第7回 津波と洪水。
話はそれるんですが、
津波に強い地域というのは、
場合によっては洪水にきわめて弱いんです。
海からの水を止めると、
山の上から来た水が溜まります。
両方がうまく調和しないんです。
例えば気仙沼は、大川の周辺、
粉砕されたとこが多いのですが‥‥。

糸井 そうです、そうです。
気仙沼は、川の河口の部分に
ものすごく広い低地があるんです。
大きな三角形のような流域なので、
上側の面積が狭い。
あの地形だと、上から豪雨が来ても
下でバッと広がりますから、
大洪水には強い、安定した場所なんです。
糸井 だから栄えたんですね。

ええ。ところが長大な底辺を持つ三角形だから、
下から狭い上部に津波が来ると、
一気に水位が上がります。
だから津波に弱い。
水害に強いところと津波に強いところは
合わないんです。
では、津波に強いところが
いったいどういうところかというと、
下の入口がすぼんでいて
上がバルーンのようになっている場所です。
そこにはどんな津波が来ても、
入口からはそんなに水が入りませんから、
広がって浅くなる。
ところが、そういうところは
大雨が降れば下流ですごい水害が
起こることになります。
東京周辺でいうと、鶴見川、多摩川。
大水害にきわめて弱く、津波には強い。

ですから、一方の軸だけで考えてしまうと、
1000年に一度の津波に備えようとして
100年に一度の豪雨で
崩壊するような町を作ることになります。
地形と水の動きを総合的に考えていかないと、
津波を防ぐ長城を作って
水害だらけになってしまう、
ということはあり得るんですよ。

大きな災害があると被害を受けるところは、
日本列島では「沖積低地」といって、
海沿いの川の運んできた泥でできた
平らなところに集中しています。
関東平野、東京も横浜もそうだし、大阪もそう。
今度、大被災を受けてしまった地域は、
北上川河口。
太平洋にはりついている沖積低地です。
それが総ナメにされてしまいました。

その沖積低地に住んでいる私たちが、
これからどうしていくのがいいのでしょうか。
温暖化で、海岸が上がってくるかもしれません。
豪雨の時代が来るかもしれません。
土砂の災害が来るかもしれません。
場合によっては、
100年、200年、500年先を見通した
計画が必要です。
そういう計画の中で、
沖積低地の緑をどうするか、
考えなきゃいけないとぼくは思います。

けっこうそこには総合的な、
「日本列島の沖積地の暮らしをどうするか」
という命題が隠されているんです。
清順 なるほど。
糸井 ニュースを見ていても、
「台風」やら「集中豪雨」という名前で
何%かは水害のことを報じていますからね。

名古屋で大水害のときも、ニュースで
「すごい風で、すごい雨です」
とレポートしていました。
その水は名古屋で降っている雨じゃないんです。
そこから100kmも200kmも離れた
岐阜で降った雨が流れてきている。
でも、ニュースでは川の流域の地図を出してきて
解説することはありません。

チャオプラヤー川の氾濫も、
タイのバンコクにどんどん水が来てしまった。
でも、なぜかバンコクの天気はいいでしょ?
いい天気なのになぜ水害になるんでしょうか。
何百kmも上流に降った雨が
何日もかけて下りてくるからなんです。
糸井 ああ、そうですね。
日本列島の水や土砂の災害を配慮した地形を
無視したまちづくりがいまだに続いています。
東北の復興はそれを踏まえてやらないと
大変に危ないと思います。
清順 ちょっと質問していいですか?
はい。
清順 もし仮に、300kmの緑の丘のベルトが、
東北の海岸線に続いたとします。
山に降った雨が洪水になったときは、
山の下に人が住んでいたらどうなるでしょうか?

緑の長城を作ってもいいけれども、
水害に弱くなるとわかっているんだから、
同時に、流域の山の管理を徹底するとか、
水を貯める遊水池や調整池をどんどん作るとか、
居住地を移動することを検討するとか、
セットでやらないとダメです。
清順 ですよね。「セット」ですよね。
なんか、「セット」という考え方なんだな、
というふうには、ぼくも思ってます。
だから逆に、合理的に考えるとすれば、
ベルトよりも丘のようなもののほうが
まだ水の逃げ道があっていいのかもしれませんね。
だから、瓦礫であちこちに
高台を作るといい。
その高台の上は、居住地ではなく業務領域にする。
こんな話も一時、ずいぶん出ては
消えちゃいました。

関東の多摩川や鶴見川の下流も、
何百年に一度の豪雨が来たら、
とんでもない被害になるとわかっています。
だから、まず、高台住居を作ってみる。
そんなふうに、日本列島の沖積地を
安らかに暮らせる場所に変えていくには、
豪雨、地震、津波を含んだ災害に
備えなくてはいけない。
そういう課題とセットで復興が見えてくる。
善意の塊で「一点集中」になってしまったら
全体が見えない対応をしちゃうことが
あるかもしれません。

糸井 うん。最近よく言われる
「シングルイシュー」で
解決しようとする、問題のひとつですね。
東京湾の水がでんぐり返るような
大津波が来たとしても、
東京湾はちっちゃいですから、
そんなすさまじい津波にはならないです。
だから、東京湾の沿岸で
三陸で起こったような津波と
同じことを心配することが、
科学的にどうなのかな、とも思います。
もっとおっかないのは水害。
今後、豪雨の時代になるって
わかってるわけだからね。
細川 ふむ。そうですね。
糸井 いやなこと聞いちゃったな。
そういうことも含めて、
もっと総合的に被災地の復興を
考えないといけません。
「複合的に考える場所」というのが、
いつも知恵袋として、あるといいですね。
でも、その役を今、国交省は
果たせないんじゃないでしょうか。
糸井 うーん。総合的なことを言ったって
票集めにはならないのかもしれないし。
ダメでしょうね。
学者も昇格の足しになりません。
糸井 結局、広告代理店型の人を
集めやすい話ばっかりになります。
それが悪いことばかりではないだろうけど、
いまの復興の話って、ほとんどそうなってる。
いかに人の心に突き刺さるように
表現するかという勝負になっちゃいますもんね。
左官屋さんとか施工管理屋さんとか、
そういう人たちが
行動を起こしてくれるといいなぁ。
左官屋さん的学者とか、いてくれるといい。
細川 いいですね。

糸井 怖いとか危険とか、そういうことをいえば
反応すると思っている人が多いからなぁ。
(つづきます。次回は最終回)
2012-10-02-TUE
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