感じなんですよ。
- 糸井
- どのくらいの期間ですか?
- 小鳥
- 1年間を行ったり来たり。
1週間泊まったり、2週間泊まったりを繰り返しました。
- 糸井
- じゃあ、写真を撮りに来る
不思議なお兄さんだったわけだ。
- 小鳥
- そうです。
- 糸井
- へぇ。そうしたらこういう写真が撮れるわけですね。
いやぁ、最初びっくりしたんです。
『未来ちゃん』を撮っているカメラマンが、
どういうことを考えて、
どうして撮れたんだろうって考えていました。
僕らは全然、川島さんのことを知らない時だったんで、
このカメラマンは、女性だと思ったんです。
主人公の女の子が、屈託のない撮られ方をしてるから。
たとえば、篠山紀信さんとかがね、
「グッと近づいて!」とか言っても怖がっちゃう。
- 小鳥
- (笑)
- 糸井
- うん、まさしく距離感ですよね。
『未来ちゃん』の女の子と、
知り合いどうしみたいになるまでの間には、
失敗もあったんですか?
- 小鳥
- あの、最初に撮れちゃったんですよ、まぐれで。
まぐれで撮れちゃったから、
「これを1年やるぞ」と思ってからが大変でしたね。
パッて撮ったら、すごくいい写真。
自分で狙って撮った写真じゃないから、
「なんだ、これは」と思って1年やろうと決めてから、
いかに自分を認識されないよう生きるか気をつけました。
- 糸井
- 空気みたいになるわけ?
- 小鳥
- はい。
- 糸井
- 一緒にご飯を食べたりしますよね。
で、ご飯を食べてる時には、写真は撮らないんですか?
- 小鳥
- いつおもしろくなるかわかんないんで、
起きている時はずっと、警戒態勢に入っていて、
最初は僕が警戒しすぎて、偏頭痛とかになったんです。

- 糸井
- 油断ならない状態をずっと続けてるわけだ。
その警戒態勢って、女の子の方にはうつりませんか。
- 小鳥
- その警戒態勢も、できるだけゆるやかに見せるんです。
- 糸井
- はぁー、そうだったんですね。
最初に撮れちゃったら、後が大変だという意味は、
仕事にしていない人には
なかなか理解できないと思うんだけど、
結局、自分の癖みたいなものが出ちゃって、
「いいね!」っていう瞬間は何種類もないんですよね。
途中で「あれ? 同じになっていくな」っていう悩みに、
僕だったらなるだろうなと思ったんですけど、
川島さん、その辺はどうでしたか。
- 小鳥
- あっ、そうなったかもしれません。
でも僕の場合は、『未来ちゃん』を
1年間撮りきる前に『BRUTUS』の
写真特集で取り上げていただいちゃったんです。
ひそかに撮っているほうが簡単で、
「みんなに知られちゃったな」と思ったけど、
それでも集中しながら1年の撮影を終えました。
- 糸井
- 集中しながら、気張らないようにする。
心の平静を保つのは、簡単じゃないですよね。
- 小鳥
- はい。ここで鍛えられました。
- 糸井
- 撮られる側に、「今が撮られる瞬間だぞ」
みたいなことを悟られちゃったらダメですよね。
- 小鳥
- あ、幸いなことに大丈夫でした。
- 糸井
- 子どもだからかな。
- 小鳥
- そうですね。あと、『未来ちゃん』の女の子は、
あんまり写真を撮られたことがなかったんです。
だから、写真が何かもあんまりわかってなくて。
- 糸井
- たぶんお知り合いでしょうけど、
梅佳代さんなんかは、「撮られるぞ」っていうのを
意識している人たちを撮るのがうまいじゃないですか。
つまり、中学生のやんちゃな人たちが
「さぁ、来い!」って言っているようなものでも、
土俵に乗せて撮るじゃない?
小鳥さんは、その逆ですよね。
- 小鳥
- そうですね。
- 糸井
- 逆に言うと、川島さんにとっては難しいですよね。
自転車の上で、なんか逆さになって
変な顔する子どもとかさ、
「撮れ」と言わんばかりじゃない?
あれは拾えないですよねぇ。
- 小鳥
- はい、拾えないです(笑)。
- 糸井
- 真逆ですよね。
- 小鳥
- はい。月と太陽ですから。
- 糸井
- 月と太陽か。ああ、そうかもしれない。
梅佳代さんは、自分の存在感を露わにして、
向こうも出させることで、その衝突を撮るじゃない?
だから、梅佳代さんは自分の写真のことを、
「報道写真」と言っているんですよ。
いま起こった世界の出来事を切り取るから、
「私は報道写真家だ」って言ってるんです。
じゃあ、川島さんは何写真だろうね?
- 小鳥
- 報道の逆ってなんですか?
- 糸井
- 報道の逆ですよね。暮らし? 非事件ですよね。
なんだろう。なすがまま? あるがまま?

-
(糸井重里は、対談後に東京へ帰る新幹線の中で、
川島小鳥さんを「日常写真家」と表現しました)
さっきの対談で、「梅佳代さんは、じぶんを報道写真家だと言ってるし、実際そうだと思う」とぼくが言って、川島小鳥さんが「報道写真の逆はなんになるんでしょう?」と言ったのですが、いまわかった!「日常写真家」じゃないでしょうか。
— 糸井 重里 (@itoi_shigesato) 2015, 10月 11
- 小鳥
- なんか、授業みたいでうれしいです。
- 糸井
- いや、たしかに小鳥さんは報道の逆ですね。
梅佳代さんにカメラを向けられた時に、
「さぁ、おもしろい顔してやろう!」
となったら、その瞬間が報道になる。
でも、『未来ちゃん』の女の子は、
自分がすくい取られたことを知りません。
- 小鳥
- 僕の写真って、たぶんすごい話しづらいと思うんです。
- 糸井
- 語りにくい写真だけど、ずいぶんわかったね。