
- 糸井
- ちょっと聞きたいんですが、
写真を選ぶ時に、ほほえみかけた時だとか、
ほほえみ終わったけど、もう1枚撮ることがあって、
そのズレみたいな写真が採用される時もありますよね。
- 小鳥
- はい。はい。
- 糸井
- ほほえんだ瞬間にシャッターを押すだけじゃなくて、
ほほえみ終わってから、もう1枚撮っておくと、
もっとなんでもない写真になりますよね。
- 小鳥
- ちょっと未来が撮れる。
- 糸井
- そうですね。
ちょっと、さっきの写真をいくつか見てみましょう。
- 糸井
- この前と後が、あるはずですよね。
- 小鳥
- あります、あります。これは、ちょっと前かも。
- 糸井
- こっちを向いてる子が右側にいます。
目と目が合って、ほほえみ合ってるけど、
他の子は準備もできてないし、撮られるつもりもない。
だけど、1人の子と目が合った瞬間に押したから、
他の子のなんでもない時間が撮れてますよね。
- 小鳥
- はい。
- 糸井
- だから川島小鳥らしいわけで、
みんながこっち向いてうまく撮れたら、
川島小鳥の写真じゃなくなるわけですよ。
- 小鳥
- あぁ。糸井さんの言葉を聞きながら見ると、
さらにいい写真に見えてきます。
- 観客
- (笑)
- 糸井
- これはもう、誰も見てない。
誰も見てないんだけど、
左側の女の子がうれしそうに何かを始めた瞬間です。
「うれしい」っていう感じが、
シャッターを押させるほほえみになる。
まわりの子は、その女の子につられて、
何かの動きが出てきたから、撮ったんですね。
- 小鳥
- おぉ~。
- 糸井
- ここにもまた1人、はっきりとうれしい人がいる。
で、カメラマンが「いいね」って思った子と重なった。
他の子も生き生きしてるけど、うまく景色になっている。
生き生きした表情は、撮った後でもう一回うれしいです。
写真になったら、その子の生き生きが見えてくるから、
もっとうれしい。3度うれしいんですよね。
- 小鳥
- あぁ。天才ですね。
- 観客
- (笑)
- 糸井
- ちょっとおもしろいから、もっと見ようよ。
- 糸井
- これは、どこかを向いてますけど、
あの猫が「いるな」っていうところのおもしろさです。
だから、どこを向こうが何していようが、
この本の分量とあの子のいる場所の
バランスがすごく楽しかったから「えい、押しちゃえ」。
だからこの写真は、ほほえんだというよりは、
カメラマンになっていると思うんです。
ちょっと「カメラマンになる」写真も入るでしょ?
- 小鳥
- あります、あります。
- 糸井
- ありますよね。
たとえば、『未来ちゃん』の写真集にも、
障子に映った影の写真なんかがあって、よかった。
ポートレート写真ではなくて、
絵を描こうとするのと同じタイプの写真があって、
小鳥さんの写真集にはそれが混ざっていないと、
「この人、大丈夫?」って思われちゃう可能性があります。
時々、「僕、ちゃんと撮れるんだぞ」っていう写真を、
けっこう意図的に混ぜているんですよね。
- 小鳥
- はい。すごく冷静な部分です。
- 糸井
- だから、みなさんがお金を出して写真集を買うんです。
意図のある写真が、真ん中にあると思うんですよね。
- 小鳥
- はい。
- 糸井
- これは、もう油断そのものですよね。
- 小鳥
- これ見て、「撮ったっけ?」って思ったんです。
パソコンで音楽を聴いて、みんな盛り上がってました。
めっちゃ笑ってました。
- 糸井
- うん、うれしそうなんですよ。それが撮れてるんだね。
でも、これが入ることで、いい感じの油断が混じった。
捨てるよりは、あったほうがいいんです。
この「500円」みたいなのが活きちゃうんだよね。
- 小鳥
- そうですね。写真って、おもしろいですね。
- 糸井
- 写真がおもしろいのは、
撮ったつもりもない余計なものが、活きちゃうんですよ。
この「500円」には、
あんまり意味はないかもしれないんだけど、
いまこうして見ると楽しいですよね。
これが絵だと、なかなかそれができないんですよね。
- 糸井
- これは当然、キャッキャ言ってますから。
ここでは左の男の子が効いてますねぇ。
- 小鳥
- はい。すごいですね。
- 糸井
- 以前、学芸員の人と一緒に「書」を見て
書の見方を学ぶ企画がありました。
その時にわかったことですけど、
「どういうふうに筆が動いたかを再現しながら見る」
という見方があるんですよ。
ここはすごい速さが出た。ここでじつは一回止まって、
ゆっくりになって、ググッと押しつけてこすった。
思い切り跳ねた。躊躇した。止まった。
みたいなことを知ると、その勢いが見えるわけです。
でも、活字はベタッとした面積が押されたものだから、
その時間の流れが見えないんですよ。
写真って、前後の時間が見えるんで、
書の見方とすごく似てるなって、僕は思うんですよね。
「一緒に止まりましょう」と言って楽しむ写真もあるし、
前後の時間が一緒になった様子を見せる写真もあって、
両方の見方があると思うんです。
もうちょっと見ようかな。
- 糸井
- ああ、これはもう写真家ですよ。
- 小鳥
- はい(笑)。
- 糸井
- 全部ばれちゃうね(笑)。
あの猫のいる分量と、本の配分がいい。
もし水彩画で描いても「いいね!」って言えるもので、
ニコッと笑うより、キラッていう瞬間の写真です。
猫もいい味を出しているし、これはこれで楽しいですね。
猫シリーズはみんなそうだね。
- 糸井
- これもよくできてるよね。
美人に見える猫だ。
- 小鳥
- はい。ふくちゃんっていうんです。
- 糸井
- これはもう、そういう造形というか、
醸し出してくる美しさを撮りたいっていう写真。
だから写真が笑っていなくて、作品を作ってますよね。
- 小鳥
- 猫が窓から出てきちゃいそうだったんですよ。
出てきたら大変だと思ったけど、きれいだなと思って。
- 糸井
- あぁ。いいですねぇ。もうちょっと見よう。
- 糸井
- これは、「きれいだから」と、「油断そのもの」の
2つの世界が融合したものです。
この写真を撮っておこうと思うところが小鳥さんですね。
- 小鳥
- あ、そうかもしれないですね。
- 糸井
- 猫の表情が光ってますよね。
- 小鳥
- これ、金沢で撮った写真のナンバーワン候補です。
- 糸井
- すごくいいですよね。いや、おもしろい。
カメラマンと直接、こんなふうに写真の話をしたのって、
もしかしたら初めてかもしれないね。
- 小鳥
- 僕以外のカメラマンでシリーズ化したら観に行きます。
- 糸井
- いやぁ‥‥。小鳥さんは隠さないからしゃべれるけど、
たぶんみんな、もうちょっと隠しますよ。
- 小鳥
- 隠しますかね。
- 糸井
- 「俺の撮影の秘密が、お前なんかにわかってたまるか」
というのはあると思うよ。
- 小鳥
- 僕は、自分のことが、自分じゃわからなくて。
- 糸井
- 無意識でやっているからね。