
- 糸井
- 「シャッターを押すのとほほえむのが一緒だ」
ということがわかって、小鳥さんについて、
「じゃあ、永遠に撮れるね」って思いました。
- 小鳥
- 本当ですか?
- 糸井
- だって、ニコっとほほえむ気持ちがありさえすれば、
ずっと撮り続けられるじゃない?
- 小鳥
- なんか想像しちゃいました(笑)。
- 糸井
- ほほえめなくなることもあると思うよ。
嫌な仕事を我慢してやってたら、撮れなくなるね。
- 小鳥
- ああ。気をつけます。
- 糸井
- さて、だいぶ時間も迫ってきましたけど、
せっかく小鳥さんがいらっしゃるんだから、
質問とかあれば答えますよ。
あっ、手が挙がった。
- 女性
- こんにちは。
あの、おふたりにお尋ねしたいんですけれども、
写真を撮ることだったり、文章を書くことだったり、
何か表現することって、怖いと思うことはないですか?
- 糸井
- じゃあ、僕から先に。
怖いですよ。
僕は、文章を書くことが仕事ですけど、
怖いし、好きじゃないです。
毎日嫌だけど「こんなこと考えたんだ」という文章を、
僕が書く以外に読むこともできないんで、
それで毎日書いている気がします。
毎日怖いし、毎日面倒くさいし、毎日嫌だし。
書かなければ攻撃されないのに、書くから責められる。
でも、同時に喜んでくれる人がいる。
何もしないっていうのは怖くないんですけど、
せざるを得なくてしてるのかもしれないですね。
ひと言で言えば、怖いです。今も怖いです。
- 女性
- ありがとうございます。
- 糸井
- 小鳥さんはどうでしょうね。
- 小鳥
- 僕も怖いですよ。
でも、糸井さんでも怖いんだなと思ったら、
ちょっと怖くなくなりました。
- 糸井
- 怖いからって、他の要素がないわけじゃないですよね。
「楽しい」とかもあるし。
小鳥さんは、写真を撮るのは好きですか?
- 小鳥
- ‥‥はい。
- 糸井
- 「はい」ですか。ずいぶん間が空きましたけど(笑)。
あの、僕はね、文章を書くのは好きじゃないんですよ。
それははっきりしてるんです。
- 小鳥
- へぇー。
- 糸井
- 何もしないで、人がやったことだけを眺めて、
楽しんでいたいんですよ。
だから、もし長い休みがあったら、
どれほど何もしなくていい場所を選ぼうか、
真剣に考えますね。
僕がバリ島とかを好きな理由って、
何もしないのに日が暮れていくからなんです。
「それなのに、なんでそんないっぱい
いろんな仕事をするんですか?」って、
きっと思われるでしょうけど、なんででしょうね。
- 小鳥
- (笑)
- 糸井
- 好きじゃないっていうことは、
言っちゃったほうが楽だったりします。
- 女性
- はい。ありがとうございました。
- 糸井
- 小鳥さんも、間があったのがおもしろかったね。
- 小鳥
- そうですね。
- 糸井
- なんだろうね。
仕事にしない時のほうが好きだったかもね。
- 小鳥
- そうなんですか?
- 糸井
- 僕はそうかもしれない。
思わぬところで他人が褒めてくれる時って、
ものすごくうれしいじゃないですか。
- 小鳥
- ああ、はい。
- 糸井
- でも、仕事になっちゃったら、
誰かに褒めてもらわないと
仕事にならないじゃないですか。
- 小鳥
- あぁ。
- 糸井
- その環境でいつもやっているのは、
楽なことじゃないですよね。
- 小鳥
- そうですね。
- 糸井
- たとえば、いろんなものを食べて評論する
グルメ評論家と呼ばれる人がいるじゃないですか。
山本益博さんという人がいるんだけど、
彼は、中華料理についてだけは書かないんですよ。
なぜかっていうと、何も考えずに、
仕事にしないで食べるジャンルが1つくらいないと、
全部が仕事になっちゃってうれしくないから。
だから、中華料理だけは評論してないんですよ。
- 小鳥
- ああ、そうなんですか。
糸井さん、東京にいる時に
何も考えないでいられる時間ってありますか?
- 糸井
- 家にいる時か。うーん、ずっと考えてるな。
一番考えているのは、他の人の作品を見ている時です。
- 小鳥
- あぁ。考えていらっしゃるんですね。
- 糸井
- 「いいな」っていうものが来れば来るほど、
「いいなぁ。どうして?」とか考えて、
ちょっと忙しくなるんです。
- 小鳥
- へぇ。
- 糸井
- ‥‥さて、こんなことでいいでしょうか。
金沢の街には、また改めて
ご飯を食べに来たいと思います。
- 小鳥
- 今日は、本当にありがとうございます。
途中からうなずくだけになっちゃったんですけど、
お客さんも、すごい楽しかったですよね?
- 観客
- (拍手)
- 小鳥
- ありがとうございました。
- 糸井
- ありがとうね。じゃあ、どうも失礼します。
以上で川島小鳥さんと糸井重里の対談はおしまいです。
ご愛読をありがとうございました!
2016-02-03-WED